ああ、これは好き。と、単純に。
中島かずきさんは、本当にこの作品の影響を受けていたんだと納得です。
いろいろな作品の主人公たちが幻斎さんの若い頃の姿に思えてきます。
劇団☆新感線のDVD『吉原御免状』を観た後、速攻で原作『吉原御免状』を読みました。
もう一気。
私にとっては『ダヴィンチ・コード』もメじゃありませんでした。
おもしろかった~。
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吉原御免状
著者:隆 慶一郎
発行:新潮社
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ですが、もし、私が先に原作を読んでいても、たぶん舞台の出来に文句はなかったと思います。
登場人物の造形は異なり、物語の切り取り方もだいぶ違っているので、印象として受け取る人間関係も当然変わってきています。
でも、時間の限られた舞台の上で物語を描くとしたら、このラインだろうなと納得できたというか。
長編を原作にする場合、どうしたってそぎ落とし、切り刻んでつめるしかないことを考えると、上手にまとまってるなぁと。
例えば、ふたりの太夫の扱い。
高尾と勝山。
ふたりとも誠一郎に想いを寄せるわけですが、勝山のエピソードの方が圧倒的に派手で描きやすい。
人を斬るということを感情の延長として行っていなかった誠一郎の、修羅としての目覚めを呼ぶのは、明らかに勝山あってのことで、これ抜きには進まない。
高尾のエピソードは読んでいく分には、とても印象深いものなのですが、舞台で描くには難しすぎる。
歌舞伎の花魁ものくらい、たっぷりと時間をかけて、これでもかと情感を盛り上げないと無理です。
それをやっている暇はなく、実際に舞台に取り入れた部分が精一杯のところでしょう。扱いが軽くて残念ですが。
それが高尾に恥をかかせることになると知らず、揚屋の座敷から抜け出してしまった誠一郎に代わって幻斎さんが頭を下げるところなんてすごくいいんですが、舞台ではさくっと水野が誠一郎を諭すシーンにすりかえて、うまく繋げてます。
おしゃぶにしても同様。
かなりの比重がかかっていると思うのですが、先読みとしての存在に的を絞らないと無理なんですね。
描ききれない。
誠一郎とおしゃぶの印象的な良いシーンも捨てがたいけれど、やはり、御免状と吉原の成り立ちの謎を軸にして、がんがんいくしかなかったかと。
柳生の兄弟のところや、吉原と柳生の関係はもっといれて欲しい気がしましたが。
原作を読んでいて印象が変わるのは、誠一郎の生まれが吉原にとってどういう意味を持っていたかということ。
貴種であること、それは単に徳川よりも偉いからというだけではないことがはっきりします。
傀儡の一族の背景は原作のほうがわかりやすいからです。
中世から連綿と繋がる歴史の裏を生きた人々。
国の枠組みの外側で、天皇と直結していた人々。
中沢新一のおじさんの網野さんあたりが研究していた「異形」の人たちの在りようがきちんと説明されていることが、時代の変転によって、吉原に「公界」としての機能を持たせなければならなかったことを納得させてくれる気がします。
とはいえ、そんなことばかりを考えて読んでいたわけではありません。
もっと単純におもしろいんです。
清冽な青年が思いもよらぬ事態に次第に巻き込まれていくその流れ。
酸いも甘いも知り尽くした幻斎の含蓄ある言葉。(ここがちょっと舞台では弱い。太夫たちと誠一郎の関係の描き方が変わったので仕方ないのですが。)
女たちの深い情。
柳生の兄弟の相克。(柳生、何故か弱いです。というより、誠一郎、強すぎ?)
剣と艶、薀蓄のバランスがよく、硬めの文体も好み。
先日読んだ『信長の棺』と同様、満を持しての作品という雰囲気があります。
幻斎さんは、きっと若い人には描けない人物なのではないだろうかと。
女性の描き方は、時代というものがありますから、好みも分かれると思いますが、私は物語の中では違和感はありませんでした。
おしゃぶがいじらしくて、一番怖い。
9歳なのに。
おススメです。
そして私は勝手に、“ご炎上”だと思い込んでいたような・・・。
どうして“ご”が付くんでしょうね。
>網野さんあたりが研究していた「異形」の人たちの在りよう
ちょっとその辺には、関心があるんです。
学生のときに受けた講義が面白かった記憶を、ずっと引きずっているからかもしれません。
網野さんの本も、持っているはずだけど、あまり読みこなせなかったような気がします。
ちょっとこの作品は、メモです(メモ多過ぎますけど)。
『吉原炎上』って映画がありましたね。
>網野さんの本
私は甥ごさんにあたる中沢新一さんのほうから入った感じで。『悪党的思考』とか。読みこなしたというわけではないのですが、面白かったです。