やっぱり、俺はお前には敵わない。
伝えきれなかった愛情を込めるつもりで、用紙の未記入欄を埋めていく。
最後の仕上げに判をしっかり押して、完成した”離婚届”に間違いや記入漏れがないかを確認した。
―これを提出すれば、のだめとのつながりはなくなる。
”家族”から”他人”になる。
それが無性に寂しく思えた。
少し感傷的になりすぎた、と一つ息を吐き、そんな気分を振り払うように用紙を鞄に入れた。
翌日、午前中だけだった仕事を終え病院に向かった。
もう一度のだめに間違いがないかを確認をしてもらってから、提出しに行こうと考えていた。
廊下の一番の奥の一人部屋がのだめにあてがわれた病室だった。
おそらく、今日もすでにターニャが来ているはずだ。
そこにどうやって、切り出せばいいのか。
病室の前で少し躊躇した。
しかし、大して良い案も浮かばなかったので、流れに任せるしかない、と腹を括った。
ドアのノブに手をかけて横に引いた。
「そんな、嘘でしょう!?」
中から聞こえた叫び声に、せっかくの覚悟が吹き飛んでしまった。
開けかけたドアは、中途半端に五センチ程開いて止まっていた。
何かあったのか?と様子を伺う。
すると、ベッドに半身を起こしヘッドボードに背中を持たせかけたのだめと、ベッドの脇に立つターニャの姿が見えた。
中の二人がこちらに気付いた様子はない。
「プレゼントが離婚届だなんて、冗談よね?」
「ほんとデスよ。」
信じられない、と全身で表すターニャに、のだめはいつもどおりの笑顔で答えた。
「…なんでよ!?ノエルは素敵なプレゼントを用意して、惚れ直させてやるんじゃなかったの!?」
「ハイwだからのだめ、一生懸命考えマシた☆」
「それで…なんで離婚届がプレゼントに…!?」
気になるのだめの答えを聞き逃すまいと、ドアの外で耳をすませる。
こっそり立ち聞きをするのは多少気が引けたが、今話題に上っているのは他でもない、自分達のことだ。
立ち去るべきだと警告する理性に反して、体は動かなかった。
のだめはしばらく何やら思案顔であったが、ポツリポツリと話し始めた。
「のだめの実家は、日本でも有数の財閥なんデス。大財閥デスから、両親は跡継ぎになる子供を欲しがってたんデス。でも、なかなか子供ができなくて。望んで望んでようやく、身篭ったのがのだめなんデス。」
「じゃぁ、ご両親はとても喜ばれたでしょう。」
ターニャの答えに、のだめは少し寂しそうに微笑んで首を横にふった。
「両親が欲しかったのは、あくまでも跡継ぎになる”男の子”だったんデス。でも、のだめは女デシタ。両親の落胆振りはそれはそれはすごかったらしいデスよ。」
「まぁ…。」
「せめて、良い所にお嫁に行くことで家の役にたてと言われて育ちまシタ。だから、自分は大人になったら政略結婚をするんだって、当然のように思ってたんデス。」
のだめは淡々と話し続ける。
「音大に入ったのも、お嫁に行きやすいようにおしとやかな印象を作るためだったんデス。幸い、ピアノを弾くのは大好きでシタから楽しめまシタ。でも、何かが足りない気がしたんデス。」
「足りない…?」
「ハイ。小さい頃から大きなお屋敷に住んで、たくさんのお手伝いサンがいて、欲しい物は何でも手に入りまシタ。でも、ずっと何かが足りなくて…。その感覚は年を重ねるごとに大きくなっていたのデス。」
いったん、のだめは話を止めた。
そして、一息ついてまた話し始める。
「そんなときに、友達に誘われた飲み会で真一くんと出会いまシタ。」
「なんか運命的ね。一目惚れしたの?」
のだめの両親の話で沈んでいたターニャが、何かを期待するような顔になった。
「いえ、確かにかっこいいなとは思ったんデスけど。」
「ぇえ?じゃぁ、いつ好きになったの?」
「真一くんのコンサトを見たときデス。のだめ、本当に感動して。絶対この人とコンチェルトしたい!って思ったんデス。初めて、意識したのは多分その時だと思いマス。」
「へぇ、それで千秋にくっついてフランスに?」
「真一くんが誘ってくれたんデス。お前はピアニストになるべき人間だ!って。」
「偉そうね。」
「真一くんらしいでショ?まぁ、最初は迷ったんデスけど、真一くんのコンサト聞いて、この人と一緒に居られるなら、ピアノ頑張ろうって思ったんデス。」
「で、こっちに来たのね?その時にはもう、結婚を考えてたの?」
ターニャの質問に、思わず身を硬くした。
その答えこそ、千秋自身がのだめを拒んだ原因の真実であるはずだからだ。
聞きたいような、聞きたくないような。
その場を立ち去りたい衝動に駆られた。
しかし、今更それは叶わなかった。
―真実を知るべきだ。
そんな妙な義務感が、その場に千秋を留まらせた。
next♪
―――――――――――――――――――――――――
すごく、中途半端なところで切ってしまいました…。
今回は、千秋がのだめの本心を知る、っていうとこなんですが。
のだめ、本心暴露回、次回に続きます。(すいませんっ↓↓)
伝えきれなかった愛情を込めるつもりで、用紙の未記入欄を埋めていく。
最後の仕上げに判をしっかり押して、完成した”離婚届”に間違いや記入漏れがないかを確認した。
―これを提出すれば、のだめとのつながりはなくなる。
”家族”から”他人”になる。
それが無性に寂しく思えた。
少し感傷的になりすぎた、と一つ息を吐き、そんな気分を振り払うように用紙を鞄に入れた。
翌日、午前中だけだった仕事を終え病院に向かった。
もう一度のだめに間違いがないかを確認をしてもらってから、提出しに行こうと考えていた。
廊下の一番の奥の一人部屋がのだめにあてがわれた病室だった。
おそらく、今日もすでにターニャが来ているはずだ。
そこにどうやって、切り出せばいいのか。
病室の前で少し躊躇した。
しかし、大して良い案も浮かばなかったので、流れに任せるしかない、と腹を括った。
ドアのノブに手をかけて横に引いた。
「そんな、嘘でしょう!?」
中から聞こえた叫び声に、せっかくの覚悟が吹き飛んでしまった。
開けかけたドアは、中途半端に五センチ程開いて止まっていた。
何かあったのか?と様子を伺う。
すると、ベッドに半身を起こしヘッドボードに背中を持たせかけたのだめと、ベッドの脇に立つターニャの姿が見えた。
中の二人がこちらに気付いた様子はない。
「プレゼントが離婚届だなんて、冗談よね?」
「ほんとデスよ。」
信じられない、と全身で表すターニャに、のだめはいつもどおりの笑顔で答えた。
「…なんでよ!?ノエルは素敵なプレゼントを用意して、惚れ直させてやるんじゃなかったの!?」
「ハイwだからのだめ、一生懸命考えマシた☆」
「それで…なんで離婚届がプレゼントに…!?」
気になるのだめの答えを聞き逃すまいと、ドアの外で耳をすませる。
こっそり立ち聞きをするのは多少気が引けたが、今話題に上っているのは他でもない、自分達のことだ。
立ち去るべきだと警告する理性に反して、体は動かなかった。
のだめはしばらく何やら思案顔であったが、ポツリポツリと話し始めた。
「のだめの実家は、日本でも有数の財閥なんデス。大財閥デスから、両親は跡継ぎになる子供を欲しがってたんデス。でも、なかなか子供ができなくて。望んで望んでようやく、身篭ったのがのだめなんデス。」
「じゃぁ、ご両親はとても喜ばれたでしょう。」
ターニャの答えに、のだめは少し寂しそうに微笑んで首を横にふった。
「両親が欲しかったのは、あくまでも跡継ぎになる”男の子”だったんデス。でも、のだめは女デシタ。両親の落胆振りはそれはそれはすごかったらしいデスよ。」
「まぁ…。」
「せめて、良い所にお嫁に行くことで家の役にたてと言われて育ちまシタ。だから、自分は大人になったら政略結婚をするんだって、当然のように思ってたんデス。」
のだめは淡々と話し続ける。
「音大に入ったのも、お嫁に行きやすいようにおしとやかな印象を作るためだったんデス。幸い、ピアノを弾くのは大好きでシタから楽しめまシタ。でも、何かが足りない気がしたんデス。」
「足りない…?」
「ハイ。小さい頃から大きなお屋敷に住んで、たくさんのお手伝いサンがいて、欲しい物は何でも手に入りまシタ。でも、ずっと何かが足りなくて…。その感覚は年を重ねるごとに大きくなっていたのデス。」
いったん、のだめは話を止めた。
そして、一息ついてまた話し始める。
「そんなときに、友達に誘われた飲み会で真一くんと出会いまシタ。」
「なんか運命的ね。一目惚れしたの?」
のだめの両親の話で沈んでいたターニャが、何かを期待するような顔になった。
「いえ、確かにかっこいいなとは思ったんデスけど。」
「ぇえ?じゃぁ、いつ好きになったの?」
「真一くんのコンサトを見たときデス。のだめ、本当に感動して。絶対この人とコンチェルトしたい!って思ったんデス。初めて、意識したのは多分その時だと思いマス。」
「へぇ、それで千秋にくっついてフランスに?」
「真一くんが誘ってくれたんデス。お前はピアニストになるべき人間だ!って。」
「偉そうね。」
「真一くんらしいでショ?まぁ、最初は迷ったんデスけど、真一くんのコンサト聞いて、この人と一緒に居られるなら、ピアノ頑張ろうって思ったんデス。」
「で、こっちに来たのね?その時にはもう、結婚を考えてたの?」
ターニャの質問に、思わず身を硬くした。
その答えこそ、千秋自身がのだめを拒んだ原因の真実であるはずだからだ。
聞きたいような、聞きたくないような。
その場を立ち去りたい衝動に駆られた。
しかし、今更それは叶わなかった。
―真実を知るべきだ。
そんな妙な義務感が、その場に千秋を留まらせた。
next♪
―――――――――――――――――――――――――
すごく、中途半端なところで切ってしまいました…。
今回は、千秋がのだめの本心を知る、っていうとこなんですが。
のだめ、本心暴露回、次回に続きます。(すいませんっ↓↓)
続き楽しみにしています!
うまい切り方です!!
続き楽しみにしてますね~
こんばんは!またコメント頂けて嬉しいです!!ありがとうございます!!!
今回は”あえての生殺し”を狙ってみましたw
…というのは、嘘で、私の無計画性のせいです↓↓
本当はのだめ暴露大会を一話にしようと思ってたのですが、書きながら気分が変わって…。その結果がコレです(泣)
偶然の産物(使い方合ってますか?)でしょうか!?
中途半端感を拭えるように、次回、頑張りたいと思います!!
★さや様
はじめまして!ようこそAmeriaへ☆
最初、十話完結の予定だったこの小説ですが、気付けば15に手が届きそうな兆しが…。
未熟なりに、奮闘したいと思いますので、またいらして頂けたら嬉しいです!!
ご感想、ありがとうございました!
★水城様
コメントありがとうございます!!
うまいきり方だなんて///
褒めるのがお上手ですね!思わず調子に乗ってしまいそうです…(爆)
中途半端過ぎて気になるのかも知れません。
次回でそれを解消したいと思いますので、またよろしくお願いしますw