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日本文化のユニークさ23:キリスト教をいちばん分からない国(2)

2011年06月06日 | キリスト教を拒否する日本
引き続き『ふしぎなキリスト教 (講談社現代新書)』をめぐって。

狩猟採集や小規模な農業によって成立する社会は、自然とのかかわりや部族の社会がそれなりに調和していた。それが異民族の侵入や戦争、帝国の成立といった事情の中で崩れ去ると、そこに何らかの秩序を取り戻すために、部族を超えた「普遍宗教」が必要となった。それが一神教であり、あるいは仏教や儒教であった。これらに共通するのは、それぞれの部族が信じていた神々を否定するということであった。

血縁的、地縁的な、小規模な原初的共同体が、自然との共生関係にあるような状態では、呪術や多神教が自然発生的に生まれる。しかし、異民族が侵入したり、多民族の帝国が生まれてくるときは、多神教の自然崇拝や部族特有の習俗にとらわれていたのではやっていけない。民族や部族を超えて妥当性をもつような「普遍宗教」が必要となる。

それまで信じられていた神々を否定し、放逐してしまうという一点で、一神教、仏教、儒教は共通するところがある。それ以前の世界は一度、壊され、そして再建された。再建したのが宗教であり、それが文明を作り、その文明が発展することで今の世界がある。

この本では、ユダヤ教やキリスト教が生まれてくる背景を、仏教や儒教にも共通する広い歴史的な視野から振り返るという文脈で、以上のようなことが数ページほどかんたんに語られていたにすぎない。しかしこの視点は、日本文化のユニークさを語るうえでこのうえなく大切なものだと思う。

狩猟・採集を基本とした縄文文化が、抹殺されずに日本人の心の基層として無自覚のうちにも生き続けている。それは、日本が大陸から適度に離れた位置にあるため異民族による侵略、強奪、虐殺など悲惨な体験をもたなかったからである。だからこそ、普遍宗教以前の自然崇拝的な心性を、二千年以上の長きにわたって失わずに心のどこかに保ち続けることができたのである。

「普遍宗教」などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどなかったのは、民族間の熾烈な抗争を経験することなく、大帝国の一部に組み込まれることもなかったからである。

その結果、日本人の心はキリスト教からはもっとも遠くにあり、キリスト教をもっとも理解しにくい位置にある。縄文的な心性は、キリスト教的な一神教を容易に受け入れることはできない。だからこそ、西欧の近代文明を大幅に受け入れて、非西欧社会で例外的に早く近代国家として発展しながら、西欧文明の根底にあるキリスト教は、ほとんど流入しなかった。

「普遍宗教」以前の心性が今もなお無自覚なレベルで息づいている日本の社会が、近代文明をを学び受け入れた優等生でもあったという歴史の皮肉。そこに日本文化のユニークさとクールさの源泉がある。マンガやアニメに夢中になる世界中の人々は、たとえ無自覚にせよ、日本文化のこのパラドックスに夢中になっているのだ。

《関連図書》
ユニークな日本人 (講談社現代新書 560)
日本の曖昧力 (PHP新書)
日本人の人生観 (講談社学術文庫 278)
古代日本列島の謎 (講談社+α文庫)
縄文の思考 (ちくま新書)
人類は「宗教」に勝てるか―一神教文明の終焉 (NHKブックス)
山の霊力 (講談社選書メチエ)
日本人はなぜ日本を愛せないのか (新潮選書)
森林の思考・砂漠の思考 (NHKブックス 312)
母性社会日本の病理 (講談社+α文庫)
日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)
アーロン収容所 (中公文庫)
肉食の思想―ヨーロッパ精神の再発見 (中公文庫)
日本人の価値観―「生命本位」の再発見


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