吉田屋日本百貨店

とある時、とある街での物語

218.必要とされる理由

2012-02-13 21:01:52 | 日記
あっ!」
「たけるくん、君、ものを作るとき、普通のものさしで測ってるでしょ」
「そうです・・・ぼくの作るもの、ゆがんでますかね?」
 ぼくが心配そうな顔をするのを見て、宮さんは慌てて、いやいや、と首を振る。
「ううん、普通の人が見たらね、全然分からないよ。たいしたもんだよ。でもね、」
 宮さんは、照れくさそうに頭を掻きながら続けた。
「『道具と人は一期一会』ってね、ぼくの師匠が言っていたんだよ。君との出会いも一期一会、そして、その一期一会の君が、これから物作りの道を歩んでいく。恥ずかしながらも、ちょこっとだけ、ぼくはその道の先輩だから・・・」
「あざっす・・・!」
 彼が手渡してくれた定規をぼくはがばっとお辞儀して受け取り、それを日に透かして見てみた。きれいにやすられた肌に、目盛りが美しく並んでいる。
木の目の流れに沿って、無理をせず、無理をさせず。作り手が、木と対話しながら作った情景が浮かんだ。
「これ・・・手作りっすか?」
「うん・・・この間桜を見に日本に帰ったときにね、区画整理で伐採された桜があったんだよ。残った切り株が泣いててね。思わず工事の人に頼み込んで、少し譲ってもらったんだ」
「うわあ・・・」
 ぼくはこの定規に、宮さんの今までの仕事の一端を見た気がした。そして、彼がこの国でいろんな人に必要とされる理由が、いっぺんに分かった。
「ありがとうございます!」
「いやいや・・・」
 さらに照れくさそうに額の汗をぬぐう宮さんの隣から、にゅっと握手の手が伸びてきた。ぼくはそれをぎゅっと握り返す。

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