気がつくと病院の一室にモノはいた。ぼんやりと開いた目の先には一人、ベッドの傍らに座る女の子がいた。
「…やあ、モノくん…」
トトの声がした。
「ああ。俺、少し寝ちゃってたみたいだ」
「…そう、モノくん…とにかく今は安静に…」
トトの返事をどこかそっけないと感じた。
「スフィアは…スフィアはどうなってる…?」
「分かんない。知らないよ」
「なあ、トト、聞いてくれ。アノンの正体が分かったんだ。彼女は身元を偽ってる。小悪党たちの道具だったんだ。それと…やつらはあと二人いるんだって言ってる。やつらは仲間だって言ってる。仲間を見つけたいって」
「…何、言ってるの?」
トトはただ戸惑っている。でも伝えなきゃ。デウ・エクス・マキーナに秘められた一番深いレイヤーを見つけた。まだ誰も知らない。まだスフィア化していない深淵。次々とそれが現実に影響して世の中を動かし始めてる。このメカニズムはこの世界ではまだ明かされてない隠された呪文だ。触れたものだけが命と引き換えに得られる禁忌だ。俺はそれを見てそして感じたんだ。その思いだけが頭の中をぐるぐると混ぜ繰り返して運動してその先から表現がついて出てくる。これを伝えなきゃ嘘だろう?
「トト、俺が間違ってた。やっぱり本当に起こったことだったんだ。そうだな…告発。マキーナは告発をした。やつらがやったんだ。でもイナギの事故のことは知らないって言ってた。そしてスフィアのことも」
「モノくん、だから一体何を…」
「俺も最初は利用するつもりだったんだけど、失敗した。結果がこれさ。俺ではなかった。分かったのはそれだけだ。偶然なんだろうけど、このタトゥーをスフィアのみんなで入れだしたってことでやつらにとって攪乱作戦になったんだろうな。ただ一方で、やつらがその『オリジナル』を探すきっかけにもなった。やつらは本物を探している」
「その本物って…」
「ああ、もう遅いだろうな…でも、待ってくれ…この観測によって予定された客体だってまた変化したんだ。だから間に合うかも知れない…だからトト…」
「モノくん…」
そんなモノの気持ちとは反対にトトは悲しい目をしていた。そしてトトは身を乗り出してモノにゆっくり近づくと、傍らの壁についたインターフォンを押した。
看護婦がすぐに駆けつけてきて、何も言わずに取り出した注射器を勝ち誇るように掲げるのを見た、その後の記憶はあまりはっきりしなかった。
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