マウス(ハツカネズミ) Mus musculus Linnaeus, 1758 の骨格。
脊索動物門 Chordata
脊椎動物亜門 Vertebrata
(単弓類 Synapsida)※注1
哺乳綱 Mammalia
齧歯目(ネズミ目) Rodentia
ネズミ上科 Myomorpha
ネズミ科 Muridae
ザ・モデル生物の1種であり、
ヒトの疾病を追跡したり、哺乳類代表としてニワトリなどと比較研究されたり…と、
食物倉の厄介者として見つけ次第駆除されていた頃からいつしか、
犠牲無しで現代のヒトの生活はありえないほどの存在になった。
(何れにせよヒトの欺瞞と言えばそれまでだが)
だからこそ、現代の潮流から言う哺乳類の"スタンダード"(系統的な意味ではなく)として、
よく形態的にも知っておく必要はあるだろう。
でも頭蓋は特殊化しているものの、体や四肢は典型的哺乳類の形ですね。
この画のモデルはヌードマウス※注2の♀であり、ひょっとしたら少々個性があるかも知れない。
マウスの脊椎(vertebrae)の数は
頚椎(cervical) :7 (哺乳類はマナティ・ナマケモノ以外皆7つ)
胸椎(thoracic) :12-14
腰椎(lumbar) :5-6
仙椎(sacral) :4
尾椎(caudal) :27-30
とされるが、どうもこのスケッチ、腰椎が1個多い。
頚椎や仙椎は稀だが、椎骨の増減はヒトでもさほど珍しいことではなく、
まず個体差として特に生活に支障はないことが殆どなので(死ぬまで気が付かないことも多いとか)、
これも、数え間違いでなければ、偶々そうだったのかも…
マウスの歯式は、
1/1.0/0.0/0.3/3 =8。
多くの齧歯類の切歯は赤茶けた色をしているものだが、
これは歯の組織に鉄分など金属イオンが多く含まれるからで、歯磨きしていないからではない。
また齧歯類やウサギ類※注3の切歯は一生伸び続けるが、
これは歯に厳密な意味での歯根が発生せず歯髄腔が開いていて、そこで成長が持続するから。
(常生歯≒無根歯と呼ぶ)
マウスの顎関節には所謂関節らしい関節がなく、非常に緩いのが特徴。
植物食性の哺乳類は顎関節の自由度が高いのが通例だが、
ラットなどではもっとしっかり関節している。
さて、齧歯類はその咬筋(masseter)の走行パターンに大きく4型があり、
頭蓋からこれを推すことができる。
次にLINKを挙げるが、
Baruch Undergrad. Honors [1991]: Dempsey, M. Cranial Foramina and Relationships of Dipodoid Rodents
このページのfigure1にそれが示されている。
それぞれ、A. 原齧歯類型(protorogomorph)
B. リス形類型(scuiromorph)
C. ネズミ形類型(myomorph)
D. ヤマアラシ形類型(hystricomorph)。
マウスはネズミ形類であり、咬筋が大きな眼窩下孔(foramen infraorbitalis)を通って顔の前まで伸びている。
(上右に載せた頭蓋を前から捉えた写真で、両眼窩の前にこちらを向いて開いている孔が眼窩下孔。
齧歯目ネズミ形類の特徴である。)
他の骨格の形態は、何処から見ても典型的なMammaliaである。
・下顎 (mandibular)が歯骨(dentary)のみで構成され、これが頭蓋の鱗状骨(squamosal)と直接関節する。
哺乳類以外では、上顎の方形骨(quadrate)と下顎の関節骨(articular)が関節して顎を構成するが、
哺乳類ではこの顎関節をつくる骨がより遠位のものにシフトしていることになる。
このため顎関節としての役目を失った2つの骨がそれぞれ
方形骨(quadrate) → 砧骨 (incus)
関節骨(articular) → 槌骨 (malleus)
と名前を変えて中耳に入り、
元々耳小骨として働いていた鐙骨 (stapes; 哺乳類以外の羊膜類(Amniota)では耳小柱(columella)とも呼ぶ)
と共に、3個の連続した耳小骨(ossicles)をつくっている。
これが、最も決定的な哺乳類の特徴とされる。
あとは、
・口蓋-鼻道の間が二次口蓋(secondary plate)で 口と仕切られる。
(ただし、現生種でもワニなどは持つ。)
・頭骨の鼻穴が左右で繋がっており、1つ。
・頭蓋-第1頚椎(環椎; atlas)が1対の後頭顆(condylus occipitalis)で関節(哺乳類以外では後頭顆1つ)。
・頚椎(cervical vertebrae)が7個固定。これも有名で、その由来については昔から議論の的。
(例外:海牛目‐6個
異節目(ナマケモノ・アリクイなど)‐6・9・10個など
鯨目でも一見少ないように思われるが、癒合の結果であって実際の数は7つ。
・顕著な肋骨(rib)が胸椎(tharacic vertebrae)にしか見られない。
実際には頚椎にもあるが、癒合して殆ど目立たない。
腰椎(lumbar vertebrae)に肋骨はない。←このため腰の自由度が高く、例えば丸まって眠るなんて芸当ができる。
・板状の肩甲骨(scapula)が脊椎に関節せず、前肢の自由度が高い。
肩甲骨には肩甲棘(spina scapulae)と呼ばれる隆起が見られる(数は種により異なる)。
・指骨数の基本形、第1指:2個
第2-5指:3個。
などの特徴を、全て綺麗に持っている。
※注1:
単弓類(Synapsida)なんて系統分類的クラスターをこんな所に挿入しちゃうのは本当はよくないのかも知れないけれど…
でも位置としては間違っていないんで勘弁してくださいm(_ _)m。
羊膜類(Amniota)には大別して
・無弓類(Anapsida)
・単弓類(Synapsida)
・双弓類(Diapsida) の3つがあり…というのも実際には既に過去の分類方式なんだが、
ここを突っ込んで考えると非常にヤヤコシイ…
というより、まだ「これ!」というコンセンサスは出ていないんじゃないかなぁ??
少なくとも、"現在生き残っている単弓類が哺乳類のみ"なのは確実でしょう。
※注2:
ヌードマウスは劣性単一遺伝子nu(第11番染色体)の変異によって生じる形質。
その名の通り無毛のマウスで、実験によく用いられるが、
無毛であること自体が飛びぬけて重要であるのではなく、胸腺の欠失が起こっていることが大切なのである。
胸腺はT細胞を産生する働きがあるので、
これを欠損していることは細胞性免疫を失うことになる。(B細胞系に異常はない)
このため移植片に対する拒否反応が起こらないので、移植実験によく用いられる。
ヌードマウス然り、体毛の薄い哺乳類ってーと少々気色悪いイメージがあるが、
どうして今時のヒトに限っては体毛が濃いのを毛嫌いする傾向があるかなぁ(髪以外)。
胸毛生えている方がきっと胸腺の働きも活発で、免疫も強いんだぜ?(←嘘)
※注3:
60数年前までウサギ類は重歯亜目(Duplicidentata; 上顎の切歯が2対あるため)と呼ばれて
げっ歯目の中に含まれていたのだが、
顎の筋系の違いや、化石記録や分子系統から推察されるげっ歯類とのかなり早期の分岐により、
現在はウサギ目(Lagomorpha)として独立している。
= National Geographic:News =
LINK:
・Baruch Undergrad. Honors [1991]: Dempsey, M. Cranial Foramina and Relationships of Dipodoid Rodents
・DigiMorph -Mus musculus, House Mouse- マウス骨格のCTによる3Dモデル。
The University of TexasのDigital Morphologyは超楽しいサイトですよ☆
活用しまくりなので、当BLOGにも左サイドバーに常時リンクを貼ってをります。
<<weblog内関連記事LINKs>>
・specimens: その他の収蔵標本。
・mammalia dentalis: 哺乳類の分類といえば歯だ。
・vertebrata:01・02 脊椎動物。
・reptile evolutions:complex and processive "爬虫類"の系統とか。
・dino=phylogenetics:1 この記事、書き直そうかなぁ…
・capybara: カピバラの頭。コイツの頭はヤマアラシ形類型だ。
・ne: 鼠年。
Reference:
・『脊椎動物の進化 原著第4版』
Edwin H.コルバート M.モラレス:著, 田隅本生:監訳, (築地書館, 1994)
・『Studies on the Structure & Development of Vertebrates』(Hardcover)
Edwin S. Goodrich :著 (Macmillan and co., limited, 1930)
・『The Vertebrate Body』(Hardcover)
Alfred Sherwood Romer, Thomas S. Parsons :著 (W.B.Saunders, 1977)
・『バイオディバーシティーシリーズ7 脊椎動物の多様性と系統』
松井正文 :編集, (裳華房, 2006)
ps. add some links & notes about nude-mouse.
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