ギリシャ神話あれこれ:アレス

 
 暴力好きなタイプというのは、他にいくらでも方法があるのに、何かと尤もらしい理屈をつけて、結局暴力を選ぶ。最近では例えば、仔猫殺しのホラー作家の婆さん。
 こういう輩が、権力を持つのに最も怖ろしいタイプ。が、凶暴な個所を上手く隠しているだけで、同種の人間は今やそこかしこに横行しているように思う。

 アレス(マルス、マース)は戦争の神。同じく戦争を司る神にアテナがいるが、アテナが国家を守護する戦争、その知的な戦略を司るのに対して、アレスのほうは流血や殺戮、狂乱、破壊を司る。
 このため二人の仲は概ね良好ではない。アレスは、優秀な異母姉アテナに戦いを挑むも、ことごとくへこまされている。それどころか、戦勝の試しがそもそもない。武勇伝も聞かない。カッコ好くないエピソードばかり。 

 例えばトロイア戦争では、アテナの加護を受けたギリシア軍の猛勇ディオメデス(彼は神ではなく人間)に槍で刺され、凄まじい大声でワンワン泣き喚きながら、オリュンポスへと逃げ帰っている(で、父神ゼウスに泣きついて、逆に、我が子でなければ冥府の底タルタロスに突き落としてやるものを、と罵られる)。
 他にも、ポセイドンを父に持つ双子の巨人、アロアダイ(オトスとエピアルテス)に縛り上げられ、青銅の甕のなかに13ヶ月ものあいだ閉じ込められたこともある。ようやくヘルメスに救出されたときには、ヘロヘロの瀕死状態。……おいおい、軍神。
 
 で、ゼウスとヘラとのあいだに生まれた嫡男で、筋骨逞しい美貌の若神であるのに、無思慮で凶暴なため、とかく神々からも忌み嫌われ、厄介者扱いされている。
 が、美神アフロディテだけは、アレスのワイルドな美貌と肉体に惹かれたらしい。彼らは公認の愛人である。

 アレスは、アフロディテとのあいだに生まれた子、ディモス(恐怖)とフォボス(敗走)を従え、妹である不和の女神エリスと、殺戮の女神エニュオとを引き連れて、神馬の牽く四頭立ての戦車を駆って戦場へと出かける。のちにはキュドイモス(戦乱)とケレス(戦死)も従者に加わる。彼の行く先々にはすべて、災厄がもたらされるのだという。
 なんとも血生臭い蛮神。嫌われるのも無理はない。 

 マースは火星の名前。火星の衛星はディモスとフォボス。ちなみに、火星と同じく赤い星、蠍座のアンタレスは、「火星の敵(アンチ・アレス)」という意味なのだそう。
 
 画像は、ベラスケス「軍神マルス」。
  ディエゴ・ベラスケス(Diego Velazquez, 1599-1660, Spanish)

     Related Entries :
       アフロディテ
       アテナ
       エリス
       ゼウス
       アフロディテとアレスの密通


     Bear's Paw -ギリシャ神話あれこれ-
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« ギリシャ神話... ギリシャ神話... »