LE REGARD D'ALAIN DELON

アラン・ドロンさんの魅力を探ります。

CINEMA (4)

2006-06-24 | THE 80'S CINEMA
第4話『母よ・・・』

この最終回は、それまでの3回のエピソードに比べると、
登場人物たち(特にヒロインのルル)の心理描写が不十分なこともあって、
かなり強引かつ唐突に物語が展開していき、
私としてはいささか不満の残る結末となってしまいました。

それでもいくつかのシーンは過去のアラン・ドロン出演作品や
アラン・ドロン本人との関連性が見え隠れし
ファンとして見応えのあるエピソードであることも確かです。
以下にそれらを列挙します。

別れた(あるいは捨てた)前の恋人カロリーヌが新しい婚約者とクラブで踊っている所を
マンダが近くに座ってじっと見て、彼女がそれに気づく場面は、
あの『高校教師』でのクラブのシーンを思い出させてくれます。

「俳優は好きでなったんじゃない。
他にできることがなかったからやっているんだ。
仕事は好きだ。コメディ以外はね。
業界の人間は皆好かん。人の生き血を吸う奴らばっかりだ」
と、マンダが恋人ルルに涙を流しながら告白するシーンは、
まるでドロンが自分の心情を吐露しているかのようで、このドラマのハイライトです。

ルルと共に警察で尋問を受けた際、
担当の刑事が「ジェーン・フォンダとの共演作がよかった」と言い、
それに対してマンダが「あのとき彼女は妊娠中で撮影は大変だったのですよ。」
と答えるシーンは明らかに『危険がいっぱい』のことを言っています。

映画「ベルリンのピアノ」撮影用トレーラーの中で、
自分が演ずる亡き父親の写真を観ながら、
鏡の前で被った帽子のつばを2,3回なでる仕草は、
あの『サムライ』や『ボルサリーノ』でのドロンが一瞬蘇ったようでした。

「この作品は実生活でのあなたそのままの姿なのではないでしょうか?」
もしこのような質問が一般の映画記者からドロン本人に向けられたとしたら、
きっと彼は平然とこう言ってのけると思います。
「いいや、僕はあくまでシナリオで書かれた人物を、そのまま演じたに過ぎない。
確かに一部似たところはあるけれども、実際の僕はこんな人間ではない。」と。

しかし彼がどんなにうそぶいてみても、
この作品には明らかにドロンが本人を「演じている」としか思えないような場面に数多く出くわし、
そういう意味ではドロンのコアなファンの人たちと
アラン・ドロンとの間において暗黙の了解の上で成り立っている作品と言えます。

最後にこのドラマには映画作品に匹敵するような見事なサウンドトラックを聴くことができます。
詳細はこちらです。(以前の投稿文を加筆しました。)
『CINEMA』

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4 Comments

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Cinemaに思う (Tomo)
2006-06-24 21:50:42
こんにちは、チェイサーさん。

テレビドラマ「CINEMA」の解説、興味深く読ませて頂きました。

ドロンさんは、当時、フランス映画界に対して、絶望感のようなものを抱いていたようです。自らの作品が、興行的に失敗作が続いていたのもその理由のひとつらしいですが。

それ故、嫌っていたテレビドラマへの出演を快諾したそうです。シナリオを読んで気に入ったようです。ライターも、彼の心をくすぐるようなシナリオを書いたということは、作品を見てお分かりのことと思います。彼のこの作品でのファションは、フランス的をイメージしたもののように見受けられます。過去のドロンファションとは明らかに異なる出で立ちでした。彼の実際の私生活ではないかと思わせる数々の場面、車の運転( 珍しく当時流行したメルセデス560SEL )、歯磨き、寝起きのシーン、せっかちな物腰、等、ある意味で、ファン心理を逆手にした表現をわざと見せたのではないかと思える作品の作り方は、いかにも計算が好きなドロンらしさをよく表しているようにも思えます。舞台もオンリーパリですし、フランスを主張したかったかのようにも見えます。とてもフランスらしい仕上げ方、というか、フランス作品ならではの雰囲気を十分過ぎるほどかもし出しているように見えました。ただ、ドロンさんの、ある意味、悪い癖で、過去の彼の作品のシーンをオーバーラップさせるシーンが確かに随所にちりばめられていたようです。まーこれは解釈の仕方でしょうが?つまり、過去の作品のモチーフを引きずるということは、新鮮な新しいものを創るというイマジネーションから逆行することであるとも言えると思えるからです。彼は、自分の自伝を書くことはナンセンスであるとしきりに言いますが、彼は、彼の過去の作品にそれを、暫時織り込み、映像を通して歴史に残そうとしているように思えてなりません。ですからあれだけの数の勝負をしているのだと思います。いずれにしても、彼は自分自身の立場をよく理解し、それをどのような形で後世に残すかということに傾注しているようです。

残念ながら、この「CINEMA」という作品、ドロンさんが事前に肝いりでプロモーションをしたにもかかわらず、フランス本国では、たいした視聴率を得ることはできなかったようです。

何となく、その理由は分かるような気がしますが…..

ドロンさんの持ち味を出せた最後の作品であるように私は思っています。年齢的なこともそうですが、嫌っていたテレビに敢えて、大きなスケールのテレビドラマでいどんだということ自体、彼にとってのフランス映画の終焉を意味していたであろうし、頑固な彼がテレビを受け入れざるを得なくなった訳で、ドロンさんの映画人生の一大転機であったことは確かであろうと思います。よりフランスらしく、よりドロンらしく、そしてより美しく。

返信する
ありがとうございます (Astay)
2006-06-24 22:40:05
チェイサー様

4回にわたり『CINEMA』の解説ありがとうございます

実は、私、NHKでの放送も観ておりませんで

再放送の問い合わせもしてみたのですが《無し》との回答いただきました

でも、どんな作品なのか観たくて、観たくて

フランス語も解らないのにBOXセットのDVD4枚組みを購入してしまいました

全く無謀です!

で、1枚目を訳もわからず鑑賞終ったとこでチェイサー様のこのブログ記事が

もう、私の為に書いて下さったの・・・な~んて思ってしまいました(笑)

グッドタイミングでしたね

この解説をもとに2枚目から鑑賞致します

いつも、いつも、ありがとうございます!感謝!感謝!

返信する
Tomo様 (チェイサー)
2006-06-25 01:29:33
おひさしぶりです。そして奥深いコメントをありがとうございました。

『シネマ』に関するTomo様の文章を読ませていただいて、私も全く共感する部分が多いです。このドラマはリアルタイムでは本国フランスの視聴者に受け入れられなかったとのことですが、きっと後年ドロンの代表作として語り継がれることになるに違いありません。今頃になってDVDボックスが発売される事自体、その証拠だと思っています。

過去の作品の残像を、観客に対して無意識を装いながら見せ続けるドロンの演技は、スターと言われる俳優たちに共通する宿命というものでしょうか。イーストウッドしかり、レッドフォードしかり、ニコルソン、高倉健、渡哲也、あげればきりがないです。

返信する
Astay様 (チェイサー)
2006-06-25 02:35:54
コメントありがとうございます。

私はこの作品を年に何回か必ず無性に観たくなります。

主人公マンダの、苦難を抱えながらもひるむことなくひたすら前向きに仕事に打ち込む姿勢を観ているととても勇気付けられるからです。

また一見癖のある身勝手な人物に思えて、実は他人に対する思いやりにあふれ、八方美人というのではなく誰彼と分け隔てなく接する(病院の看護師さんたちや自宅の家政婦さんへの接し方が好例。)彼のおおらかな人間性に魅かれるからかもしれません。

また全話ご覧になられたらレビューを書いてください。楽しみにしております。
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