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「縫うかご」高宮紀子

2016-06-07 10:13:14 | 高宮紀子
◆「無題」高宮紀子作 1988年 シュロの繊維、葉、糸

◆インドの葉のお皿

2000年2月1日発行のART&CRAFT FORUM 16号に掲載した記事を改めて下記します。

 「”縫う”かご」         高宮紀子
 かごの技法を習い始めたころ、その技法の多さに驚き、珍しいかごの写真を本でみつけては作り方を試していました。ある時、ミクロネシアのヤシの葉を使った即席のかごを見るチャンスがあり、そのあまりにも簡単な技術に驚きました。それほど複雑でなくてもかごができる、という最初の体験でした。それからも簡単な技術で作られている民具などに出会い、その方面での興味が増していきました。

 例えば、ワラ縄を巻いて食品を包む方法や、トウガラシを吊して干す方法、大きな葉の端を止めて作った水くみなど、日本にもその類がたくさんあることがわかってきました。特に食品の包装などはとても簡単な構造ですが、ササなどの植物の葉の持つ殺菌力も利用しているうまい方法ですし、いい匂いもします。そしてたいていがひじょうに簡単な技術で作られています。

 今からずいぶんと前のことですが、1988年、東京の目黒美術館で日本の伝統パッケージに関する展覧会がありました。その展示の中で、今ではもう使われない”包み”がたくさん展示されていて、編んで作るものも多かったように覚えています。かごの技術はもともと、素材をどのようにまとめて構成し、一つの立体にするかという技術です。ですから、”包み”のような簡単な技術(中には複雑なものもありますが)と、それほど、開きはないと展示を見て思いました。

 右の写真はインドの葉っぱのお皿です。知り合いの紹介である方のお家に伺い、珍しい現地の民具などをみせてもらいならが、お土産にもらったものです。大きいものだったのですが、引っ越しの時に四分の一ぐらいの大きさに割れてしまいました。植物の名前はわかりませんが、裏がビロードのような短い毛が生えていて手触りもいいものです。
直径が15cmぐらいの丸いっぽい形の葉が2-3牧重なっていて、葉の縁などにそって短い茎のような、枝のようなものでさして止めています。初めてこの葉っぱのお皿を見たとき、これ以上簡単な技術はない、と考えたものです。葉っぱを重ねて止めている枝が、まるで縫っているように見えました。実際には縫ったものとは違いますが、縫う動作と同じようだと思えました。

 かごの技術は、上にも書きましたように素材をどうやったらまとめられるか、つなげて面を作れるか、という技術です。だから、人が日常、使っている技術、だれでも知っているし、やったことのある方法とあまり隔てはないと思います。例えば、大きな荷物や古新聞をくくる時の紐のかけ方や、スカートのヘムのほころびを縫う、ニットを編む、紐を結ぶ、といった動作も、ある意味では造形的な動作ということができるかもしれません。

 普段はこれらの動作に目的があるのですから、造形的な要素に気がつきませんし、糸のような柔らかい素材だと平面になりますから、その構造というものに興味もありませんでしたが、かごを作り出してから、少し考えが変わりました。いざ、弾力のある素材で同じ動作をやってみますと、たちまち素材の固さが形に貢献してきます。ですから、普段、何気なく見慣れたような動作でも、使う素材を変えることで実は面白い造形をしている、ということが発見できます。でも、その類を作品にするという点では、これまでのファイバーアートの世界に作品がなかったわけではありませんでした。新しい素材を用い、大きさを変えた作品がたくさん展覧会を飾りました。

 この写真は1988年に作った私の作品です。シュロの幹にへばりついている網の目状になった繊維のところを少しずつ丸めて一つ一つのパーツを縫って作り、それらを集めてシュロの葉でつなぎました。まるでパッチワークのようなやり方です。布でつなぎあわせるパッチワークの自然素材バージョンというところでしょうか。シュロの葉が固いので、すきまが多少あってもそのスペースを保ってくれます。

 このころ、いろいろなものを縫いました。紙や繊維にミシンをかけたり、樹皮を縫ったり、あまり思うようなものは多くできなかったですが、このシュロの作品とミツマタの作品は気に入っていて、”縫う”かごのテーマの作品をまた作りたいと思っています。今でも布の上に刺繍してある糸が、糸だけ残ってそれが立体になる、そんなことを想像しただけでもわくわくしています。

 その後、アメリカ人のバスケタリーの展覧会を見るチャンスがあり、そこで、偶然にミシンで縫ったかごに会いました。布にしっかりミシンをかけて立体にしてあるのです。帽子のようにすぐに思いつくような形ではなく、とても不思議な立体になっていました。また、細かい樹皮のかけらを重ねて縫い合せていく作品も見ることができました。日本でも布を多重に重ねて縫った作品や紙を縫っている作家がいます。

 生活で使っているような、ものをまとめる、あるいはつなげる方法で、用途とはまったく離れたものを作ってみる、その行為がなかなか面白いのですが、歴史的にはもう既に作品になってしまったアイデアが多いかもしれません。これから作るということになると、素材と技法の新しい関係というだけでは個人の作品にまで到着できないのでは、と考えています。素材と技術の結びつきはさまざまですが、新しい形を生みだす造形的なアイデアがその中から発見できる、このことほど楽しいことはないと思っています。たいがいの場合、うまくいかないことの方が多いですが。        (たかみや のりこ)


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