あや乃古典教室「茜さす紫の杜」

三鷹市&武蔵野市で、大学受験専用の古文・漢文塾を開講しました。古文教師の視点から、季節のいろいろを綴ります。

桃の節句⑦「桃季物言わず」

2013-03-09 00:15:28 | 
この句は平家物語の
「巻第Ⅲ 少将都帰」にも引用されています。


往時を偲ぶ場面で、口ずさまれていますが、
ここで、この句が口ずさまれることにより、
桃が仙郷(いわば理想郷)に咲くとされる花だけに、
往時の栄華(理想郷)と、現在の朽ち果て方(登仙後)を対比させ、
よりいっそうの、郷愁とやるせなさを、演出しているかと思います。

お詫び)
平家の該当箇所を、全文閲覧可能にしたかったんですが、
どうも上手く行きません。
時間を置いて、挑戦してみますが、
ネットにも全文が出回っているので、探してみて下さい。
出だしは「少将鳥羽へあかうぞ着き給ふ」です。

桃の節句⑥「桃季言わず」

2013-03-07 17:56:21 | 
桃季言わず(とうり もの言わず) 春幾ばくか暮れぬる
煙霞(えんか)跡無し 誰か栖んじ(たれか すんじ)

(現代語訳)
桃季の花は年々咲くけれども、いったい道士が登仙してから、
何度の春を送り迎えたのか、尋ねても黙して語りません。
石室をめぐる山々に煙霞がたなびいても、
跡をとどめない、はかない煙霞に向かって、
昔ここに誰が住んでいたのか、問う術もありません。

(注)
「桃季物言わず」とは、
史記の李将軍伝に「桃季物言わず、下自ら蹊(みち)を成す」とある、
諺の引用です。

成蹊大学の名前も、この句に由来しています。

*和漢朗詠集収録歌は、講談社学術文庫325からの引用です。
転記ミスがありましたら、ご容赦下さい。

桃の節句⑤

2013-03-06 23:50:10 | 
この漢の武帝と西王母の桃の話を、
叙情豊かな作品に仕立てたのが、謡曲「西王母」。
御覧になる機会があったら、どうぞ思い出して下さいね。

-これは不思議の御事かな。そも三千年に花咲くとは。
さては、いかさま聞き及べる。その西王母の園の桃か。

中々に、それとも今は物言わじ。

さればこそ、それぞ殊更、名に負う花の。
桃季物言わず。春いくばくの年月を。送り迎えて、この春は。

三千年になるという桃の、今年より。
なるという桃の今年より、花咲く春にあう事も ただこの君の四方の恵み-

ここで、「桃季物言わず」とありますが、これも仙郷絡みの和歌で、
和漢朗詠集では、仙家の項に収録されています。

桃の節句④

2013-03-06 00:02:29 | 
それが証拠にとは言いませんが、
「平安貴族の間で、広く膾炙した和歌や漢詩を集めた」はずの、
和漢朗詠集には、「三月三日付桃」という項目があります。

が、その中身は、
「純粋に、桃の花の美しさを謳ったものではなく」
全て、仙郷絡みの歌です。

代表的な歌を、記してみましょう。

-三千年(みちとせ)になるといふ桃の ことしより 花さく春に あひそめにけり

(現代語訳)
三千年に一度、実をつけるという実が、
今年の春から、初めて花を咲かせるようになりましたよ

(注)
「三千年になるといふ桃」とは、
三千年に一度、果実が成るという西王母の花園の桃のことです。

「漢武内伝」には、
漢の武帝が、西王母より桃をもらって食べると、
あまりに美味しかったので、これを植えようとすると、
西王母が「此の桃、三千年に一たび、実を生ず」
と言ったという話が、載っています。

この故事を引いている和歌なわけです。

桃の節句③

2013-03-05 00:02:14 | 
中国で理想郷や仙郷を「桃源郷」と称するのは、
陶淵明の「桃花源記」に由来します。

古来、中国では、
桃は神仙(仙人です)に力を与える果実と考えられており、
邪気を払い、不老不死を与える植物として親しまれていたわけです。

女仙の頂点に君臨する西王母(せいおうぼ)の仙桃が、その代表ですね。
西王母の統べる仙郷は「瑶池(ようち)」と呼ばれ、
西方の崑崙山にあると考えられてきました。

ちなみに、男性の仙人を統べるのが、東王父(とうおうふ)。
彼の本拠地が、西の崑崙山に対する、東の蓬莱山(ほうらいさん)です。

日本における古文での「桃」の扱いが、呪術的な側面に限られているのは、
こうした古代中国の思想を、引きずっていたからだと考えられます

桃の節句②

2013-03-03 23:36:20 | 
結論から書くと、
「ヨモツヒラサカ」の話に象徴されるように、
「桃(の実)」には、邪気を払う力があると考えられており、
桃は、極めて、呪術的な意味合いの強い植物だったのです。

雛祭りも、元々は平安時代の「流し雛」の風習を汲む行事であり、
「流し雛」の時は、人形(ひとがた)に、穢れを移して、
それを「流して」いたわけです。

では、なぜ「桃」に、
そんな力(邪気払い)があると考えられていたのか。

そこに、中国の道教の影響を見ることが出来ます。

桃の節句①

2013-03-02 23:35:08 | 

3月3日は、いわずと知れた雛祭りですね。
五節句の一つ、桃の節句です。

ちなみに、五節句とは
1月1日 元旦
3月3日 桃の節句(桃)
5月5日 端午の節句(菖蒲)
7月7日 七夕
9月9日 重陽の節句(菊)
の5つです。

ところで、古文では「桃の花」関連の話が、少ないんです。
「桃の節句」の他は、目立つのは、せいぜい、
「桃太郎」や「ヨモツヒラサカで桃投げた」ぐらいです。

桃の節句にちなみ、それは何故か?というのを、
しばらく考えていきたいと思います。
(その後、梅に戻りたいと思います。)