雑木帖

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「合衆国が以前やって失敗したのと同じ”改革”」

2005-12-25 02:29:02 | 階層化社会・新自由主義
 斉藤貴男氏の『機会不平等』という著作によれば、1999年、「ゆとり教育」の名付け親である奥田真丈氏がアメリカの「経済と教育研究所」所長(大統領の秘書官もつとめた)と会った折に、日本の教育改革を説明すると、その所長はこう言ったという。
「合衆国が以前やって失敗したのと同じ”改革”を、ジャパンはこれから進めるのですね。今さら、なぜ?」

 アメリカでは70年代の「ゆとり」教育で国民の学力が著しく低下し、経済の非効率化と社会の荒廃をもたらしたのだという。その自省からアメリカは84年に、『危機に立つ国家(A Nation at Risk)』という政府報告書を作成し、初等中等教育の水準を高めることが急務だと訴えたという。しかも、日本の教育関係者でこのアメリカの政府報告書を知らない者はいないともいう。(『機会不平等』より)アメリカ人の所長が「なぜ?」と訝しく思ったのも当然だった。

 実は同じようなことが現在医療制度改革でもおこなわれている。日本の医療制度はWHOの2000年度の「World Health Report」で5つの評価指標から、フランス、イタリアとならんで最高ランクを与えられているが、37位というランクだったアメリカの医療制度を真似ようというのが今日本で進められている医療制度改革だからだ。しかも、ヒラリー・クリントン議員の医療制度改革の手本が日本のこれまでの医療制度なのである。
 「なぜ?」とアメリカ人の所長ならずとも言いたくならないであろうか。

 数年前、マイケル・ムーア氏は「日本は驚きだ」と言った。
「日本では誰かが病気になれば周囲が医者を呼んでくれる。そこがまるで違う。
 もしアメリカで病気になったら、”薬でも飲んで勝手に治せ”、”家を売って治療代を作れ”、せいぜいそんなところだ」と。
 いつか日本に行って日本の医療制度を勉強したいとも言った。
 以下のものを読んだりしていると、それが彼一流のジョークにとどまらず、たしかにアメリカの現状を言っていることだというのがわかる気がしてくる。
 何だか恐い気すらしてくるが、ほんとに「なぜ?」と言いたくなってくる。

「市場原理と医療」(日医ニュース)
李啓充[医師/作家(前ハーバード大学医学部助教授)]

  米国の失敗から学ぶ―第1回―「どうする日本の医療」(3)
  http://www.med.or.jp/nichinews/n170520h.html
  米国の失敗から学ぶ―第2回―「どうする日本の医療」(4)
  http://www.med.or.jp/nichinews/n170605j.html

もしも「混合診療」が解禁になったら……ナビゲーター 頼近美津子(日本医師会)
http://www.med.or.jp/kaihoken/video.html

アメリカ:個人破産の半数は高額な医療費が原因(暗いニュースリンク)
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2005/02/post_3.html


参考:
警告レポート、米国に蹂躙される医療と保険制度(文藝春秋)
http://blog.goo.ne.jp/c-flows/e/044ba891cf05967cdf29b1bb718b92f7


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2 コメント

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日本の医療、アメリカの医療 (らぷぽ)
2006-01-05 17:06:53
 コメントを書かせて頂こうと書き始めたのですが、掘り下げが不足なまま書くことに躊躇してしまうほど多くの課題があります。

 現在医療・福祉分野を4年生福祉大学(通信)で勉強しています。(以前は経営者の集まりの端っこで勉強した経験あり)その教材にはアメリカ医療の長所が前面に出され、顧客満足に徹した手法などが多く紹介されていたりします。商売をかじった自分にしてみれば、日本の医療が著しくその部分が欠如していて、しっかりした理念や採算性をみていないのではないかと考えています。



 ここでいう採算性とは、例えば医療品の在庫管理であったり、あるいは看護師さんたちへの動機付けであったり・・・今即座にまとめられないのですが、そういう、いわゆる一般的な会社で行われる教育ができていないような想いがします。

 決してお金が無い人に医療を施せないと、短絡的に考えるので無く、その問題以前の管理(情報も含めて)ができていないのではないかと想った訳です。

 長くなりますのでいつか書こうと思いますが、ある医師の方からこれからは市場原理もやむなし、ともとれるブログまであったり、あるいはスクーリングで公立病院の採算性が悪いのは、公務員の体質などと比較したり・・いわゆる、今日本の医療のいけなかった点を何とかしようという動きの教育がされているのかな?という気もしないではありません。

 しかし互いの長所、短所を冷静に平等に把握検討する教育が、いかに大切であるかも、ここにお邪魔して考えさせられました。

 ではひとまず、これで・・遅くなりましたが本年も宜しくお願い申し上げます。
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市場原理の側面 (c-flows@管理人)
2006-01-05 20:43:04
僕は医療には詳しくないのですが、今のアメリカの医療というのは医療技術というシステムに限れば、日本の縦割り医療(縦割り行政のように、科ごとに壁があって、総合的な良い医療が受けにくい、)のような弊害も少なく、情報も一元的に管理する機関があったり、その時点での医学技術における総合的な、最良の医療を受けられる可能性が日本よりも高いというような印象を受けます。

けれど、その医療を受けるには、高額な保険に入っている必要があり、全ての人がその恩恵を受けられるわけではないという問題があります。今のアメリカには、4000万~5000万人の、医療を受けられない人がいるといいます。

これは主に医療行政、保険制度に関わる問題であり、最初に挙げた医療技術とは別の問題です。ちなみに、アメリカの医療費は日本の5倍です。



らぷぽさんの言われているものは、上の二つとも多分また違う問題です。ある医療システムがあって、その中でいかに無駄をなくしていくか、改善をし、効率をよくし採算性を上げていくかという、運営の仕方のほうに多く関わる問題のように思います。

たとえば、いくら職員の質が向上しても、また採算性があがっても、アメリカのような保険制度だと、やはりアメリカであったら今と同じ4000万~5000万人の医療を受けられない人が出てきます。



実は、今日本が進めている「構造改革」にも同じ問題がひそんでいるように思います。

日本には全てを合わせれば1000兆円の借金がある、また、グローバル化した市場で勝たなければならない。そのためには新自由主義の社会にする必要がある。…

しかし、ここで峻別しなければならないことは、1000兆円の借金の解決のために新自由主義社会にするのか否か、ということなのです。理由はほんとにそれなのか。言い方をかえれば、それより他に方法がないのか。

それより他に方法がないと言われれば、国民のほうは諦めてしまうという心理があります。



この新自由主義社会化で、弱者は徹底的に痛みつけられ、それで浮いた金がその借金にあてられていきます。つまり、今の借金を作ったのは肥大化し、私物化された国の政治・行政機関なのですが、そのあと始末を国民にさせよう、しかも多くの弱者の切捨てによってそれをおこなおう、というのが今の日本が進めている「改革」の一面だと思います。しかし、何百兆円という予算を飲み込んでいる政府の特別会計は、未だにブラックボックスで、情報公開もほとんどなく、これからも改善されるかどうかも定かではありません。新自由主義化しても、それは今のところ変わらないのです。

それにしても、たとえば、らぷぽさんの指摘されていることは、市場原理を持ち込まないと出来ないことなのでしょうか。僕はこのへんも問題にしたほうがよいのではないかと思います。



『真実の瞬間(とき)』というアメリカ映画がありました。アメリカでの「薬害エイズ」の問題を追った映画です。

そのなかで、「医者が実業家になったら患者は誰をたよればいいのですか?」、という言葉がありました。エイズ汚染の可能性のある輸血血液を使用禁止にするか否かの会議の席での言葉です。けれど、この言葉は等閑に付され、1985年に輸血献血者にエイズ検査が義務ずけられるようになるまで、2万8000人にエイズ汚染の可能性のある輸血血液は使われ続けました。

市場原理にはこういう問題が最後までついてまわると思います。

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