そこは、周りと変わらぬ工場地帯。
見渡す限りうす汚れた灰色の四角い建物ばかりで、道路はほこりっぽくくすんでいる。けど、その通りの両側にはピンクの花が咲き乱れ、さながら花のトンネルのようになっていた。
コンクリートの通りにところどころ申し訳程度に盛られた土から、どうやったらあんなに大きな木が育つんだろう、というくらいに精一杯腕を伸ばした木々の青々とした葉。そこから白から薄桃色、ピンクの美しいグラデーションが、ふっ、ふっと蒸気するように吹き出ている。
もう盛りは過ぎているのか、風が吹くたびにちらちらと、車の窓に花が落ちてくる。あっという間に、ワイパーの上に花が積もってしまった。
「ひゃぁ。花の大雨みたいね」
ケイさんがおどけたように言う。
「本当っすね」
休日だからだろう、ぼくらの他に行きかう車も人もない道。その道の上がまるで大雪の日のように、みるみるうちにピンクの花に覆われていっている。
「すごいなぁ・・・」
ぼくらは、車をピンクの雨に打たれるままに、だまってそれを眺めていた。しばらくして、ぶおーっという轟音を鳴らし、ピンクの花を蹴散らしながら通るトラックがぼくらの脇を通り過ぎて、今までぼおっとしていたことに、二人して気づいた。
「あ、そろそろ行きましょうか」
「うん、そうね」
ぼくはまたウィンカーを出し、ピンクの道からユーターンしたのだった。
戻りしなケイさんが、
「多分、これを見るために神様が迷わせてくれたのね」
とつぶやくのが聞こえた。