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雑木帖

 ─ メディアウオッチ他 ─

メディア・リテラシー:オーソン・ウェルズの『宇宙戦争』

2005-12-03 23:10:03 | メディア
『情報操作のトリック』川上和久著に次のようなことが書かれている。
 1938年の10月30日、アメリカのCBSラジオがオーソン・ウェルズのプロデュースで、ニュースとドキュメンタリー形式で火星人の地球襲撃を放送した。
「宇宙戦争」と題されたそれはアメリカをパニックに陥らせた。本当のことだと思い車で逃げ出そうとした人が続出した。
 社会心理学者がその時のことを分析し興味深い結果を出している。火星人の来襲を信じたのは教育程度の低い人に多かったという。教育程度の高い人は他の放送局の放送でも確かめたり、大きな被害を受けているという地域の人に連絡をとってみたりして「宇宙戦争」が作り物であるということを知ったという。
 教育程度が高い人はある情報をそのまま鵜呑みにせず、他の可能性も模索しそれが真実がどうかを検討をするのだという。与えられた情報に関し、様々な可能性を吟味し、一面的な情報では動かされにくいともいっている。

 僕はこれを読んで「メディア・リテラシー」の受け手の立場そのままだと思った。
 しかし、「教育程度が高い」と「メディア・リテラシー」はイコールではない。中世の『魔女狩り』では世の教育程度の高い知識人たちは加害者側にいた。問題を解決したのは教育の程度の低い庶民たちであった。彼らの良識であった。今の世でもあまり変わらない。「勤勉は馬鹿の埋め合わせにはならない。勤勉な馬鹿ほどはた迷惑なものはない」(『馬鹿について』ホルスト・ガイヤー[ドイツの精神科医だった人]著より)知識人たちであふれている。「メディア・リテラシー」とは、自分も本来はそういう馬鹿の一人であり、しかしその馬鹿の一人にならないように努力をするというところから身につくものなのかもしれないと思う。

 ところで、『メディアのからくり』保岡裕之著に、2001年に読売新聞社が行なった「新聞の信頼度」に関する世論調査のことが書かれている。それによると、日本人の9割が新聞を信頼し、7割が「新聞は公平な報道をしている」と考えている。また、「世の中の出来事を正確に知り、必要な知識を得るのに役立つメディア」には、83%の人が新聞を挙げている。「信頼できると思うメディア」は新聞が76%、民放テレビが34%、NHKテレビが82%となっている。
 新聞に対する信頼の8割後半から9割前半という高い水準は、この調査の過去20年間あまり変わっていないという。
 一方でアメリカにおいて同種の調査をすると(ギャラップやハリス・インタラクティヴなどが行なった過去10年間の世論調査など)、新聞やテレビなどのメディア信頼度は20%以下であり、5位や6位以下──時には10位以下──にランクされるという。ではアメリカ人が信頼するのは何かというと、「教会、病院、裁判所や司法システム、学校や教育の現場」だという。
 これを知った上で次の統計を見ると唖然としないであろうか。

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 各国の発行部数・紙数

 世界の国々と比較した日本の新聞のデータです(各国データは2004年)。ここでは発行部数は各国とも朝刊、夕刊をそれぞれ1部として計算しています。日本の日刊紙の発行部数は中国に次いで世界2位、人口1,000人当たりの日刊紙部数もノルウェーに次いで世界2位です。世界的に見ても、日本の新聞は際だって強力なメディアであることがわかります。

▼ 発行部数(千部)


▼ 発行紙数(紙)


▼ 成人人口1,000人当たりの日刊紙部数(部)


上は「日本の日刊紙の発行部数は世界トップクラス(新聞 AD Data Archives)」http://www.pressnet.or.jp/adarc/data/4etc/02.html より
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 日本の発行紙数が極端に少ないのは、新聞業界が「記者クラブ制度」や「再販制度」などで、日本で残る最後の「護送船団方式」で守られている業界だからだ。先月も、滋賀県でそれまでなかった地元紙を目指して立ち上げられた『みんなで作る新聞社』(滋賀県大津市におの浜4丁目、資本金4億1000万円)http://www.shiga-np.jp/ が自己破産で事務所を閉鎖した。「休刊のおしらせ」のページには次のように書かれている。
本紙は、創刊前の準備段階より、全国通信の配信が受けられない、
記者クラブへの加盟ができないなど新規参入に対するハンディを抱えておりました。
また直近では、発刊の実績が6カ月未満ということで公職選挙法により選挙報道が
できないということにもなりました。
こうした背景もあって、充実した取材報道体制、安定した購読部数・販売力、
資金などの総合的な力を十分に発揮するには至りませんでした。
 それにしても日本の発行紙数と発行部数の対比はアメリカなど他の国とくらべて異様である。
 次の3つの表は「読売新聞がもし一つの市場だったら:1000万部の意味 (読売新聞 広告ガイド)」 http://adv.yomiuri.co.jp/yomiuri/tokusyu/tokusyu01.html のデータより作成したもの。



 ちなみに、世界の新聞の発行部数ランキングは次の通り。



 いずれにしろ、日本の大新聞の市民に対する影響力は非常に大きいといえる。しかし、その大新聞に書かれている記事のクオリティはどうであろうか。大きな影響力に見合ったものになっているのだろうか。
 たとえば次の論考を参照すると唖然とせざるをえないのではなかろうか。

 メディアの情報操作 --狂った評価指標--
 http://www5a.biglobe.ne.jp/~NKSUCKS/johososa.html
 新聞記事徹底分析「大新聞は何を伝えているのか」
 http://www5a.biglobe.ne.jp/~NKSUCKS/news-ana.html
 情報の洪水による洗脳 ー記者クラブ問題の今日的問題ー
 http://www5a.biglobe.ne.jp/~NKSUCKS/kishakurabu.html
 現実的な改革案 ー新聞記者に言論の自由をー
 http://www5a.biglobe.ne.jp/~NKSUCKS/genron.html

 結局のところ、大新聞・テレビが批判の欠けた記者クラブの「官報」で埋め尽くされている以上、統計に表れているように、たかだか数紙の大新聞、そしてテレビに高い水準で信頼をよせる日本の市民の世論の動向などは、多くは官僚などのごく一部の人間たちによって決められているともいえないか。
 元読売新聞記者だった黒田清氏はこう言ったことがある。
「はずかしいけれど、そう言われてもしかたないと思いますよ。特に私は読売新聞にいましたから。読売新聞の幹部がどういう考えで新聞をつくっているかというのは、社内に発表される社内報で知っていますから。それに私自身が辞める前は編集局次長で首脳会議に何年か出席していたわけですからね。その時に驚いたのは、新聞記者、ジャーナリスト、マスコミの役割は──あの人たちにはジャーナリストもマスコミもみんな一緒です──政府が行政を行うのをサポートすることだ、と言われたことです。私は三十年以上政府権力をチェックするという考え方だったんですけれど、最後の数年は、サポートするんだとトップは考えて紙面を作るようになっていた」(『日本との対話:不服の諸相』ロナルド・ドーア編より)
 またかつて宮沢喜一・元総理は新生党の小沢一郎氏について次のように語った。
「このようなマスコミの全盛の時代は、権力者が国論を右にも左にももっていきやすい状況なのではないか。日本には先の大戦に入る過程もそうだったけれども、そういう危うさがある。一つの動きになびいていく。したがって力で政治をやっていくのはきわめて危険だ」(『時代を撃つ』立花隆著より)
 今は小沢一郎氏などよりももっと強権的で裏のありそうな小泉純一郎総理を、日本の市民が8割から9割、信をおくというメディアがヨイショしている(参考 「小泉首相の対米従属路線」)。また多くの市民はその小泉政権を支えている公明党=創価学会についてもほとんど何も知らされていない。(参考   
 少し前の、異様な狂乱だった総選挙は、上に述べてきたようなことからも考えなければならないのかもしれないと思う。

参考:
リストラの米新聞、規制に守られる日本(My News Japan)
http://www.mynewsjapan.com/kobetsu.jsp?sn=353
東京地裁が申し立てを却下 「世界の非常識」記者クラブを追認(My News Japan)
http://www.mynewsjapan.com/kobetsu.jsp?sn=347
ジャーナリズムとは言えない新聞の正しい読み方(週刊現代)
http://blog.goo.ne.jp/c-flows/e/a7a569e8de31bdca67ce8c30f1605ee7


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