Are Core Hire Hare ~アレコレヒレハレ~

自作のweb漫画、長編小説、音楽、随想、米ラジオ番組『Coast to Coast AM』の紹介など

027-心霊スポット

2012-10-13 20:24:33 | 伝承軌道上の恋の歌

 今日も僕の部屋にはアキラとトトがいる。トトはイヤフォンを片耳につけてPCを開いてる。僕はと言えばベッドに腰掛け救命箱を傍らにおいたアキラの世話になっていた。
「…いてて…」
 呆れ顔のアキラは僕の目の上にガーゼを当ててテープを貼ってくれてる。
「もう…だから行くのやめろって言ったのに…」
「アノンは?」僕がトトに聞くと
「まだイベント中…ネットでストリーム放送してます」
 その反応は冷ややかだ。椅子に座ってトトが顎をついて見てるのはつい一時間前まで僕がいたスフィアのイベント会場。そこには包帯を巻いてチラシを配る男の姿が映っていた。
「どうやら、既に僕も『スフィア化』してるらしいな」
「…または見世物ともいいます」
 トトの目は座ってる。
「これに懲りたらしばらく大人しくおくことだね」とアキラがぱたんと救命箱を閉める音。どうやら僕を同情する雰囲気は皆無のようだ。
「でも、こんなことやってるのを許しちゃいけない」
「確かにそうだよ?でもシルシ君、もう、この一件はもう君の手を離れてるんだよ…」
「どういう意味だよ?」僕がそう言うとアキラとトトが目を見合わせた。
「あのね…この前シルシくんも見たでしょ?これが、その『神のまねび』という小さな教団が配ってるやつなんだ…」
 アキラがA4の紙を差し出す。そこには『死は彼女を永遠に生かす』と題した散文詩のような文字の下に重ねるように女の子の顔が描かれていた。問題はその女の子の顔立ちが一風変わっていたことだった。少し異国人ぽい大きな瞳と短い鼻筋、まるでこれは…
「アノン、ですよね…」
 トトが傍らに立ってる僕の顔を覗き込む。あの時の僕も同じ印象を持った。そしてそれは今も変わらない。
「どうせまた新手のスフィアなんだろ?」
「スフィア?…思いもしなかったけど言われてみれば、その可能性もあるにはあります。新しいスフィア…でも、ただ雰囲気が全然違ったんですよね…本気っぽいっていうか」
「やってる本人達がどうであろうと、単にアノンをネタにしたのは間違いないはずだ。だってアノンは今や有名人だろ?あいつ似せてこういうものを作るんだって簡単だろ」
「だから、余計に不思議じゃない?だって、アノンちゃんは別に死んでない。そんな誰でも知ってるでしょ?だから嘘をつく意味がないのに、なんでそんなことをするのか」
 アキラはいつももっとも過ぎて今の僕には少し窮屈だ。
「…じゃあじゃあ予言とか?」
 そういうトトはどこか好奇心を抑えきれてない様子だ。
「おいおい…お前、縁起でもない事言うなよ」
「アノンの生き別れた双子の妹とか…」
 アノンのあてつけにトトはふざけてるのか。
「あのな、トト…お前、かぼちゃの馬車の迎えでも待ってるのか?」
「はあ?何言ってるんですか?今夜九時に待ち合わせしてるんですけど?」
「待ちぼうけして凍え死ぬ前に教えてやるけどな。そんなのおかしな連中が始めた夢みたいなは話じゃないか。別に論理的じゃなきゃいけないって訳でもない。理由があるとすれば本人に聞くしかないだろうが、それだって…」
「聞きました。私聞いたんです」
 トトが即座に答えるので思いがけず僕は黙ってしまう。トトも黙る。黙ってすねた子供のように僕の目をにらんでる。それまでとは打って変わって、この先に決定的な何かが待ち受けているかのようなそんな雰囲気だ。それを見かねたのかアキラが続けた。
「その教団の人が言うには、『この女の子はここで三年前に死んだ』んだって…」
 その時心臓が一度大きく脈打った。女の子が三年前に死んだ?あの場所で?それじゃまるで…
「その女の子はまだここをさまよっているって、そう言っていました」
 僕は思わずその場に立ち上がってアキラとトトの二人を見下ろした。
「…僕が…僕が嘘をついてるっていうのか?ふざけるなよ…朝からあんな場所につったって嘘ばらまいて、それでスフィアの連中に馬鹿にされて…それが…それが嘘だっていうのか?!」
 僕の言い方は自分が思っていたより強い調子になってトトを責めているように彼女に伝わった。
「…先輩?」
 トトは僕の様子に怯えてる。
「誤解しないで。ボク達がそう思ってるんじゃないよ?ただ、嘘を言うにしてもあんまり変だから一応伝えておこうと思っただけ」
「で、アノンは、アノンは知ってるのか?」
「知らないんじゃないかな。ボク達もその集まりを見たのは最初で最後なんだ」
「…そうか」
 僕はベッドに力なく腰を下ろす。アキラの言ったとおりなのかも知れない。どうも事態は僕独りで片付く問題じゃなくなってるらしい。どうにかしてもつれてばかりいる物事を解かなきゃいけない。そうしないといずれもっと大きなモノに巻き込まれていずれもっと大きな事件が起こらないとも限らない。しかし、そのほつれを見つけるには…
 わずかな期待を賭けて、僕はとある場所へ行く決心をした。

…つづき

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