吉田屋日本百貨店

とある時、とある街での物語

217.直角定規

2012-02-12 13:25:37 | 日記
「そうだった!」
 今まで考えもしなかったことに、顔面蒼白でがたんと立ち上がったぼくは、その拍子に座っていたいすをひっくり返した。それを見て、
「おいおい」
 また住人たちはどわーっと笑い出す。
「まあまあ、なあに?」
 都子さんがいつもの調子で輪の中に入ってくる。
「都子さん、もうぼく、こっちに戻って来れないかもしれないです・・・」
 半泣きで言うと、彼女はこともなげに、
「そうねぇ。・・・でもまあ、会えるときは、会えるわよ。またお金貯めていらっしゃい」
 と笑顔。よく分からないけど、なんだか納まる形になってしまった。
「ああ、いたいた」
「ついに出発だね」
 いつもののんびりした声と、紳士な声が聞こえる。
「宮さん、佐々木さん」
「ん?なあに、これ」
 宮さんが大きなお腹をさすりながら、テーブルの上のガラクタを指差す。
「これ・・・皆わざと関税にひっかるようなものくれるんですよー」
 ぼくがここぞとばかりに不平を言うと、住人たちはぶうぶう言いながら、それでも楽しげに笑っている。
「そうかぁ・・・じゃあこれ、また荷物になっちゃうかな?」
「なんすか?」
 宮さんがズボンの尻ポケットから出したもの、それは木で出来た直角定規だった。

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