ヒミズ Urotrichus talpoides Temminck, 1841 の骨格。
脊索動物門 Chordata
脊椎動物亜門 Vertebrata
哺乳綱 Mammalia
トガリネズミ目 Soricomorpha
モグラ科 Talpidae
ヒミズ属 Urotrichus 。
トガリネズミ目?食虫目じゃないの?とか、
「ネコ目だぁチョウ目だぁなんてコノヤロウ、食肉目と鱗翅目やろがい!」と託つアンタも遂に折れたか…とか
思われる方もおられようが、私はこれ以外の呼び方は現時点で知らない。
哺乳類の系統関係はひと昔前と今とではまるきり変わってしまっているが、
中でもヤヤコシイのが、元・食虫類の面々だ。
そもそも食虫目(食虫類; モグラ目; モグラ類; Insectivora)は、
元々真獣類(Eutheria; 正獣類とも。有胎盤類(Placentalia)とまぁほぼ同一と思ってよい)の中でも
原始的形質を数多く持つグループを取り敢えず放り込んでおくゴミ箱として用いられてきた経緯がある。
恐竜で言う、"メガロサウルス Megalosaurus"みたいなもんだ。
そんなわけで、ようやくここ20年かそこらで、分子生物学と比較形態学の両面から食虫類が見直され、
一時期ヒヨケザルやツパイまで含んでいた1動物門が、
系統的には全く離れ離れなグループに解体されるに至った次第である。
現在、元・食虫目(に入った事のあるひとら)は、
針鼠目(ハリネズミ目; Erinaceomorpha)
ハリネズミ科(Erinaceidae) :ハリネズミ、ジムヌラ etc.
尖鼠目(トガリネズミ目; Soricomorpha)
トガリネズミ科(Soricidae) :トガリネズミ, カワネズミ etc.
モグラ科(Talpidae) :アズマモグラ, コウベモグラ, ヒミズ etc.
ソレノドン科(Solenodontidae) :ソレノドン etc.
アフリカトガリネズミ目 (Afrosoricida)
テンレック科(Tenrecidae) :テンレック etc.
キンモグラ科(Chrysochloridae) :キンモグラ etc.
登木目(ツパイ目; Scandentia 霊長目にいたこともある)
ツパイ科(Tupaiidae) :ツパイ, ホソオツパイ etc.
ハネオツパイ科(Ptilocercidae) : ハネオツパイ etc.
皮翼目(ヒヨケザル目; Dermoptera 同じく霊長目にいたことも)
ヒヨケザル科(Cynocephalidae) :マレーヒヨケザル etc.
の5目に分かれている。
これらの関係がどれほど遠いかと言うと、
"哺乳類(Mammalia)"
原獣類(原獣亜綱; Prototheria)
単孔目(カモノハシ目; Monotremata) :カモノハシ, ハリモグラ
後獣類(後獣下綱; Metatheria)
ノトメタテリア(Notometatheria)
有袋類(Marsupialia)
オポッサム目(Didelphimorphia) :キタオポッサム(フクロネズミ) etc.
ケノレステス目(Paucituberculata) :ぺル―ケノレステス, クロケノレステスetc.
ミクロビオテリウム目(Microbiotheria) :チロエオポッサム(コロコロ)のみ
フクロネコ目(Dasyuromorphia) :フクロネコ, ツメナガアンテイキヌス, フクロトビネズミ etc.
バンディクート目(Peramelemorphia) :ハナナガバンディク-ト, トゲバンディク-ト etc.
フクロモグラ目(Notoryctemorphia) :フクロモグラ etc.
双門歯目(双前歯目; カンガルー目; Diprotodontia) :カンガルー, コアラ, ポッサム etc.
真獣類(真獣亜綱; Eutheria)
アフリカ獣類 Afrotheria:
長鼻目(ゾウ目; Proboscidea)
岩狸目(イワダヌキ目; Hyracoidea)
海牛目(カイギュウ目; Sirenia)
管歯目(ツチブタ目; Tubulidentata)
長脚目(ハネジネズミ目; Macroscelidea)
アフリカトガリネズミ目(Afrosoricida)
異節類(Xenarthra)
被甲目(Cingulata)
有毛目(Pilosa)
北方真獣類(Boreoeutheria)
真主山鼠類(真主齧類)(Euarchontoglires)
霊長目(サル目; Primates)
登木目(ツパイ目; Scandentia)
皮翼目(ヒヨケザル目; Dermoptera)
兎形目(ウサギ目; Lagomorpha)
齧歯目(ネズミ目; Rodentia)
ローラシア獣類(Laurasiatheria)
針鼠目(ハリネズミ目; Erinaceomorpha)
尖鼠目(トガリネズミ目; Soricomorpha)
翼手目(コウモリ目; Chiroptera)
有鱗目(センザンコウ目; Pholidota)
食肉目(ネコ目; Carnivora)
奇蹄目(ウマ目; Perissodactyla)
鯨偶蹄目(クジラ・ウシ目; Cetartiodactyla)
上の水色で書かれた目の位置。
ちなみに現生種のみで構成しています。
系統関係も、もっとちゃんと線引けばいいんだけど、複雑なもので…大体、上/左から順に分岐していると考えてください。
もちろん、これ以外の分け方もバシバシあるので、なかなか全貌を理解するのは難しいです…
哺乳類だけでもそうだし、単弓類とか羊膜類とか脊椎動物とか脊索動物とか後生動物とかに拡大してみると…うぁぁ(汗)。
少なくとも、元・食虫類の面々が、一般的に"原始的な哺乳類"と考えられていたあたりからは、
"哺乳類の中でも祖先的とされる形質を多く保存して見える"と認識を改めなくてはならない。
さてさて、ようやくヒミズのお話。
ヒミズ、ないしヒミズモグラというのは、漢字で"日不見"と書き、
"地に潜って、お天道さん見ることが生涯ない"という意味である。
ただ地中で生活はしているものの、実際はモグラほど深いところで生活はせず、大トンネルも作らない。
体は一般的なモグラ類よりずっと小さく、尻尾がぴょっと長い。
死亡すると悪臭を発するため、肉食獣に喰われないと聞くが、それは全く感じなかったなぁ。
日本固有属固有種。
歯式は、2/1.1/1.4/3.3/3 =8。
門歯(incisor)が大きく鋭く発達しているのが特徴だ。コチラのHPに詳しい→『BoneSkullTeeth頭骨、歯』
臼歯(molar)は、哺乳類の基本形、トリボスフェニック型(tribosphenic)をよく保存しており、
これが故、「あ~歯が原始的だね」と食虫類に纏められた経緯もある(それだけじゃないんだけど)んだが、
これは哺乳類の共有原始形質がそのまま、変化せずに残っているだけなので、
分岐分類の原則として分類形質に用いることはできないのである。
トリボスフェニックが、実は後獣類と真獣類の系統?で独立に獲得されたという論文があるとかないとか…
それやったら、また絶滅種の系統とかまた思いっきり変わるかもしれませんねぇ。
ともあれ、トガリネズミとかヒミズとかモグラとかの連中は、総じて"原始的"なようには見えます。
肩甲骨(scapula)は細長く、
哺乳類のコレといえば大体広い板状になっているのを考えると、特殊ね。
モグラの上腕骨(humerus)は、一見何処の骨なのかサッパリ解らないくらいに特殊化し、
あちらこちらに突起が突き出まくって、棒状と言うよりブロック状と言っても良いくらいの形をしているが、
ヒミズの場合はそこまでではない。
またモグラの前肢が体の横方向に伸びるのに対し、ヒミズは斜め横といった具合で、
結局そうした特徴が、陸棲のトガリネズミと地中棲のモグラとの間にあるような形態を取っており、
故にこれらをつなぐ位置にあるとされたのである。
実際に足根や前脚などの形態から、大まかに
+-----トガリネズミ
---+
+-+---ヒミズ
|
+---モグラ
が支持されている例がある。※注1
※注1:
Marcelo R. Sanchez-Villagra, Ines Horovits and Masaharu Motokawa (2006)
"A comprehensive morphological analysis of talpid moles (Mammalia) phylogenetic relationships"
Cladistics, 22 59-88
とか見てるとマニアックにバリバリ形態学やっててなんか楽しい。
でも分子系統から見るとまた系統が違うとか何とかっていうのも聞いたような??
また何か見つけたら改訂します。
ちなみに、哺乳類の系統樹は
Murphy, W.J.et al. (2001)
"Resolution of the early placental mammalian radiation using Bayesian phylogenetics."
Science 294 2348-2351 (→コチラで全文読めます)
などを基盤にして、恐らく現時点で最も広く受けいられているであろう形に改変したものです。
BLOG内LINK:
・specimens: その他の収蔵標本。
・mammalia dentalis: 哺乳類の分類といえば歯だ。
・vertebrata:01・02 脊椎動物。