LE REGARD D'ALAIN DELON

アラン・ドロンさんの魅力を探ります。

CINEMA (1)

2006-06-17 | THE 80'S CINEMA
アラン・ドロンがまるで自分自身を投影するかのような
複雑な家庭環境からのし上がった屈折した心を持つ映画界の大スター
ジュリアン・マンダを思いいれたっぷりに演じる重厚なTVドラマ『シネマ』
を数回に分けてご紹介していきます。

この作品は1988年にフランスで放映されたTV作品で、
1話90分×4話の計360分にも及び、
日本では1992年にNHK・BSで4日間に渡って放映されました。
残念ながらそれ以降の再放送は一切無く、見逃した方にとっては幻の作品となってしまいましたが、
近年フランスでDVDボックスセットが発売されました。
(NHKでのドロンの声は当然ながら野沢那智で、誠に見事な吹替え演技を聴かせてくれました。)

今回は第1話『ベルリンのピアノ』です。

戦争中ある映画がきっかけでナチスの汚名を着せられ精神を患ってしまった実の母親
(ドロンのデビュー作『女が事件にからむ時』で共演したエドウィジュ・フィエールが扮しています。)
が永年入院している療養所をマンダが見舞いに訪れる場面から物語は始まります。
親子の複雑で悲しい過去が、この二人のやりとりを観ているだけで浮かび上がってくる
この数分のファーストシーンの語り口のうまさにまず唸らされます。

ここでのドロンの首に巻かれた青緑のマフラーの色合いが非常に新鮮です。
従来の映画作品では見せたことのなかったファッションでした。
(この作品でもドロンの衣装はZEGNAです。)

主人公マンダは母親の汚名を晴らすべく、
その原因となってしまった映画、『ベルリンのピアノ』を正確にリメイクすることに、
半ば偏執狂的な熱意を昔から持ち続けてきており、
いよいよ自分が彼の父親を演じることのできるぎりぎりの年齢に差し掛かってきた為、
これまで以上にその映画の製作に執念を燃やし、
周りのスタッフたちがそれに否応なく巻き込まれていく様が
時折コメディタッチも交えながら丁寧に描かれていきます。

マンダの行動は時に思いつくままのものであったり、また時には冷静に計算がなされていたりと、
非常に矛盾に満ちていて非現実的なやっかいな人物なのですが、
さすがにアラン・ドロンが演じると、これが全く違和感がなくかつ魅力的な人物になってしまいます。
過去の作品で言えば『個人生活』『プレステージ』の主人公が思い起こされます。

元銀行員の私が特に注目してしまうのがマンダが訪れた取引銀行の頭取室でのやりとりです。
マンダは『ベルリンのピアノ』のリメイクの権利を宿敵である映画製作者たちから買い取る為に、
経済的に追い込まれている彼らへの融資の保証人に敢えてなることで恩を売る作戦に出ます。
頭取が簡単にマンダに彼らへの融資残高を言うのは現実にはありえない話でいただけませんが、
その後頭取がマンダに「あなたの預金残高はいくらですか?」と尋ねても
マンダが答えることが出来ないというところは、
彼がかなりの資産家であることを暗に表しており、シナリオがよく描けています。
頭取がコンピューターのモニター画面で974万8千フランの預金があることを確認しますが、
マンダがまるで他人事のように一緒に画面を覗き込む所は笑ってしまいます。

「あれは駄作だった。」と認める自分の昔の作品で助監督をしていた男性を
いきなり『ベルリンのピアノ』の監督に依頼するシーンは、
ドロンが抜擢してきた若手監督たち(ロバン・ダヴィやジョゼ・ピネイロなど)
との出会いがこんな感じであったかもしれないと思い起こさせるものでした。

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2 Comments

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難しかったです! (ジュリアン)
2007-11-21 21:41:13
チェイサーさん いつもTB助かります。
この作品 いざパソコンの前に座ってみると
まとめにくくて難しかったです!
チェイサー様 見事にまとめておられますね。
素晴らしい!
6時間は長いかなってのが最初の印象でしたが
観始めると熱中しちゃいました。
ルルの美しさ 相棒ロッコ(この名前がまたGood!)とのコンビネーション 
懐かしきフィエールの怖いぐらいの存在感…
いい作品ですね、『シネマ』
返信する
ジュリアン様 (チェイサー)
2007-11-23 00:31:37
こうやって古い記事を発掘できるのも
ジュリアン様のおかげです。
ありがとうございます。

この作品は書くべきことが多すぎてまとめるのに苦労しました。
何とか読みやすいようにコンパクトな文章にまとめれたかなと思っています。

第4話の記事に投稿下さったTomo様のコメントが
また素晴らしいのでぜひご覧になってください。
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