安呑演る落語

音源などを元に、起こした台本を中心に、覚え書きとして、徒然書きます。

権助魚

2019年11月19日 | 落語
権助魚

以前は、甲斐性があればお妾さんを持つことができたンだそうで・・・
ま、持つことができたからって、奥さんの方は黙って見ていたかというとそうでもございませんで、
やはり、まぁ、ヤキモチというのを焼くんでしょう
さ、そうなりますと旦那さんの方も、バレるまでは少ぉし隠して楽しもうという
ま、奥さんの方も、すぐにこれを察しまして

奥: 権助!ごんすけ!権助!
権助: うぇ~い、あんか用かね?
奥: アンカに用はない、お前に用があるン・・・あとをピタッと閉めて、はい・・・・
お前、ちょっと聞くけど、近頃、旦那おかしいと思わないかい?
権助: ・・・・な、何が?旦那が?おかしい?・・・・あれ、おかしいよ。何今更こいてンだい、アレおかしいよ、
みんなそう言ってンだ、近頃どころでねえ、前からおかしいよ
奥: そうじゃない、様子がおかしいっての。なんか近頃妙にソワソワそわそわして、変に若ぶってさぁ・・
あたしゃ、脇ィできたんじゃないかと思うんだよ
権助: ・・脇に?できた?・・・おでき?
奥: ・・・・こんなのができたんじゃないかと
権助: こんな大きなおでき?・・・
奥: そうじゃない・・お妾ができたんじゃないかと思うんだよ
権助: あれまぁ、アマっ子ぉ・・あの旦那がアマっ子・・・ぃや、あの顔でぇ、あらららら、銭っこの力は大したもんだな
奥: 誰が褒めろってそう言ったン・・・どうなんだい?どこに、いくつ位のを囲ってんだい?
権助: いや、おら、そうたらこと知らねぇ
奥: そんなことはない、お前いつだって供へついてってるだろ。どこにいくつ位のを囲ってんだい?
権助: いや、本当に知らねぇんだ。供に付いてってますけど、知らねんで
奥: ア~、はいはいはい、男は男同士ってから、タダではねぇ・・・・
じゃじゃじゃね、これ、お前にお小遣いをあげる・・・
権助: ・・・あれまぁ、なんだこれ、一円ももらえんのけ?
奥: お前が何か好きなものあんだろ?
権助: おら、今川焼きが好きです
奥: だったら、それでたくさん食べて・・・はい、じゃそれを仕舞って・・・はい、さっ、話よくなったろ?
どこなんだい?
権助: はい?はい?・・
奥: どこなんだい?
権助: あ~どこっちゃ、あれです、店出んです・・ほんであの右さ行きましてぇ、二つ目の角を左さ曲がんです
で、一・二・三軒目に豆腐屋があります・・その隣です
奥: まー、そんな近くに・・ま、ちっとも知らなかった。で、いくつぐらいなんだい?
権助: ん~、いや、近頃おら行ってねぇから、あれだども、十銭で四つ?・・・
奥: 何の話をしてんの
権助: 今川焼き
奥: 今川焼き・・・・・お妾さんの
権助: いや、本当におら知らねぇち、・・・
奥: だって
権助: いや、付いてくんです・・・・・だけんどもぉ、途中でもって、『あっ、空を見てみな、珍しい鳥が飛んでる』
ちぅんで、空ァ見るだども鳥なんぞいねえ、と、旦那もいねえ・・忍者見てなやつだ
奥: まかれてんだね・・・はいはい、わかった、それじゃぁね、お待ち、、今ねぇ、床屋に行かれてんの。
戻ってきたら必ずお出かけンなるから、いいかい、今日はまかれるんじゃないよ、わかったね
権助: わかった、大丈夫だおら、お前ぇ様に一円もらったから、お前ぇ様の味方だ
奥: ここに居たらおかしいから、ちょっと隠れて・・・・・あ、お帰りんなった。お帰りなさいませ
旦那: はいはい、ただいま帰りましたいやーサッパリしました・・・ん~え~っと、あー二時か、ん~
あたしね、ちょいと出かけてきますよ
奥: どちらへお出かけでございますか?
旦那: いやいや、あの、どちらへって・・・え~、ちょ、ちょっとねぇ・・・
奥: ちょっと、どちらへお出かけでございますか?
旦那: おぁ、いや、あれ、あ、そうそう、こないだね、日本橋の丸安さんに会ってね、今度暇なときに一杯
やりましょうなんて、そんな話んなって・・え、丸安さんの所へ行ってきます
奥: あ~そうですか、では、権助をお供にお連れくださいませ
旦那: いやいや、遊びだ、ひとりで行くよ
奥: いやぁ、おかしゅうございます。これだけのお店の旦那がお供を連れないというのはおかしゅうございます
からどうぞ、権助をお連れくださいませ。それとも、なんでございますか?権助をお連れになるとなにか
都合の悪いことがございますか・・・・・
旦那: いや~、べつにね、そういうわけじゃないんだよ・・・はい、はいわかりました・・オイ、権助、権助 
権助: はいはいはいはい、ホレ、出かけるべぇ、ほれ
旦那: ・・・今日は早いね・・・なんだな、お前、立ち聞きしてたな
権助: いや、座って聞いてた
旦那: 何を言ってる・・どうにもしょうがないな、えーじゃぁじゃぁ、行ってきますよ
一同: 行ってらっしゃい、行ってらっしゃい、行ってらっしゃい、行ってらっしゃいませ 
旦那: それにしても、今日はいい陽気だな・・・・・ちょっと、さっきから何なんだい、袂をつかんで・・離しなさい
権助: うふ、今日は逃がさねぇ・・
旦那: やめなさい・・・はい、わかった・・・あ、空を見てごらん、珍しい鳥が・・・
権助: んにゃ、今日は鳥なんぞどうでもえぇだ
旦那: ・・・・いやー、どうもおかしいな、い・・・あ~なんだな、お前、うちの家内に頼まれたな、そうに違いない。
あたしが脇にこんなのができたんじゃないかというんで、どこに幾つ位のを囲ってるか確かめてこいとか
言われたな?ぃやー、それもタダじゃぁないな、一円位もらって頼まれたろ
権助: 見てた?
旦那: 見ちゃァいないが、まぁ、そんなところだろ
権助: あんれまぁ、怖ぇやろうだな、何でもお見通しだな・・・・なら、この一円返ぇすか
旦那: いや返すことはない、取っときなさい・・・・・別に二円やろう
権助: なに、これ二円ももらえるかね・・旦那があまっ子こしれえると、おら儲かるな
旦那: そういう事・・勿論ただやるわけじゃない、お前にはそれなりに仕事をしてもらう。いいかい?
お前ね、頃のいい頃を見計らってうちへ帰る、『旦那はどうしたい』と聞かれたら、えー、両国橋のたもとで
もって、丸安さんとバッタリと会いまして、陽気もいいから舟遊びをしようということで、網文という船宿から
船を出しまして、それから網打ちをいたしまして魚を獲りまして、これがたくさんに獲れたので、こいつを
持って柳橋へ上がりまして、芸者幇間を上げましてドンチャン騒ぎ。折角興が乗ったんだ、このまま
別れるのは惜しいというので、湯河原へ送り込みになりましたので、旦那は今晩お帰りはございませんと
こう言うんだ
権助: 何にも見ねぇで良くべらべらべらべら出てくんねぇ、嘘つき慣れてんな。
あー、大丈夫だ、おら、お前ぇさまに二円もらっただからお前ぇさまの味方だ・・・でもおかみさんに三円
もらったらわからねえ
旦那: 危ないな・・・あーそれからな、ただそう言ってもうちのやつは信じまい、途中で魚屋へ寄ってな、
網とり魚を買ってきな
権助: 何だな?その網とり魚っちのは
旦那: 網でとった魚だ、な『これがその時獲れた魚でございます』と証拠を見せれば信じるだろう
権助: わかりやした・・・網でとった魚買うのな・・・あの~、それは・・女将さんからもらった一円から出すかね、
それとも、今旦那からもらった二円から出すかね?それとも・・・・・
旦那: ぁ~あ、わかったわかった、よしよし、じゃぁこれ魚代に一円だ、いいな
権助: あら、わりいな、何かせえそくしたみてぇで・・・
だば、いってらっしゃいませ・・・・・は、嬉しそうに走って・・・あんなに早く動くの見たことねえ・・・
さ、おらも帰るべ・・・あ、魚屋よらねば・・・
ごめんくだっせ!ごめんくだっせ
魚屋: おう、どうしたい
権助: あのー、おら山がのもんでよくわからねぇけんど、網とり魚っちいのくだっしぇ
魚屋: 網とり魚?・・・あぁ、網でとった魚・・ぉうぉうぉう、ここに並んでんのは大概網で獲れた魚だよ
権助: あ、そうですか・・これ何ちゅう魚です?
魚屋: あぁ、これ、ニシンにスケソウダラだ
権助: は、ニシンにスケソウダラちぃますか・・・ふーん、これは網で獲れましたか?
魚屋: ああ、それァ網で獲れた
権助: あぁそうですか、じゃこれももらいますかね・・・あらららら・・・こげなちんけぇ魚、目んとこワラさつっ刺して、
珍しい魚ですね、これ何ちぃ魚です?
魚屋: 知らねぇの?これ、めざし!
権助: めざすぃ?めざすぃ、これ、網でとれましたかね?
魚屋: 網で獲れたよ
権助: じゃ、これ一匹くだっせぇ
魚屋: い一匹?めざしは一把で買ってくれよ
権助: 一匹ではだめですか、じゃ一把くだっせ・・・
え?え?なんだこれ、板の上乗っかってこれ、のっぺらぼうで、どっちが頭だかしっぽだかわかんねこれ、
わ、ぷるんぷるんっつて・・・これなんですか、これ?
魚屋: ・・・・・かまぼこ・・・・・かまぼこ知らねぇの?かまぼこ
権助: は、かまぼっこちぃますか、これ網とり魚ですか?
魚屋: まぁま、もとは網でとれたんだな
権助: じゃ、これくだっせ・・・ほんじゃ一円で足りやすか?あれ、こうたらお釣りが・・・ありがとうごぜいやっす・・・


権助戻りやした・・権助只今戻りやした
奥: はーい、あぁ権助が?じゃ通しなさい・・・・はい、お帰いんなさい、はい・・そこ、ピタッと閉めて、はい・・・
で、どうだったい?ぃえ、旦那は?
権助: あ、旦那は戻ってきません・・・両国橋のたもとで丸安さんにバッタリ会ったんです・・で陽気もいいから
舟遊びでもすんべぇちって、網文ちい船宿から船出して、網ぶちしたん。で、網で魚とって、随分獲れた
ねーちって、で、これぇ持って柳橋さぁ行くべぇって、芸者幇間ぉ上げてドンチャン騒ぎして、こりゃぁ
楽しい、このまま帰ったんではもったいねぇから、湯河原さぁ行くべぇちって、今晩はお帰りになりません
奥: ・・・・・はい、ご苦労さん・・・あぁあ、ちょっとお待ち・・・おかしいね、今の話。・・・いぇ、何がって、
お前が出てったの二時だったねぇ、ねぇ、今二時十五分・・・たった十五分で、魚とってドンチャン騒ぎ、
できる訳がない
権助: あれ、ぃやぃや、やったんです、ものすごく急いで獲ったんです・・本当です・・ぃや、それが証拠にここに
獲った魚あります
奥: そんなものがあるんなら見してごらん
権助: ほれほれ・・はなぁ獲ったのがニシンにスケソウダラちぃやつ
奥: そんなものは北海道の魚だよそれ
権助: 北海道です・・・ニシンが『おースケソウダラ、おら江戸見物さ行きてぇけど、お前ぇも行くかー?』
『おー、行くべー』って来てたとこを捕まえた・・・そのあとに来たのがメザシちぃやつで、この野郎達
ちんちゃげだからバラバラに泳いでっと迷子になったうねえ、じゃ手を繋ぐかー、あ、でもおら達手が
なかった、どうする?あ、ワラがある、あれ、目ぇ繋いだらしたらよかんべ、そんなことしたら痛かんべ、
イタタタタ、イタタタタってやってるところを捕まえたでがす。
で、一番おしめぇに来たのがカマボッコちいやつ・・この野郎魚のくせに泳ぎ知らねぇんだよ。
板の上さ乗っかってプカー、プカーってるとこ、おらが手捕まえ
奥: いい加減におし、冗談じゃぁない。第一こんなもの関東一円じゃぁ獲れやしないよ
権助: なにが?
奥: 一円じゃぁ獲れやしないよ
権助: いや、そぅったらことねぇ、一円でもって、こうだらお釣りもらった
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