戦略的沈黙

2006-07-10 | news
 このところ朝鮮日報の記事に注意している。次は7/10の社説。

【社説】弁明が弁明を生む大統領府の「戦略的沈黙論」

 ブッシュ米大統領は北朝鮮のミサイル発射について「問題を外交的に解決する最良の方法は、金正日(キム・ジョンイル)が交渉テーブルを見回したとき、中国・米国・ロシア・日本・韓国が反対側から声をそろえて発言しているのを見聞きさせること」と述べた。7日に訪韓したクリストファー・ヒル米国務次官補は「今、最も重要なのは6カ国協議の当事国5カ国が北朝鮮に声をそろえて語りかけることだ。無謀なミサイル発射をする国に、何事もなかったかのように対してはだめだ」と語った。北朝鮮に「声をそろえて」警告を送ろうということだ。

 米国の提議に対する韓国政府の考えは、9日に弘報首席室が「安保独裁時代の亡霊から脱しよう」と大統領府ホームページに掲載した文に表れている。「大統領の最大の関心事は国民の安全、次は国民が不安にならないようにすることだ。北朝鮮のミサイル発射は韓国の安保危機だろうか。(北朝鮮のミサイルは)誰を狙ったものでもない。日本のように無理に未明から大騒ぎする必要はない。声を荒らげず、ゆっくり対応するのが大統領の考えで、次に再び同様のことが起きても、落ち着いて対応するほかない」

 北朝鮮のミサイル発射後、100分経ってから大統領に報告したという情報システム、ミサイル発射から数日経ったのに、それについて一言も言及しない大統領の行動が、大韓民国の安全と国益を優先した「高度な戦略的沈黙」だとの説明だ。

 そう言うのならば、政府に問わざるを得ない。北朝鮮政府は自国の漁船には「ミサイルが落ちるかもしれない海域へ出るな」と事前に警告した。いわば政府の役割を果たそうとしたのだ。しかし韓国政府は情報を知りながら、ミサイルが飛ぶ危険に満ちた空を、韓国の民間機が何も知らずに航行するのを放置し、ミサイルが間違って落ちるかもしれない海へ「出るな」と漁船に警告すらしなかった。それが国民の安全を最大の関心事とする政府がやることだろうか。この点で韓国政府は北朝鮮政府がしたことさえもできなかった。

 次に、北朝鮮が韓半島(朝鮮半島)全体を射程とするスカッドミサイル4発とノドンミサイル2発を発射したのは「韓国の安保に対する脅威ではない」という弘報首席室の判断は、一体何を根拠にしているのか。北朝鮮から「われわれが発射したミサイルは南に向けたものではない」という事前通告でも受けたというのか。そうならば、北朝鮮が射程距離550キロのスカッドミサイルを開発した理由は何だと考えるのか。さすがの韓国政府も短距離ミサイルのスカッドで800〜1,000キロ離れた日本や、太平洋の向こうの米国本土を狙ったとは言えないだろう。北朝鮮がそのミサイルを戦時に南に向けて発射したら、韓国軍部隊を避けて在韓米軍の頭上にだけ落ちるとでもいうのか。仮に北朝鮮がそう言ったとしよう。その言葉を聞いて安心するのが韓国政府の役割だろうか。そんな基本的な道理も分からない韓国と、世界のどの国が同盟関係を持とうとするのか。

 過ちを犯したときには反省し謝罪するのが正しい方法だ。虚しい言葉を繰り返し、過ちを見過ごせば、さらに大きな過ちを犯すのが世の常だ。「戦略的沈黙」うんぬんなどと、話にならない話はこれ以上、口にするべきではない。

*わが国の首相も中韓両国に対して靖国神社参拝という(状況からして)意図的な「挑発」を繰り返すのは私の理解を超えるが,韓国の大統領府も何か基本的なところが欠けているようだ。自国の漁民の安全を図るための基本的な注意を払わない,というのはやはり鈍感すぎる。相手が他国民の拉致を行いてんで恥じない犯罪政権なのだから,それに対し戦略的に振舞うのは問題ないだろう。しかし,見かけの振る舞いの底にシビアーな備えがないのは話にならない。社説の言うとおりだ。韓国の方々も大変だ。「戦略的沈黙」は「太陽政策」の一部だろうが,私は不勉強で太陽政策について平和的アプローチだ,くらいのことしか知らない(要勉強)。北朝鮮問題解決のための韓国政府の「戦略」-作戦計画ーを知りたいと思った。時間をかせいで,その間に北朝鮮が民主化していくのを待つ,あるいは,独裁者が病気で倒れれるか,もしくはクーデターで倒されるのを待つ,くらいなのだろうか。しかし,拉致を認めた北朝鮮政府に民主化という選択肢はないように思える。素人考えでも,それは自殺行為,かつてのルーマニア独裁者の二の舞だ。

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2 コメント

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失礼いたします。 (tenjin95)
2006-07-11 01:57:13
> 管理人様



「戦略的沈黙」という言葉を聞いて、禅宗の公案で用いられる「維摩の一黙」を思いだした拙僧でございます。



それにしても、「太陽政策」については、我々が日本のマスコミを通してみる以上に反対意見があるようです。多分、現政権が何かしらの政治的態度を示すために出されたのでしょうけれども、それが上手く行く間はよいが、ダメになると足を引っ張られると言うことなのでしょう。
高度な外科手術 (azumando)
2006-07-11 06:12:17
遅まきながら『ウィキペディア(Wikipedia)』で太陽政策をチェックしてみました。それによると,



イソップ童話『北風と太陽』にちなみ、北朝鮮の頑なな態度を改めさせるためには圧力ではなく温情であるとするものであり、対立するよりも人道的・経済的援助や文化的交流(観光等)を深めることで将来の南北統一を図ろうとする政策。金大中政権(1998-2003)により始まり、盧武鉉政権もこれを引き継いでいる。



この政策に関連して行われたことは南北首脳会談や、現代財閥による金剛山観光事業、北朝鮮へのコメ支援などがある。消極的なものとしては、北朝鮮による韓国人拉致疑惑(一説には数百人に上るとも)をあえて追及しないなどの措置も含まれる。



とある。目に見えるかたちで南北の距離が縮まったことから若い世代に支持者が多いが,<韓国国内の高年齢層、退役軍人はもとより、日本やアメリカ、中国などの反北団体や人権団体からは「この政策は民衆を苦しめ続けている金正日政権を生きながらえさせているだけで、まったく飢餓などの解決策になっていない」「旅人ではなく泥棒に物を与えているだけ」と非難され>ているとのこと。



日朝首脳会談により北朝鮮政府は公式に拉致を認めています。それ以後の対応としては太陽政策は少なくても道義上の問題があるように思います。韓国政府も犯罪の片棒を担いでいることになりますものね。責任ある政府としては,太陽政策を続けるにしてもたしかに「戦略上」の政策に変形せざるをえないでしょう。暖かさで相手の心を溶かすのではなく,その存続基盤を巧みに崩していく政策の一環としてしか生き残れないでしょう。北朝鮮はやがて核ミサイルを保持することになるでしょうが,たとえそうなったとしても,それを使わせない,もしくは暴発させない政策が必要ですね。何か高度な外科手術のようですね。

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