安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

親子酒

2006年02月24日 | 落語
親子酒

 *これはおとうさんがたいへんお酒が好きでございまして、また息子さんがお好き、どうもお酒と言うものは間違いをおこしやすい、おまえはまだ若いんだから、これからという体、出世前、まァ酒はやめなさい、そのかわりおまえばかりじゃァない、おとうさんも好きなお酒をやめてみるから、おたがいにどうだ、禁酒をしてみようじゃないか。
承知をしました。なんてんで親子で禁酒の約束をしました。またやめまして、半月ぐらいなんてえところが、一番こりゃ骨の折れるところだそうですなァ。

父: おばあさん、今晩どうもむし暑いなァ、こんなむしむし暑い晩は、なんかこう、おなかのさっぱりするようなものを呑んで寝てみたいなァ
母: そうですか? じゃ塩水でもおあがりになったら
父: あたしはおなかを洗おうってんじゃないんだよ。いえねェ、ぴりィッと目の覚めるようなものを呑んでみたいよ
母:唐辛子の水なんかを・・・・
父: おい、金魚がめェまわしたんじゃねえぞ、気のきかねえばあさんだなァ本当に。どうだろうなァ、今晩あたりちょいっとこう、内緒でこんなことを(と、口のところで盃を横に引く形をしてみせる)
母: なに言ってンですよ、あの子と約束なすったでしょう、呑まないという。それもあアたが言いだしたんですよ、第一あアたが呑んでるとこへあの子が帰ってきて、なんて言い訳をします? 駄目ですよ
父: 大丈夫だよ、大丈夫なんだよ。あれァなァ、五軒用足しをして、それから帰ってくるんだから、遅いよ。
あれの帰る前にねェ、わたしゃ呑んで寝ちまえばわかりゃしないよ、え?大丈夫だよ、だからさ・・・・
じゃ、いい、いい、こうしよう、一本(指を一本示して)、あと言わないよ、あ、このわたがあったろう、あれがありゃなんにもいるもんか、だからさ、一本きりつってるだろう? そういうことを言うもんじゃないよ、そりゃおまえ意地が悪いってもんだそりゃ、そうだろう? おまえとあたしはねェ、永年のつきあいだよ、頼むよ
 *こういわれるともう奥さんの方もしょうがない。
母: じゃ内緒ですよ、一本きりでいいんですねェ
父: おゝ、いいんだよ
 *なんてのがそうはいかなくなってきますからな、
父: (手を合わして拝み、指を一本示して、も一度拝む)
 *拝まれたりなんかして、
母: じゃ、あアたこれっきりですよ
 *ってのが、
父: (また指をだして) もう一本だけ
母: これでおしまいですよ
 *てえと、
父: もう半分 (指で一寸ほどの高さを示す)
 *しまいにゃァ、
父: (肘を張って酔った顔でりきみながら) 持ってこォいッ
 *おとうさん、べろべろに酔っ払ってしまった。
父: お酒がありませんよォ。(したたかに酔った態で前懐から煙草入れを出し、煙管に煙草を詰めてから火をつけ)
お酒がないっての、なに? そいだけ呑んだらいいでしょ? いいでしょってことないでしょ。いいから持ってきなさいよ、なに言ってンだい、えゝ? 酔ってる? だれが、あたしが? ご冗談でしょう、酔っちゃいませんよ、酔ったなんてのァこんなもんじゃないね。これからですよ、呑むのは。馬鹿なことを言っちゃいけないよ、冗談じゃないよ、酔ってなんぞいません、大丈夫。(煙管の吸口をくわえようとするが、口に入らず、口の方を動かしやっとくわえ、一服吸うと大きく吐き出し) あゝ? なに? なにか言うことがあったらはっきり言ったらどうだなァ、口ン中でむずむず言って、えゝ? なに? 伜帰ってきたァ?(膝についた手がはずれて床に落ち)あァ、そりゃ、大変です、そりゃえらいこったそりゃ。(吸殻をはたいて落とし、詰めながら) そういうことァ早く言いなさいよ、帰るなら帰ると一応ことわるがいいじゃねえか、だしぬけはいけませんよ、あのねェ、そちで少し待たしときなさい、おとうさん調べ物をしてるからって、冗談じゃねえ。(煙草に火を吸いつけて下手をにらむように見ながら)
・・・・だれだ?だれだ長太郎か、こっちィはいんなさい
息子: (乱暴に襖をあけると中へ倒れこみ、これもしたたか酔った態で) 
おとうさん、ただいま帰りました。おとうさんのおっしゃるとおり、麹町の横田さんへまいりました。旦那さまァおいでンなって、一杯召し上がってるとこで、
『いいとこへ来た。一人でさみしいとこだ、さァいこう』 
とだされまして、
『それだめです、実はうちのおやじと禁酒の約束をしました、お酒は一滴も飲む訳にいきません』
『馬鹿なことをいうな、禁酒とはなにごとだ、いいから呑めッ』
『いや、駄目です、親と子が、いや男と男が一旦約束したうえからは、呑まんと言ったら絶対呑みません』
『なぜ強情を張る、強情張れば (ひとつしゃっくり) 以後うちの出入りをとめるぞ、それでもいいのかッ』
とこう言いますから、そいからおとうさん、あっし怒っちゃった、怒っちゃったよ。
『たとえ出入りをとめられようがどうしようが、呑まんといったら呑みません』 そうしたら、えらいッて、えらいって、その意気が気に入った、どうだ、その意気でもって一献いくかッ、てえますから、それじゃァいただきましょう。ふたァりで二升五ン合あけた、やっぱりこれで好きなものは、やめようと思っても、なかなかやまりませんねェおとうさん (と、体が右へかしぐ)
父: (吐き出すように) 馬鹿野郎、馬鹿野郎ッ、なんというおまえはなさけない男です。おとうさん言ったでしょう、酒を呑むんじゃないと、けれど、怒ンじゃないよ、怒っちゃいけない、これもおまえの身を思えばこそ言うんですよ、この身代をおまえにそっくりゆずっていこうと思えばこそ、おとうさんは口うるさくおまえに (と、言いながら大あくびをし)・・・・言うんですから、そこをよく考えて、そして (すわらない目で相手を見て、目をパチパチさせてから、また見直し、上手へむかって)・・・・おい、ばあさん、ちょいとここへ来てごらんおい、伜の顔をごらんなさい顔を、七つにも八つにも見えてきた、やァこいつァ化けもんだこりゃ。やァ駄目だだめだ、そんな化けもんみたいなやつに、とてもこの身代はゆずれません
息子: (両手を脇の後ろへ右左と突きながら体を廻して)はッはッはッはッはッはッはッはッ、冗談言っちゃいけねえ
おとうさん、あたしだって、こんなぐるぐるまわるようの家はもらったってしょうがねえや


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