大福 りす の 隠れ家

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--- 映ゆ ---  第42回

2017年01月16日 23時30分57秒 | 小説
『---映ゆ---』 目次



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- 映ゆ -  ~Shinoha~  第42回




タム婆が食事を終えるとシノハが椀を小屋の外に出した。 タム婆はまだ椅子に座っている。

「婆様、横にならなくて大丈夫ですか?」

「ああ、よく寝たからまだ座っていたい」 その言葉に両の口の端を上げた。

「では、話をしてもよろしいですか?」

「ああ、なんじゃ?」 

「さっき二人と話したのですが、ドンダダと男達の事を・・・」

ジャンムとタイリンから聞いた話をタム婆に聞かせた。
話を聞いてタム婆が頷き話し出した。

「ジャンムの父はドンダダに屈しておらん。 長に一番近い。 が、そんな風にやられておったのか・・・」

「タイリンの話だとジャンムもドンダダに言われっぱなしだという事です」

「うむ・・・ジャンムの母もドンダダには言いたい事を言っておるからかもしれんな」 

あの母様が、とその姿が頭をよぎった。 

「婆様、我はこの村の者ではありませんが、ドンダダのこともそうですが、村としてこの村は決して良い状況ではないと思います。 婆様が築いてこられたこの村、長に協力したいと思っています」 

タム婆が驚いた目をシノハに向けた。

「シノハ・・・」

「いけませんか?」

「わしが築いてきた村と?」

「はい。 婆様がおられなかったらこの村はすでに崩壊していたでしょう。 川や森の端を歩きました。 森や村の横の土に生を感じませんでした。 ですが、村が、人が居て生活が出来ているのは、婆様がずっと天と地に願ってくださったからだと思います」

「シノハ・・・」 己がシノハの事を知っている以上に、シノハが物事を考えていたというのが驚きであった。

「シノハ・・・何を知っておるのじゃ・・・?」 

「え?」 問われ何も思いつかない。

「そんな気がしたのですが、違いましたか?」 あまりにも軽い返事であった。

「そんな気?」 言うと、タム婆が腹を抱えて笑った。

(え? そんなに笑われる話をしたのだろうか?) 眉根を寄せる。


タム婆が笑いを納めるとザワミドから聞かされた話をしだした。

「ザワミドがそんなことをシノハに言ったのか?」 驚いた顔で聞き返す。

「はい・・・最初はとんでもないと断っていたんですけど、最後には婆様に相談して決めると言いました」

「ふーむ、どうしたものかのう」 杖の上に両の手を置いた。

「それで、今日タイリンとジャンムの話を聞いていたら、それも一つの手か、と思ったんですけど・・・それでもちょっと・・・」 苦笑いを作る。

「うむ、確かにシノハが女たちを誑(たぶら)かせることなんて、できんじゃろう」

「ば! 婆様! 誑かすのではありません!」 慌ててとんでもない言葉を打ち消そうとする。

「同じようなもんじゃろ。 女たちに上手く言って男たちを引きずり込んで、長側につかすんじゃから」 ニヤッと笑うと言葉を続けた。

「どうじゃ? ついでに気に入った女をオロンガに連れて帰らんか?」

「婆様!」 

ガタンと戸が開いた。

「なんだいシノハ、大きな声を出して」

「ほほぅ、いい具合に来たのう」 入ってきたのはザワミドであった。

「椀を下げようと思ったら、シノハの大声が聞こえたんですけど、もしかして話を聞いてもらえたんですか?」

「ああ、ついでに気に入った女を、オロンガへ連れて帰れと言っておったところじゃ」

「婆様また!」

「それはいい考えですね」 ポンと手を打つ。

「ザワミドさんまで何を言うんですか」 ガクリと肩を落とす。

「シノハの話だと、ドンダダが今まで以上に動いておるそうじゃが?」 シノハをそのままにしてタム婆がザワミドに話を聞く。

「そうなんです。 長が伏せっているのをいいことに、好き勝手しだしました。 長ももう少し思うままに動けるようになったら、村に行くと仰っていますが、その時に言い気がしないでしょう。 それであたしも焦りだしたんです」 

長の様子に不自由はないが、思うままにはまだ十分とは動けない。

「で、どうして女たちが出てくるんじゃ?」

「女たちはもともとドンダダについてるわけじゃありません。 ただ、男たちが色々言ってくるのに逆らうのが面倒臭くて、従っているだけなんです。 トビノイの葉のことでもそうです。 女たちは婆様の教えに心では従っていますが、男たちがうるさく言うから、必ず炙って使っているだけです。 まぁ、男たちって言ってもドンダダについている男たちですけどね。
それで今、女たちの間でシノハが気になって仕方がないみたいなんです」 

「シノハが気になると?」 小首を傾げる。

「はい」 クスクス笑い出して横目でシノハを見た。

見られたシノハはコホンと咳払いをする。

「最初は若い女たちだけだったんですけどね、今じゃ母親もですよ」

「昨日ジャンムの母様と話しただけです」 憮然とした顔で言う。

「シノハが昨日話した若い女たちはみんなに羨ましがられているし、ジャンムの母さんだってシノハに母様って呼ばれたって大喜びしてるよ。 それに年甲斐もなくシノハに見つめられて照れたってね」

「なんじゃ、タハダラがそんなことを言っておるのか?」 タハダラとはジャンムの母親である。

「見つめられた、って。 話をする時には相手の目を見るでしょう」 口と尖らせて言うが、寝耳に水と言った感じだ。

「だからね、口下手なら、その“見つめる” だけでいいんだよ。 見つめながら、男たちの気を変えてくれないか、って言うだけでいいんだってば。 あとの詳しい話はあたしがするからさ」 

口を開けかけたシノハより先に喋ったのはタム婆であった。

「何を言ってるんじゃ、ザワミド」 

タム婆が助け舟を出してくれるのかと、シノハが次の言葉に期待をする。

「口下手どころか、シノハはナカナカの修辞をふるうぞ」 

期待は簡単に散ってしまった。

「婆様―!」 


結局、ザワミドの言うやり方には乗らないと言い切ったが、他の方法で女たちの手を借りるかもしれないと話を結んだ。
ザワミドの返事は「じゃ、その方法ってやつを出来るだけ早く頼んだよ」 と言うことであったが、何の案があるわけではない。
シノハが頭を抱える横でタム婆も思案顔になっている。


深夜、小屋の中でうたた寝をしてしまった。
目を覚ますと(しまった灯りを消していないのに寝ちまった・・・) 灯りはタム婆から少し離れた所に油皿で灯してある。
心で言うと、何気なくタム婆を見た。

(うん?) 薄暗い中、タム婆の様子がおかしいように見えた。

油皿を持ってタム婆の顔を照らすと、額に汗がうっすらと浮かんで熱を帯びているようだ。

(しまった、今になって昨日のお疲れが熱に出てきた) 

すぐに外に出ると辺りは月明かりに照らされ灯なしに歩けるが、薬草小屋に入ると何も見えなくなってしまうだろう。 薬草小屋のランプに火を灯す為、油皿を手に持ち油がこぼれないようにそろっと歩きだした。
薬草小屋に入ろうと戸に手をかけた時、小屋の中から物音が聞こえた。

(こんな時間に誰だ?) ソロっと戸を開けると中にはトデナミが居た。

その様子を見ていた影が「ちっ!」 と舌打ちをして去って行った。
人気に気付いてトデナミが振り向く。

「シノハさん、どうしたんですか?」

「トデナミこそ、こんな時間に」

「夜遅くに男たちのケンカが起きて、薬を作っていました」

「ケンカ?」 

小屋のランプには既に火が灯されていたので、油皿を台に置く。

「ええ、もう収まったんですけど。 それよりシノハさんは?」 出来上がった薬の皿を2つ両手に持った。

「婆様が熱を出されました」 

吊るされている薬草をかき分け、ティカの葉を探しだした。

「え?! 婆様が?」 

「ええ。 お疲れが熱になって出てきたみたいです。 でも汗をかいておられたから前ほど心配をすることはないと思います。 トデナミ、あんまり寝ていないんでしょ? 皆の身体も大切ですが、トデナミ自身の身体を労わらなければ」 

足元の壺に入れてあったティカの葉を見つけ、一枚ちぎる。
タム婆の様子を聞いて安堵の息を吐き、手に持っていた皿を置いて一言いう。

「私は大丈夫です」 笑顔を返し言葉を続けたが、その笑顔が作られたものだとすぐに分かった。

「あの・・・」 トデナミの声にシノハが両の眉を上げた。

「婆様にお話ししました。 シノハさんに言った私の愚かなことを」

「言うことはないと言ったのに」 眉尻を下げる。

「婆様は私を責めるどころか、わしが悪かったと仰いました」 

聞いて驚いたが何も聞くまい。 これ以上何も言わせるまい。 だが、ただ一つだけは言おう。

「トデナミ、今度トデナミに似合う可憐な花を見つけたら必ず摘んできます」 

その言葉にやっと本当の笑みを返して、もう一度薬の皿を持った。 と、戸が開いた。

「やっぱりシノハさんだ」 入ってきたのはジャンムであった。

「えっ? こんな遅くにどうしたんだ?」 

「父さんの傷薬を貰いに」

「え? じゃあケンカしたっていうのはジャンムの父様か?」

「・・・うん」 

「今はタム婆様の元に戻りたいから、詳しい事を明日聞かせてくれ」

「うん。 あの・・・ドンダダがウロウロしてたから注意して」

「え!?」 思いもしない言葉であった。

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