バッド・ベティカー「暗黒街の帝王レッグス・ダイアモンド」(1960年)
ローリング・トゥエンティーズ。主人公(にやけたやさ男レイ・ダントン)は、ダンス教師の地味な女(カレン・スティール)を口説くために場末のダンス教室に入門する。かれが実はダンスの名手であることを女は不審におもう。かのじょが出場するダンス・コンテスト当日、かのじょのパートナーをいためつけて病院送りにし、パートナーの座を奪う主人公。さらにコンテストのライバルの服をライターで燃やして棄権に追い込み、優勝カップをせしめる。カップを手にしたまま二人は映画館へ。トイレに立つとみせかけて、隣りの宝石店に侵入し、ウィンドーの宝石を奪う主人公。不可解な事件の連続に女の疑いは強まる。
暗黒街のボス(ロバート・ローリー)のボディガードの職を手に入れた主人公はダンス教師をポイ捨てにし、ボスの愛人(エレイン・スチュワート)と不倫の関係を結ぶ。不倫はすぐにばれ、主人公はボスに関係を白状して女をポイする。
その後、敵に銃撃された際にダンス教師の部屋に駆け込み、よりを戻して結婚する。警察にたよれないわけありの筋から強奪を重ねることでかれは勢力を拡大する。ビジネスに多忙な夫に省みられなくなり、妻は酒に溺れる。「あなたは何でもあたえてくれる。でも、ひとつだけしてくれないことがある。もう映画につれていってくれないのね」……。
ここから場面はケッサクな“ブレヒト的”シークエンスに繋がる。妻の機嫌をとりなすために主人公はかのじょをヨーロッパ旅行につれていく。パリでもローマでもベルリンでもかれらはつねに映画館にいる。スクリーンにはニュース映画が流れ、禁酒法の施行にともなうギャング勢力の弱体化が外国語のナレーションで伝えられる。そのたびに不機嫌そうな客席の主人公にカットバック。
帰国後、主人公の「転落」fall がはじまる。かれのキャバレーは封鎖され、暗黒街は近代的なシンジケートに牛耳られていた。「家族に手を出そうとしても無駄だ。そうならないようにおれは仲間をつくらなかった」とつよがる一匹狼。かつての腹心はみな離れていく。「みんなあなたが恐いからよ。それは私も同じ」と妻。
昔の女の裏切りで殺される主人公。「かれはひとに愛されたが、ひとを愛さなかった。それがかれの死んだ理由」というもっともらしい妻の台詞で重々しく幕。
“レッグス” ダイアモンドがダンサーであったことは偶然ではない。ダンサーさながらのしなやかなステップでかれは出世の階段を駆け上がり、その頂点から派手に身を踊らせる。
演出もそのうごきに和す。銃撃の訓練を受ける場面から二丁拳銃を操って敵をなぎ倒す場面へ。あるいは昔の女を電話で呼び寄せる場面からいきなり情事の後の場面へ。アクロバティックな省略の連続。
レナード・ローゼンマンの手になるテーマも軽快な洒落たタイトルバック。30年代ワーナーのギャング映画のドライなテンポとベルモンドらの大泥棒ものの軽快なコミカル・タッチが共存。撮影ルシエン・バラッド。哀れな兄役でウォーレン・オーツ。