私にはもう、あなたを喜ばせられるものなんて何もないのに…。
気がつけば、千秋の腕の中にいた。
男の力の前では傷ついたのだめの抵抗など、なんの意味も持たない。
千秋の胸に押し付けられた耳の傍で早いリズムを刻む鼓動が聞こえた。
(のだめだけじゃない…。)
そんな安心感で、ようやく肩の力を抜くことができた。
「真一くん…?」
自分を拘束していながら、まだ何の説明もしてくれてはいない夫の名前を読んでみる。
「…心臓がバクバク…デスよ?」
「…うるせ。」
少し照れたような千秋の声が降ってきた。
思わず、フフッと笑いが漏れてしまった。
それを咎めるように、のだめの肩を抱く腕にさらに力が込められた。
こんなに近くに千秋を感じるのはいつ以来のことか。
もしかしたら、はじめてかも知れない。
嬉しさと、戸惑いと、不安が同時に渦巻いて複雑な感情が押し寄せた。
―――まだ喜んじゃ駄目デス、真一くんの本当の心を聞くまでは…。
思わせぶりな千秋の行動に、単純に喜ぼうとする自分を無理やり押し留めた。
「どして…。」
耳の傍で聞こえる心音と、自分の感情の嵐が収まり始めた頃を見計らって口を開いた。
「どうして、のだめと別れないんデスか?」
考えをまとめているのか、すぐには答えない千秋を待たずに言葉を続ける。
「後悔…しマスよ?散々、苦しんだはずでショウ?今回のことで…。」
チクン、と胸の置くが痛んだ。
―――できればずっと、このままでいたいデス。
でも…、ちゃんとけじめをつけなきゃ。
真一くんのためにも、のだめのためにも…。
最終宣告を受ける囚人のような気分で、千秋の答えを待った。
「……そうかもしれない。」
ようやく口を開いた千秋の答えは予想通りのものだったはずなのに。
もう何度目かも分からない失意の波が心を襲う。
失意の色を隠せないのだめを知ってか知らずか、千秋は「でも…」と続けた。
「…この先のお前との生活で何度後悔したとしても、お前を失ってする後悔のほうが堪えると思うから…。」
その言葉に気分が少し浮上する。
しかし、次はのだめが「でも…」と続ける番だった。
「でも、のだめ本当になにもできないんデスよ?家事は…前からデスけど、……この手じゃ、ピアノを弾いてあげることも出来まセン。貰ってばかりで、何にも返してあげられないなんて、そんなの嫌デス…。」
再び滲み出した目がばれないように、千秋の胸に額を押し付けた。
「…お前はもう、俺との夢を諦めたのか…?」
「…え?」
予想外の質問に、思わず顔を上げる。
千秋の顔を覗こうとするも、千秋の腕が邪魔でそれは叶わなかった。
「医者は、リハビリ次第ではどうなるかわからないと言っていた。だから、俺はまだお前との競演を諦めたわけじゃない。」
「でも、でも…。直る確証もないんデスよ?」
「俺様がスパルタしてやる。」
「っ…。…それでも、戻らなかったら…?」
―――真一くんが求めているのはピアノだけ。
それが、元に戻らなかったら?
もう、あんな苦しい思いはしたくありまセン…。
「どんなことがあろうと、俺はお前にピアノを続けさせる。でももし、それでも駄目だとしても、お前を放してやる気はない。」
(何で…?)
「俺の帰る場所でお前が待っていてくれて、俺が作る料理を喜んで食べて、笑ってさえくれればそれだけで、俺はお前との結婚を後悔しない自信がある。」
「な、なんデスか、それぇ…っ。」
どこまでも俺様な千秋の答えに呆れつつも、満足し、安堵していた。
やっと、悲しみの涙が止まった所だったのに、今度は感動の涙が止まらなくなった。
そんなのだめを見て、真一くんが苦笑した。
「お前は、泣きすぎだ。」
「っ…、誰のせっ…、デ…スか?」
「……誰だ?」
とぼける千秋を軽く、睨みつけてやった。
「はっ、ひどい顔だな。」
「…!!」
(デリカシーの無い男デスね!!)
千秋はのだめの泣き顔を見て一頻り笑った後、少し切なそうな顔になった。
「ごめん…、ごめんな…。」
そう呟いて、のだめの左手の薬指に口付けた。
まだ、何も通していないそこに。
指輪の変わりに、永遠を誓うように。
―――でも、今、聞きたいのは謝罪じゃなくて…。
「…愛してる。」
求めて止まなかったその言葉に、最後に一粒だけ涙をこぼして目をつぶると、柔らかいもので唇をふさがれた。
next♪
――――――――――――――――――――――――
千秋の名誉挽回を図ったつもりが、いまいち成功していません…。
次で、完結予定です。
多分、きっと、おそらく…。
ちゃんと終われるように頑張りますっ<(>A<◎)
気がつけば、千秋の腕の中にいた。
男の力の前では傷ついたのだめの抵抗など、なんの意味も持たない。
千秋の胸に押し付けられた耳の傍で早いリズムを刻む鼓動が聞こえた。
(のだめだけじゃない…。)
そんな安心感で、ようやく肩の力を抜くことができた。
「真一くん…?」
自分を拘束していながら、まだ何の説明もしてくれてはいない夫の名前を読んでみる。
「…心臓がバクバク…デスよ?」
「…うるせ。」
少し照れたような千秋の声が降ってきた。
思わず、フフッと笑いが漏れてしまった。
それを咎めるように、のだめの肩を抱く腕にさらに力が込められた。
こんなに近くに千秋を感じるのはいつ以来のことか。
もしかしたら、はじめてかも知れない。
嬉しさと、戸惑いと、不安が同時に渦巻いて複雑な感情が押し寄せた。
―――まだ喜んじゃ駄目デス、真一くんの本当の心を聞くまでは…。
思わせぶりな千秋の行動に、単純に喜ぼうとする自分を無理やり押し留めた。
「どして…。」
耳の傍で聞こえる心音と、自分の感情の嵐が収まり始めた頃を見計らって口を開いた。
「どうして、のだめと別れないんデスか?」
考えをまとめているのか、すぐには答えない千秋を待たずに言葉を続ける。
「後悔…しマスよ?散々、苦しんだはずでショウ?今回のことで…。」
チクン、と胸の置くが痛んだ。
―――できればずっと、このままでいたいデス。
でも…、ちゃんとけじめをつけなきゃ。
真一くんのためにも、のだめのためにも…。
最終宣告を受ける囚人のような気分で、千秋の答えを待った。
「……そうかもしれない。」
ようやく口を開いた千秋の答えは予想通りのものだったはずなのに。
もう何度目かも分からない失意の波が心を襲う。
失意の色を隠せないのだめを知ってか知らずか、千秋は「でも…」と続けた。
「…この先のお前との生活で何度後悔したとしても、お前を失ってする後悔のほうが堪えると思うから…。」
その言葉に気分が少し浮上する。
しかし、次はのだめが「でも…」と続ける番だった。
「でも、のだめ本当になにもできないんデスよ?家事は…前からデスけど、……この手じゃ、ピアノを弾いてあげることも出来まセン。貰ってばかりで、何にも返してあげられないなんて、そんなの嫌デス…。」
再び滲み出した目がばれないように、千秋の胸に額を押し付けた。
「…お前はもう、俺との夢を諦めたのか…?」
「…え?」
予想外の質問に、思わず顔を上げる。
千秋の顔を覗こうとするも、千秋の腕が邪魔でそれは叶わなかった。
「医者は、リハビリ次第ではどうなるかわからないと言っていた。だから、俺はまだお前との競演を諦めたわけじゃない。」
「でも、でも…。直る確証もないんデスよ?」
「俺様がスパルタしてやる。」
「っ…。…それでも、戻らなかったら…?」
―――真一くんが求めているのはピアノだけ。
それが、元に戻らなかったら?
もう、あんな苦しい思いはしたくありまセン…。
「どんなことがあろうと、俺はお前にピアノを続けさせる。でももし、それでも駄目だとしても、お前を放してやる気はない。」
(何で…?)
「俺の帰る場所でお前が待っていてくれて、俺が作る料理を喜んで食べて、笑ってさえくれればそれだけで、俺はお前との結婚を後悔しない自信がある。」
「な、なんデスか、それぇ…っ。」
どこまでも俺様な千秋の答えに呆れつつも、満足し、安堵していた。
やっと、悲しみの涙が止まった所だったのに、今度は感動の涙が止まらなくなった。
そんなのだめを見て、真一くんが苦笑した。
「お前は、泣きすぎだ。」
「っ…、誰のせっ…、デ…スか?」
「……誰だ?」
とぼける千秋を軽く、睨みつけてやった。
「はっ、ひどい顔だな。」
「…!!」
(デリカシーの無い男デスね!!)
千秋はのだめの泣き顔を見て一頻り笑った後、少し切なそうな顔になった。
「ごめん…、ごめんな…。」
そう呟いて、のだめの左手の薬指に口付けた。
まだ、何も通していないそこに。
指輪の変わりに、永遠を誓うように。
―――でも、今、聞きたいのは謝罪じゃなくて…。
「…愛してる。」
求めて止まなかったその言葉に、最後に一粒だけ涙をこぼして目をつぶると、柔らかいもので唇をふさがれた。
next♪
――――――――――――――――――――――――
千秋の名誉挽回を図ったつもりが、いまいち成功していません…。
次で、完結予定です。
多分、きっと、おそらく…。
ちゃんと終われるように頑張りますっ<(>A<◎)
今回はとにかく千秋に「それでこそ千秋様だ!」と言ってあげたい(笑)
最終話、楽しみにしてます。
水城様は褒め上手すぎて、調子に乗ってしまいそうになります(嬉)
あと一話にどう纏めるか…。
考え中です…(汗)
グダグダにならないように、頑張りたいと思いますw