データ好きの野球ファンは、この時期、シーズン中とはまた別の楽しみがある。出揃った記録を肴に、あれやこれやと数字をいじくり回して遊べるからだ。
いまだに私のところへ、レンジファクター(RF)に関する質問が来る。一度、野球雑誌に書いただけなのに、すごいな。あ、本にも書いたか。
確かに私は1975年以降のNPBのほぼ全ポジションのRFを計算した人間だから、それなりに詳しいけど、最近はこの指標がネットでケンカのタネになっているらしく、そんなことで争うなよと思う。野球を楽しむための材料のひとつだろうに。
このデータをさんざんいじっていた頃の私の結論をメモしておくので、参考になるようなら参考にしてください。
・レンジファクターは、遊撃手と中堅手に関してのみ、守備力の指標として使える。ほかのポジションではあんまりアテにならない。
・二塁手のレンジファクターは、各年度による個人の数値のブレが大きく、選手の年齢が上がってから突然、数値が高くなるなど不自然なことも起こる。
理由はいろいろ考えられるが、そこを追求するより「あんまり使えない」で終わらせたほうが無難だ。
・レンジファクターはチームの奪三振数に左右され、これは否定派が最大の根拠として持ち出す点でもある。
しかし、じつは奪三振数に左右されるのは「外野への飛球の数」であり、内野手がとるアウトの数はそれほど影響を受けない。奪三振数と相関があるのは外野フライの数だ。奪三振が増えると、外野フライは減る。
・むしろ内野手のレンジファクターは、奪三振数より球場の特性に左右される。きちんと検証してないのでおおまかなことしか言えないが、広島市民球場をホームにする広島の内野手はRFが毎年高くなりがちだ。
これは土のグラウンドか人工芝かの違いが大きく、また、同じく土の甲子園球場と比べても内野ゴロが多いので、ほかにも理由があると思われるが、深く考えたことはない。
・ネットでは東出(広島)の守備力が議論の的になっているようだ。東出は以前から「失策は多いがRFは高い」という選手だったから、上手か下手かで激しく意見が分かれるのだろう。
私はセカンド東出の守備はうまいと思うし、2007年セのゴールデングラブ二塁手部門の得票数はおかしいと感じたひとりだ。でも、昨年ちゃんと観た広島の試合は3試合くらい。って、オチをつけるな。
・一度定着した評価はなかなかくつがえらないもので、「荒木は守備上手」「東出は守備下手」というイメージができてしまうと、荒木がイップスに掛かっても、東出がセカンドで再生されても、よっぽどのことがないと評価は変わらない。
「落合野球はディフェンス重視の守り勝つ野球」というのも、そのひとつ。07年の中日はディフェンス重視じゃなかったし、外野の守備力は低かった。
守備を二の次にして戦わざるを得なかったところに07年中日の苦悩があり、優勝を逸した原因でもあるはずだが、世間は相変わらず「オレ流」の一言で片づけ、落合野球は守りの野球ということになっている。それでいいなら別にいいけど。
・話を戻す。そもそも私がレンジファクターを記事にする場合、守備イニングを分母にした正規の数値ではなく、出場試合数を分母にした「簡易版」を使うので、信憑性は下がる。
なぜそこに甘んじているかと言えば、刺殺と補殺の数を足すという、その時点で「おいおい、おおざっぱだな。送球を受けただけのアウトも守備力に入れちゃうのかよ」というツッコミが成立するためだ。
分母を厳密にするなら、分子も厳密にしないと意味がないと思うから、じゃあ、どっちもだいたいで手を打とう、というのが私のスタンス。
ただし著書「プロ野球 新勝利の方程式」では、この問題をクリアするべく、分子も分母も厳密にした上で数値を出している。分子を厳密にするとは、送球を受けただけの守備記録を除き、自分で獲ったアウトの数だけを計算すること。
・守備力をはかる数値というのは、調べ始めの頃はとても楽しいが、もっと正確にしてやろうと、球場やら、チーム事情やら、隣の選手の守備力やら、いろんな補正をかけ始めると、結局、数字遊びの迷路にはまりこみ、わけがわからなくなる。データ好きが陥りやすいワナだ。
ならば、もっと現実のプレー、たとえば「おお、このチームは昨年までライトからの中継にセカンドが入っていたのに、今年はショートが入るようになったのか」といった違いに注目しながら、データを楽しんだほうがいい。この種のフォーメーションによってもRFは変化する。
・だってさ、ホームランの数とか、防御率というタイトルも、よく考えると不公平で、いいかげんじゃん。あれだけ球場が違うのに。
レンジファクターの曖昧さも、それと同じくらいだと思うんだけど。