Bar Scotch Cat ~女性バーテンダー日記~

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女性バーテンダーScotch Catの独り言&与太話です。

心の渇き

2008-03-12 15:05:44 | short story


まだ春の浅い日の夜。うっすらと暖かくなった夜風の中を彼は早足にバーに向かっていた。
息を切らしながらドアを開け、バーの中を見渡す。
「・・・やっぱりいない、か・・・」
カウンターに腰掛けた彼はジントニックをオーダーした。
喉が渇いていた。差し出されたジントニックを彼は一息に流し込む。
暖かい時期、彼は一杯目によくジントニックをオーダーしていた。
喉の渇きを癒すのに、この爽快感とジンの苦味がちょうどよかった。

彼が探していた彼女はカウンターにはいなかった。
連絡が少なくなってから一月ほど経つ。
付き合っていたわけではないのかもしれない。お互い、愛してるなんて言葉で
気持ちを確認しあったことはない。
でも、連絡が来なくなって彼は寂しさと焦りを感じていた。
いつ疎遠になってもいいつもりだった。だけど、この喪失感は何だろう・・・

彼女が以前、言っていたことを思い出す。
「人は、心の渇きを癒すために誰かを必要とすることもあるわ。
渇きに水を流し込んだら潤されるでしょ。一つの欲求を満たしたら、その欲求はお終い。また次の渇きを癒しに行くのよ。
私、そうやって必要とされなくなるのは嫌。渇きが癒されたら、自分から身を引くのよ・・・」

「暖かくなりましたね・・・」
バーテンダーの言葉に、我に返る。そうか、もう春なんだ・・・
季節は変わった。彼女は、冬の間の幻だったのか。
彼女は彼の心が潤される前に消えたのだ。次の渇きを求めて。
愛していたのかもしれない。少しだけ。気づきたくなかったのか。

「ジントニックをもう一杯」
彼は二杯目のジントニックを煽った。心に流し込むように。
喉が潤されていくのに、心は渇いたままだった。

外はもう春なのだ。



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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
完璧 (ジンベエザメ)
2008-03-12 21:07:05
完璧なストーリーです。
文句なしです。

うーむ (scotch cat)
2008-03-12 23:09:56
>ジンベエザメさん
短いコメントだけに、気になりますな。完璧?
scotchは春は悲しい季節だと思うのです。だからちょっぴり悲しいストーリーになりました。
春は出会いの季節であると共に別れの季節でもあるのですね。
なんとなく (夜の帝王)
2008-03-16 01:26:34
いや~、何か身に沁み入るような感じだなぁ…。

出会いと別れ

出会いがあって別れがあり、でも、別れがあって出会いがある事もあると思ってマス。

悲しい事の先にはきっと楽しい事が待っててくれるはずさ!

いい加減に一つの泉に落ち着きたい今日この頃です。
夜の帝王さん (scotch cat)
2008-03-16 05:34:30
一つの泉ですか・・・
scotch catも落ち着きたいなあ。
一生懸命探さなくてもいつか向こうの方から
やってくるものかもしれませんね。
必死に探しているときに限って見つからないものです。
かくいうscotch catもさすらいものですが。
なんてったってGitanesはさすらい者、ジプシーですから。あ、夜の帝王さんもGitanes呑みでしたね。笑

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