西部瓦版 其の四壱参 イヴォンヌ・デ・カーロ、ローラ・モンテスを演ずの巻
Salome Where She Danced(1945年、ユニヴァーサル)
物語は南北戦争の終結とともに幕を開ける。敗戦を受け入れようとしない若い南軍兵(デヴィッド・ブルース)に新たな時代のはじまりを説得するリー将軍。その現場に居合わせたジャーナリスト(『ガン・ホーク』のロッド・キャメロン)が、つぎのシーンではいきなりベルリンにいて、観劇に訪れたビスマルクを取材。舞台上でアンナ・マリア(イヴォンヌ・デ・カーロ)というダンサーがエキゾチックで扇情的なダンスを披露している。かのじょの協力をとりつけてプロシアによるオーストリア侵攻をスクープするジャーナリスト。一騒動あったあと、舞台はふたたび西部へ。アリゾナの原始的なホールでサロメのダンスをおどり、押しかけた野蛮な男たちの喝采を浴びるアンナ・マリア。名前のなかった街が「サロメ。かのじょがおどったところ」と命名される。アンナ・マリアは強盗団のかしらにおさまっていたデヴィッド・ブルースと恋に落ちるが、かのじょを囲いものにしようとする富豪があらわれ……と波瀾万丈のどたばた西部劇。監督はアボット&コステロものを何本も手がけているチャールズ・ラモント。ウォルシュの『南部の反逆者』ではゲーブルを相手にヴィヴィアン・リーふうの役どころを演じ、ドワンの『怒りの刃』ではクールなカウガール姿で拳銃を操ってみせたイヴォンヌ・デ・カーロの最初の主演作で、ダンサーの出自に恥じない見事なパフォーマンスを披露している。さいしょの登場シーンでは、客の望遠鏡ごしに巨大な貝殻のなかから薄衣をまとって姿を現す。チャイナドレスで紗のカーテンごしになまめかしい東洋風ダンスを舞ってみせるシーンもあり、ブルースとともにカリフォルニアに向かう旅の途上では、焚き火の傍らで「もみの木」を朗々と歌い上げてしんみりさせる。クライマックスでは、深紅の床が鮮やかな富豪宅のホールでブルースとそのライバルがくりひろげるフェンシングでの決闘をダイナミックなキャメラワークで追い、いちおうラスト近くでは幌馬車が崖から転落するというスペクタクルシーンも用意されている。レンブラントの絵をめぐるギャグも可笑しい。『アフリカの女王』『狩人の夜』の脚本家で作家・批評家のジェームズ・エイジーが本作を絶賛。脇でウォルター・スレザック、アルバート・デッカー。『ヒズ・ガール・フライデー』『レオパルド・マン』のアブナー・ビバーマンが中国人の老師を演じ、ジェシー・ジェームズの『地獄への……』三部作(?)などのエドワード・ブロンバーグがアンナ・マリアの音楽コーチ役。製作ウォルター・ウェンジャー。
作中、劇場の客がヒロインをローラ・モンテスと比べて賞讃するくだりがあるが、じっさいヒロインのキャラはローラ・モンテスをモデルにしているふしがある。
その推測を諾うかのように、その数年後、デ・カーロはじっさいにローラ・モンテスを演じることになる。ジョージ・シャーマンの Black Bart(1949年、ユニヴァーサル)でそれで、『帰って来たガンマン』のダン・デュリエがかのじょと恋に落ちる黒い仮面の陽気な盗賊を演じる(ただし、ラストは相棒とともに官憲とのはげしい銃撃戦をくりひろげ、ブッチ・キャシディとサンダンス・キッドさながらに華々しく銃弾の雨に命を散らす)。デ・カーロがおどるシーンは二度だけで、そのさいしょのものはカルメンをイメージしたらしいフラメンコ調のものであり、それなりにじっくり撮っているが、Salomé と同じように、舞台上のかのじょと男たちの粗野なリアクションがしつこくカットバックされ、ふりつけも Salomé で披露したのとそっくり。終盤のふたつめのダンスは庭園でのスパニッシュダンスで、クレーンがダイナミックにかのじょを追う。デュリエの役名もなんとなく Salomé におけるブルースのそれに似る。フランク・ラヴジョイのデビュー作で、ほかにジョン・マッキンタイアが脇を固めるも、作品の出来は凡庸。『縛り首の三人』というタイトルのリメイクがあるそうな。