豊後ピートのブログ

元北アルプス槍ヶ岳の小屋番&白馬岳周辺の夏山パトロールを13シーズン。今はただのおっさん

ストック依存症

2005年11月10日 | 山ネタ そのほか
先日ツアー登山のガイドをしていた時のことです。登りはそこそこのペースで歩くのですが、下りと平地が異常に遅いお客さんがいました。坂を登り切って平坦な道に入ると、スピードが落ちるのです。

そのお客さんはダブルストックでした。ストックを丁寧に突いていないと歩けないらしく、「そんなところはストックに頼らない方が早いですよ」とアドバイスしても、「この方が歩きやすい。俺のスタイルだ」と、全然言うことを聞いてくれません。

なぜ遅くなるのかというと、ストックを突く場所を一生懸命探しているからです。登りならばみんなペースが落ちるので問題ないのですが、平地や下りで途端に全体のペースを下げてしまいます。

結局、下山が1時間ぐらい遅れました。

これは私が出会ったお客さんの中でも極端な例ですが、ストックに頼り過ぎで危なっかしい人は大勢見られます。

下りで前傾姿勢になり、ストックを思い切り先に出しながら歩く人がいますが、これも転倒・転落の原因になりかねない危険な歩き方です。ストックの先が何かの拍子にはずれてしまった場合、前傾姿勢で体重がかかっているために転倒を止めようがありません。

ストックを使うと山歩きが楽になるのは事実なのですが、これはベテランと初心者とでは意味合いが違います。ベテランがストックを使うと、山登りの際に体をまっすぐ保ちやすくなります。だから呼吸が楽になり、体のふらつきを抑えられるので疲労が軽減されるのです。

ところが初心者の場合はストックを山登りの「推進力」みたいに使ったり、下りで「3本足」「4本足」みたいに使ってしまいます。動物が4本足で歩くのは自然な姿ですが、ストックに体重を預けて下りるのは不安定です。おまけにストックをしっかり固定していない人がほとんどなので、「あ!転んじゃう!!」って時にストックを突いて全体重を預けると、すーっとストックが縮んでしまい危険です。危険回避になりません。

十数年前、日本にダブルストックを紹介して「これ楽ですよ」と言っていた人々はそれなりに山を歩いている経験者であり、2本足歩行がきっちり身に付いていたわけです。しかし山歩きの基本ができていない初心者が最初からストックにたよった歩行をしていると、いつまでたっても山歩きがうまくならないような気がします。

山歩きに必要なのは長時間歩くスタミナだけではありません。片足をフットホールドに乗せて踏ん張った時に全体重をしっかり支える筋力が必要です。片足のつま先だけでしっかり踏ん張れるのなら山歩きの基本は身に付いていると言えますが、ストックに体重を分散しないと足が上がらないようでは、場合によっては危険です。

今年(2005年)のパトロール中、けが人と同行下山したことがあります。けが人の女性は岩場の途中で転倒し、転落は免れたものの顔面を強打してしまいました。

彼女を先頭にして鑓温泉から猿倉へ向かう途中のことです。ちょっとした段差を彼女が乗り越えようとした時に、バランスをくずして後ろに倒れてきました。「あ!」と思い、あわてて体を押さえ込みましたが、彼女のすぐ後ろに人がいなかったら確実に谷底へ転落していたと思います。

その後彼女が歩く様子を見ていると、段差で体がぐらついているのがよくわかりました。片足のつま先でしっかり踏み込めるほどの筋力がついていないわけです。

彼女はストック持参で山に来たのですが、この時はたまたま難所を通過したばかりだったので「ストックは邪魔だよ」と言って私が預かったままだったのです。すぐにストックを彼女に返したのですが、今度は前屈みになってストックを突きながら際どい登山道を歩くので、猿倉まで心配のし通しでした。

初心者の方には、ストックを使わない歩行を覚えて欲しいと思います。そして体力の低下を感じてから使っても遅くはありません。