雑木帖

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国のゆくえ:新聞と週刊誌の記事

2006-11-26 14:56:41 | メディア


 小泉前首相の言う「カイカク」は安倍首相のもとでもどんどん進んでおり、やっとマスメディアが問題にし始めた「格差の急激な拡大」「階層の固定化」「弱肉強食」という議題すら搦め手から利用するような政策まで出されている。
 しかし、新聞は相変わらず記者クラブ発の「官報」に堕したままで、これまでの轍を踏む愚を意識的にか無意識的にか繰り返している。

 今日は朝日新聞と週刊ポストの記事を並べることでその危険性を提示したい。

*上の朝日新聞の画像の見出しと題名は違うが記事本文は全く同じもの。

パート待遇「正社員と均衡」明記 厚労省法改正案 [朝日新聞] 2006.11.24

 非正規社員の待遇改善の柱となるパート労働法改正案の概要が23日、明らかになった。「正社員との均衡ある待遇の確保」を事業主の責務として初めて明記。正社員と仕事や責任が同じパートについては、賃金の決め方を正社員と合わせることを企業に求め、正社員への転換制度の導入や支援策も義務づける。

 パート法改正は、安倍首相の掲げる「再チャレンジ」支援策の主要テーマのひとつ。厚生労働省の審議会での労使の議論を経て、来年の通常国会に改正法案を提出する。93年の制定以来、抜本的な改正は初めてとなる。

 厚労省案では、これまで努力義務にすぎなかった昇給や賞与の有無など労働条件の明示を、事業主の義務に強化。労働者から待遇の説明を求められたときの説明責任も義務づける。企業側に行政指導をする場合の根拠となる。

 また、正社員との「均衡待遇」の具体策としては、労働時間や就業実態が正社員と同じパートに対し、「待遇での差別的な取り扱いを禁止」する。それ以外のパートについても、本人の職務や意欲、成果などに応じて賃金を決定し、残業や転勤があるなど正社員に近い人には、基本給や賞与の決め方を正社員と同じにするよう努めることを求めている。

 「正社員への転換の促進」も柱。企業の義務として、「転換制度を導入し、転換の推進に向けた措置を講じなければならない」とした。

 現行のパート労働法にもとづいて、企業の雇用のあり方を定めた「パート指針」でも、仕事や責任に応じた「正社員との均衡」をうたっているが、拘束力はなかった。今回の法制化で、人事制度の見直しや新たな負担増を迫られる企業側の反発も予想される。

 厚労省によると、05年のパート労働者は1266万人で、雇用者の4人に1人にあたり、非正規社員の7割を占めている。一方で、時給は、正社員を100とした場合、女性が69.0、男性が52.5にとどまる。従来は主婦による「家計補助的」な労働と見られていたが、男性や世帯主のパート労働も増え、担っている仕事も基幹化が進んだことから、待遇改善が課題になっていた。

 しかし、改正案は正社員に近いパートを制度設計の前提としており、「子育てなどで短時間労働を余儀なくされている低賃金のパート労働者の待遇改善が置き去りにされる」との指摘もある。


パート労働者、年金・保険など処遇見直し課題 [朝日新聞] 2006.11.24

 パート労働者の待遇改善を巡っては、低い労働条件の改善や正社員化のほか、厚生年金への加入などが政策課題に挙がっている。労働条件の改善についてはパート労働法の改正で道筋をつける形だが、今後は厚生年金加入の基準作りという難題が控えている。

 パートの厚生年金加入について、自民党の丹羽雄哉総務会長は23日、京都市内での講演で、労働時間が正社員の4分の3(週30時間)以上の人に限られているいまの規制を「20時間以上」に緩める私案を発表。(1)勤続1年以上(2)月収が厚生年金の下限である9万8000円以上(3)正社員と同等の管理業務に携わる人――を対象にすべきだとした。

 丹羽氏は「従業員300人以下の企業には当面適用を見合わせる経過措置を設け、現場の実態に即した対策を検討」とも語った。政府・与党は年内に方針をまとめ、来年の通常国会に法案を提出する考えだ。

 だが、関係者の合意形成は容易ではない。04年の年金改革時には、パートに依存する流通・外食業界が保険料の負担増を理由に強く反発し、頓挫した経緯がある。通常、厚生年金とともに加入する健康保険も合わせれば、本人、企業の保険料負担はそれぞれ収入の10%以上となる。手取りの減少に直結するため、労働者側に必ずしも歓迎されるとは限らない。

 また、厚生年金の対象にならないパートに対しても、厚労省は国民年金の保険料を給与から「天引き」するなど、企業への協力を求める考え。負担が重なる企業の反発も予想され、調整難航は必至だ。

『週刊ポスト』 2006.12.01号

 「年金改悪」が「再チャレンジ支援」の正体だ!
 「パート主婦も年金保険料14万円負担」でサラリーマン家庭から“子育て資金”が奪われる


 …(略)…
 政府・与党の本音は[2](*パートの厚生年金加入)の実現にある。安倍首相らはこれを「再チャレンジ支援の一環だ」と胸を張る。厚生年金の加入基準を緩和して、現在、厚生年金に加入していないパート労働者を加入させるという。一見、弱者にやさしい政策に見えるが実態は全く逆だ。
≪年金博士≫の名で知られる社会保険労務士の北村庄吾氏が解説する。
「なぜ政府がパートを厚生年金に入れたいかというと、企業が正社員を減らしてパート労働者を増やしたため、厚生年金の保険料が思うように集まらなくなったからです。パート労働者を支援するというより、保険料を集める方便という意味合いがずっと強い」
 パート労働者の多くはサラリーマンの妻である。大増税と不況の中、家計を支えるために共働きを選択する家庭は増えている。これまでの制度では、パート主婦の年収が130万円未満なら、厚生年金に加入しなくても、夫の加入する厚生年金から基礎年金(国民年金)分の保険料が支出されているとみなされ、基礎年金を受給する権利が得られた。これが「3号被保険者制度」である。
「ところが、与党案では年間65万円以上稼ぐパート労働者は厚生年金に加入させ、保険料を負担させるとしている。確かに長く働いて、それなりの額の厚生年金を受給できるならメリットもありますが、当面の生活費の足しに主婦が一時的に働いているような家庭にとっては、手取りは大きく減るし、年金額もほとんど増えないので打撃のほうが大きいでしょう」(北村氏)

 パートは1年間でクビにされる?

 厚生年金に加入すれば、3号被保険者のメリットを失うばかりでなく、夫の健康保険からも独立し、自ら保険料を負担しなければならなくなる。『家計の見直し相談センター』の藤川太氏(ファイナンシャル・プランナー)はこう試算する。
「新制度ができれば、月に10万円、年収120万円のパート主帰の場合、年金+健康保険料で年間約14万円が天引きされます。40歳以上なら、介護保険料も7000円ほど取られる。この金額は、多くの子育て家庭がこつこつ続けている学資保険の基本プランと同じくらいです。制度改正で学資保険がそっくりなくなると考えると、いかに痛手かわかるはずです。
 パート主婦の多くは、支出が過大で負担に苦しむ子育て世代です。家事、育児をしながら働き、少しでも家計を助けようとしている人から毎月1万円以上も奪うことは、政府が掲げる少子化対策や格差是正にマッチしているとは思えません」
 しかもこれらの保険料は労使折半だから、同額の保険料を企業からも取ることができる。つまり、国側から見ればパート主婦1人当たり30万円近くを巻き上げるオイシイ改正なのだ。
 この制度改正は、前回の年金改悪でも議題になりながら実現しなかった経緯がある。ひとつは長引く不況の中で家計の負担増が大きすぎるという理由であり、もうひとつはパート労働者を多く抱えるスーパー業界などが保険料負担増を理由に猛反発したからだ。
 今回、業界の反対はあまり大きくないが、前出・北村氏は、その裏で企業側が悪質な「パート労働者隠し」を計画している危険性を指摘する。
「新制度では、年収とは別に厚生年金加入基準を『週20時間以上』としている。そこで企業側が、パートに“週20時間以上は働かせない”と、不当に労働時間を制限する可能性がある。
 また、政府・与党は企業側の反発を予測して、『加入基準を緩和するかわりに、1年未満の短期労働者は厚生年金から除外できる』という特例を検討しています。
 これが実現すれば、企業側は保険料負担をしたくないために、1年ぎりぎりでパートを解雇するケースが急増するでしょう。
 パート主婦は、働きたい時間だけ働けず、1年経てば解雇の危機に怯え、何とか継続雇用されれば保険料をたっぷり取られる──それが改正の正体なのです」
 …(略)…


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10 コメント

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Unknown (ゆりかりん)
2006-11-26 23:46:48
現状として、派遣がこれほどまでに幅を利かせて、労働者達の待遇が劣悪になることに猛烈に拍車をかけている労働環境にあって、これは、そうした労働環境において更なる劣悪化を助長する算段が、裏で例の如く取引されているとしか言いようがありませんな。
今でも、既に(パートやアルバイト、契約社員などの人材の内の)派遣は多くのシェアを占めていますが、こうして、一見雇用する側に保険のリスクを背負わせるように見える施策は、実際には大手企業にとっては、大した痛手を受けないと思います。
なぜなら、パートやアルバイトなど全てを、保険の適用外と見なす派遣で補えば済むのですからね。
もし、雇用者に保険の義務が果たされていなくても、「ウチは関係ない!外注している派遣会社の手落ちだ」と言い放てばそれで済むわけで。
・・・ま、派遣会社も派遣会社で、マトモな所は極僅かだし、こうしたシステムを勤勉に守る所は少ないと思われ、結果、やはり、労働者の側が、その弱みに付け込まれて・・・・・ということに一層の拍車をかけることに繋がっていくと思いますね。

より深刻な劣悪労働者たちを増産するシステムとしか言いようがありませんな。
返信する
ゆりかりん さん (雑木帖@管理人)
2006-11-27 21:47:22
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2006年 11月 27日 17:49:13
自民税調が総会、法人減税が先行 - 東京
http://www.afpbb.com/article/1126210
【東京 27日 時事通信社】自民党税制調査会総会であいさつする津島雄二会長(中央)。2007年度税制改正作業が本格化した。年末に向けた税制改正作業は、法人減税が先行する見通し。(c)時事通信社
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多くはリストラ効果で空前の利益をあげている大企業に必要なのだそうです。
一方で、そういう大企業からの政治献金の再開もあり、その献金はこの減税分からでも拠出されるのでしょうか。
マネーロンダリングというか…、横領みたいなもんですね。


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教基法改正「支持得られる」、安倍首相 - 東京
http://www.afpbb.com/article/1126208
【東京 27日 時事通信社】自民党の全国広報本部長会議で安倍晋三首相(中央)は、教育基本法改正案について「なぜ必要かを国民に説明する責任もあるし、説明すれば必ず支持していただけると確信している」と述べた。(c)時事通信社
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去年のニュースかと思ったら…。
今日のニュースです。
普通「説明責任」は法案審議などの過程で行うものなのですが。強行採決のあとで言われても。
むちゃくちゃな政権です。
返信する
クズ政権を倒そう! (奇兵隊)
2006-11-28 22:54:15
>普通「説明責任」は法案審議などの過程で行うものなのですが。強行採決のあとで言われても。
>むちゃくちゃな政権です。


どこまで国の最高機関である議会を蔑ろにするのでしょうか?
デタラメ極まりないですよ。
こんな政権を放置したら、冗談でなくチリのピノチェト政権やアルゼンチンのビデラ政権の様に軍事政権でも成立し兼ねないですな。

軍政が成立してしまえばこの国は終わりですが、その兆候が見えたら非合法手段に訴えてでも倒さねばなりません。

PS 道路特定財源の一般財源化反対!!!
返信する
奇兵隊さん (雑木帖@管理人)
2006-11-29 00:19:07
はじめまして こんばんは

> 非合法手段に訴えてでも倒さねばなりません。

これに対し、
「そうですね、ブッシュの時のように、プレッツェルを官邸に贈りましょう」
と冗談を言えば、「共謀罪」でお縄ですね。
そういう世の中にはなってもらいたくないものです。

「世界に平和を―――ブッシュにプレッツェルを」
http://www.jca.apc.org/~p-news/YUUJI/germanyprotester.htm
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この記事を読んで (高菜ごはん)
2006-12-01 22:59:25
どれだけの弱者が、今まで以上の搾取が始まるということに気づけるのでしょうか・・・

郵政民営化のときもそうでしたが、常に弱者は気づかずに、その政策を誰よりも支援(賛成)するという悲しい矛盾をなんとか断ち切れるようにしなければ!
返信する
高菜ごはん さん (雑木帖@管理人)
2006-12-02 03:46:16
日本でサービス残業を合法化させようという「ホワイトカラー・エグゼンプション」に関し、興味深い指摘が次のものにあります。

『from 911/USAレポート』第279回
「アメリカの制度をマネするな」 冷泉彰彦:作家(米国ニュージャージー州在住)
http://www.asyura2.com/0610/bd46/msg/597.html

冷泉氏は、アメリカの「ホワイトカラー・エグゼンプション」は、「管理職・基幹事務職・専門職」の「残業手当の適用除外」を定義したものであり、全てのホワイトカラーを対象としているものではない、と警鐘を鳴らしています。
しかも、アメリカではこの「管理職・基幹事務職・専門職」の認定には厳格な要件をクリアする必要があるといいます。

・管理職=「二人以上の部下に関する、採用権限を含む管理監督」を行っているかどうか。
・基幹事務職(総務、経理など)=「非定型業務、自由裁量、自主的な判断」が主要な業務であるか。
・専門職=「明らかな専門的教育に裏付けられた専門性、もしくは独創的な技能の発揮」

さらに、
『「専門的な教育を受けた」という事実などの客観的な根拠が求められているということです。管理職にはMBA、経理専門職にはCPA(公認会計士資格)、法務部門の管理職にはバー(司法試験)などの公的な学位ないし資格が要求されますし、資格がない場合はそれ相応の職歴など、そして専門技術者の場合はそうした教育を受けたという事実が要求されます。逆に言えば、履歴書にはなんの根拠もない人間に「権限を与えているから」という理由で時間外手当を払わないのはダメということです』(文中より)

冷泉氏はこうした要件を満たしていない社員に対し残業代の支払いをしない場合は、企業は訴訟などで大変なダメージを受けるようになっていると言い、しかし日本での厚生労働省の労働政策審議会の議論などを見ると「アメリカでは金額で切っている」という前提で話が進んでいるようで、これは事実の半分も語っていないものと言います。

ブッシュがこの「ホワイトカラー・エグゼンプション」の適用範囲を広げようとしているという話も聞きますが、とにかく、アメリカでの厳格な運用にはふれず、「年収400万円以上に」(日本経団連)、「年収1000万円以上に」(厚労省)だのと言っているのは、金額のほうに注意を向けさせることで、アメリカでのこの制度の本来の趣旨を気づかせさせまいとする策略なのではなかろうかとも思ったりする次第です。

記者クラブに冷泉氏のようなジャーナリストが乗り込めるようになると状況はだいぶ変わると思うのですが…。
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お久しぶりです。 (高菜ごはん)
2006-12-16 22:40:12
コメントへの返信ありがとうございます。
しばらくBLOGを見る時間がなく、返信が遅れてしまいました。

政府は詳細をベールに包みつつ、
詳細の勉強をしようとしない今の人たちが
勘違いしやすいような言い方をしてますね。
(ちょっとくどい言い回しになりましたが・・・)

最近は、様々な関係性での利害対立関係によって
向上してこう的な政策が増えてきており、
ギスギスした人間関係と格差だけが増えてきている気がします。

食い止めるための方法を
みんなでもっと考える必要がありますね。
返信する
高菜ごはん さん (雑木帖@管理人)
2006-12-16 23:42:22
コメントをありがとうございます。
先月末から仕事が忙しく、ブログの更新もままなりません。
しかし、「共謀罪」が今期国会も通過せず、ほっとしているところです。

> 政府は詳細をベールに包みつつ、
> 詳細の勉強をしようとしない今の人たちが
> 勘違いしやすいような言い方をしてますね。

実に的確な明快な表現です。
ほんとうにそのとおりです。

試行錯誤を繰り返しながら、それでもネットは影響力を強めていっているのが現実であり、新聞・テレビも無視はできない存在となっているように思います。
けれど、たたかいはまだこれからというふうにも思います。
返信する
マスコミとネット (高菜ごはん)
2006-12-19 02:40:37
私が参加しているTrend Reviewというblogは会員制で様々な記事をアップしているので、毎日続きますが、一人でこれだけの記事を継続させていくのは大変ですよね。

最近はちょっとずつ良心的な(?)マスコミ人が、マスコミ内部のオカシさをネット上で発信するようになってきたので、これを弾圧する動きが増えることで、一波乱ありそうですね。
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高菜ごはんさんへ (雑木帖@管理人)
2006-12-19 23:56:13
4、5年前は新聞やテレビの記者、ディレクターなどが「2ちゃんねる」によく書き込みをしていました(ここ3年間くらいは「2ちゃんねる」にいっていないので現在はどうかわかりません)。
共同通信の記者は、「狂牛病」に感染した可能性のある女性の記事を書こうとして上から止められた、みんなネットで広めてくれ、と書いていました。
「池田小学校事件」でテレビ局ディレクターが、あやうく難から逃れた児童たちにレポーターたちがひどいインタビューをしたことで非難が沸き起こったとき、テレビ局上層部にもっと言ってやってくれ、現場の人間はそんなことはやりたくないのだ…という書き込みをしてました。

しかし、総じて、記者たちの書き込みは真面目、そしてある意味前向きでした。ことによると、彼らのほうがネットに何らかの希望を強く持っていたのかもしれません。
「…いたのかもしれません」と過去形で書きましたが、今はもうそういった希望をネットに抱く記者はほとんどいなくなっているのではないでしょうか。

僕は、双方が切磋琢磨して、良い緊張感のなかで、今のマスメディアの状況を変えていくようなものになればと考えます。
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