「グラン・ガラ・コンサート」(3月20日)-2


 第2部

 『エスメラルダ』より パ・ド・ドゥ
      
   田北志のぶ、ヤン・ワーニャ

  女性ヴァリエーションが有名なあのパ・ド・ドゥかと思ったら違った。どういう場面なのか分からない。ボリショイ・バレエが上演した全幕版の舞台映像(ナターリャ・オシポワ、アレクサンドル・ヴォルチコフ主演)があるけど、たぶんあれと同じ作品だろう。

  田北さんがエスメラルダ、ワーニャがフェビュスだと思う(違ってたらごめんね)。田北さんはジプシーっぽい衣装で、ワーニャはなんか王子みたいな衣装だった。田北さんは怯えたような、警戒した表情でいるが、ワーニャに促されて、タンバリンを持って踊る。しかし、ちょっと踊り終えると、卑屈な態度で床にうずくまってしまう。

  話はよく分からないけど、田北さんはやっぱり演技派だねえ。踊りだけでなく、役柄を理解し尽くした上できちんと表現しているのはちゃんと分かる。

  また、この演目でも、途中からバレエの神様が降臨した踊りになった。おどおどした態度でためらいながら踊っていたエスメラルダは、徐々に表情が緩んで、笑顔を浮かべて溌剌と踊るようになる。このへんの踊りが特にすばらしかった。

  たぶん、田北さんは音感も良いな。いわゆる「絶対音感」の持ち主なのかも。


 「On the way」

   ブルックリン・マック

  You Tubeに映像があったよ。→ ここ

  振付はDai Jian、2007年の作品だって。「コンテンポラリー作品」になるんだろうけど、私の嫌いな、クラシックのポーズや動きを、モダン・ダンスやマイムっぽい動きでつなぎ合わせている中途半端な作品ではなく、とても自然な振付の作品だった。

  マックは上半身は裸で、白いロング・スカートを穿いていた。映像では見えないけど、終始とても苦しげな表情で踊っていた。マックの身体能力がすごかった。力強さもさることながら、動きと動きとが連続していて、踊りの動線が切れない。

  今、映像を見返したら、振付自体は大したことないかな?でも、マックの強靭な踊りが振付の物足りなさを凌駕しちゃってる。こういうことってあるんだよね~。


 『ラ・シルフィード』第二幕より シルフィードとジェームスのパ・ド・ドゥ

   エカテリーナ・マルコフスカヤ、アレクサンドル・ザイツェフ

  マルコフスカヤはかわいらしく、邪気がないぶん厄介な妖精という感じが良かった。ジャンプなどの動きがやや大きかった。これはブルノンヴィルの振付なんだろうか?それとも、旧ソ連系のヴァージョンの改訂振付だろうか?

  ザイツェフは……自分に向かない踊りは踊らないほうがいいと思う。キルト・スカートのあの衣装を着てなければ、ジェームズだとは分からない踊り方だった。動きがとにかく大きすぎる。上半身が動き、ジャンプは見るからにデカく、足さばきも細かいとはいえなかった。

  第1部の『コッペリア』でもそうだったけど、この二人は演技で手を抜かないのがよかった。妖精であるシルフィードに人間の女性と同じ愛を求めるジェームズと、ただジェームズが気に入っただけで、他に何を考えてるわけでもなく、面白半分に人間の真似事をするものの、ジェームズが近寄るとさっと逃げてしまうシルフィードとのすれ違いが虚しかった。


 「グラン・パ ・クラシック」

   エレーナ・エフセーエワ、イーゴリ・コルプ

  衣装が二人ともとてもきれい。エフセーエワは濃いブルーのチュチュ、コルプは黒と淡いグレーの上衣、同じく淡いグレーのタイツ。特にコルプの衣装は、デザインと色合いが本当にセンスよかった。あれは自前の衣装なのかしらね。

  アダージョは最高の出来だと思う。エフセーエワのバランスは安定し、動きも音楽によく合っていた。もっとも、半分(もしくはそれ以上)はコルプの手柄だと思う。エフセーエワのバランスの軸をきちんと安定させた上で、自分も音楽に乗って踊り、エフセーエワと動きをぴったりと合わせていた。コルプの「ろくろ回し」も、いつまで回るのかと思えるほど、相変わらず見事だった。アダージョが終わると、客席から大喝采。

  ただ、コルプのヴァリエーション、そしてコーダは物足りなかった。第1部の『タリスマン』では、あれほど空を飛ぶように流麗に踊っていたのに、このヴァリエーションは、コルプにしてはありきたりな無難な出来だった。こういうお堅い踊りが嫌いなんか?

  エフセーエワのヴァリエーション。「グラン・パ・クラシック」は、高難度なバランスの技術が必要なのはもちろん、エレガンスが必要な点で、作品のほうがバレリーナを選ぶ難しい踊りだけど、エフセーエワはエレガンス以前に、バランスの技術自体がまだ不足していると思う。コーダでの回転も不安定で頼りなかった。

  でも、キレの良い動きが処々にあった。脚を高く鋭く上げたり、腕の動きを音楽とぴったり合わせて決めたりね。急場しのぎ的な粗い動きという感じもしたけど、マリインスキー・バレエの舞台で、借りてきた猫のように没個性な動きと演技の踊りを観るよりは、私はこっちのエフセーエワのほうが好きですね。


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