グレッグ・モットーラ「スーパーバッド 童貞ウォーズ」(2007年)
デブでユダヤ系まるだしのチリチリ頭をしたセス(われらがジョナ・ヒル)と心やさしいイケメンのエヴァンは童貞のマブダチ同士。あこがれの女子(エマ・ストーン)から高校生活さいごのパーティーに誘われる。体良く酒の調達を押し付けられただけとも気づかず、性欲をもてあました童貞らは体を張って任務をまっとうせんとする。
友達のいない老け顔の“マクラヴィン”ことフォーゲルがかれらに同行する。フォーゲルが身分証明書を偽造して酒店に乗り込むが、ちょうどそこへ強盗が押し入り、駆けつけた警官ら(セス・ローゲン、ビル・ヘイダー)の取り調べを受けるはめに。ところがこれがとんでもない不良警官で、フォーゲルと意気投合し、パトカーで夜の街をドライブしながらワルのかぎりをつくす。一方、指名手配中のチンピラの運転する車にはねられたセスはエヴァンともどもチンピラが向かおうとしていた不良どものパーティーに誘われる。宴もたけなわとなった頃、くだんの不良警官が会場に踏み込むが、なんとか大量の酒を盗み出すことに成功する。セスは逃走中にふたたびこんどは不良警官らのパトカーにはねられる。セスとエヴァンはパトカーに同乗していたフォーゲルとともに脱兎のごとく逃げ出し、追っ手をまく……。
パーティー会場につくとエヴァンは泥酔したガールフレンドにベッドに連れ込まれる。しっかりコンドームとゼリーを持参していたエヴァンであったが、いざとなると事に及べない。タイミングよくガールフレンドが嘔吐し、ことはうやむやになる。セスはストーン演じるジュールズとのベッドインを体良く断られたうえ、泣き顔を見られてさらに落ち込む。フォーゲルはナイスバディな同級生とのベッドインにありつくが、挿入した瞬間にくだんの不良警官コンビがまた踏み込みんできて、童貞完全喪失はやはりおあずけとなる。酔ったガールフレンドの処女を奪うのはフェアではないと飲めない酒を無理に煽って泥酔したいつもながら生真面目なエヴァンをかれよりも小柄なセスがお姫さまだっこして必死に逃げ出し、無事家に連れ帰る。すでに大学の寮に荷物を運び込んでがらんとした部屋で二人は毛布にくるまってしみじみと友情をたしかめあう。名門ダートマス大に入学がきまっているエヴァンは、寮でフォーゲルと同室になることを同じ大学に落ちたセスに隠していたことを詫び、知らないルームメイトとの生活が不安でたまらないのでフォーゲルをルームメイトにしたのだと言い訳して涙にくれる。セスのほうはすでにそのことを知っており、友を許し慰める。「いまなら大声で言える。愛してるぜ」「おれもだよ。愛してるぜ」……。
翌日、エヴァンの新生活に備えて二人して寝具を買いにショッピングモールに出かけると、ジュールズとエヴァンのガールフレンドが同じく連れ立ってやってくるのに出くわす。エヴァンのガールフレンドは嘔吐で台無しにした寝具をジュールズに弁償しようと同じ売り場をおとずれていたのだった。エヴァンはガールフレンドを、セスはジュールズをそれぞれ送っていくこととなり、親友たちはその場で別れを告げる。ジュールスの肩を抱いてエスカレーターを降りて行きながら、セスは親友のすがたが見えなくなるまで何度も振り向く……。
エンディング・クレジットのバックにブーツィー・コリンズの粋なファンクが流れるあいだ、あなたの頰が涙に濡れていることは請け合いだ。幼年時代の終わりを描いたもっとも感動的なラストシーンのひとつとして記憶されるべきシーンであろう。下品でアナーキーな笑い一辺倒に終わらす、メランコリックであったり叙情的であったりするタッチを隠し味のように交えた作風にはいかにもプロデューサーのジャド・アパトーの署名が読み取れる。
「これはクレイジーなコメディーであるが、同時に大学進学で別れ別れにならねばならないことに身を引き裂かれるような思いをしている二人の少年のストーリーでもある。かれらのきちがいじみたふるまいはこうした不安にたいする反応なのだ。友情こそが本作のテーマだ」(アパトー)。ジェームズ・ブルックスは息子とその親友を本作を見に連れて行ったという。アパトーはそれを本作に対する最高の賛辞と受け取った。
脚本はアパトーの分身ともいうべきセス・ローゲンほかで、ローゲンの自伝的な性格の濃いストーリーであることが主人公の役名からもあきらかだ。DVDのボーナスには2002年に行われた本読みの映像が収録されているから、もともとローゲンじしんがみずからの分身的なセス役をやるはずだったようだ。ただしカナダの大泉洋こと(?)セス・ローゲンのナルシスティックな演技が筆者は苦手だ。演技者の資質としてはあきらかに格上のジョナ・ヒル(当時すでに23歳)が演じたからこそ本作は名作になった。ヒルはその後、スコセッシに起用されることになるが、アナーキーでシュールな彷徨の一夜を描いた本作にはすでにスコセッシ的(もしくはフェリーニ的。あるいはジム・ジャームッシュ的?)なところが多分にある。
いまをときめくエマ・ストーン嬢はこれがデビュー作となるが、すでに演技スタイルが完成されていることに驚かされる。アメリカ本国では名作の名をほしいままにしているらしい本作がなんとわが国では劇場未公開。エヴァンの母親役の胸の谷間には童貞のセスならずともドキッ :)