２２４．つーん

　住人たちも芯さんの手前、大声では言えないが、明らかにがっかりしてるみたいだ。
「ん？なんだなんだ？」
　長い左足を窮屈そうにダッシュボードに載せた芯さんは、いつもどおりくわえタバコでのらりくらりしている。
「なんでもないっす・・・」
　もう、なんでもいいや・・・
「ほら、行くぞ！このあと仕事なんだから、さっさとしろよっ」
「は、はいっ」
　芯さんの罵声にぼくは急いで荷物をトランクに載せると、助手席にちょこんと納まった。
「それじゃあ、みなさん。ありがとうございました！」
「たける、元気でな！」
「体、気をつけてくださいね！」
「ごはん、ちゃんと食べるのよ？」
「ハ、ミカケヨ！」
　ぼすぼす、助手席から出したぼくの頭を、いろんな手が叩いていく。
いってえ。
痛いけど・・・すっげえ嬉しいや。
つーんと痛くなった鼻。
ぼくはしょっぱい水をごくんと飲み込んだ。