古文書を読んで感じたこと

遠い時代の肉声

4回も盗みに入られたら、どうする?

2014-03-22 12:28:02 | 講座(古文書)
盗賊は「前も三度迄参り」
此のたびは「追っかけ」
よきつなで「タタキ殺した」
エーッ なたでタタキ斬っただと……

何を盗られた
書いてないところが最大のミステリーなんだが
盗賊ははっきり見届けたわけではないが「善五郎」らしい

この事件を扱った史料は全部で7通あった
全部紹介するが、長くなるので2回に分ける

古文書は写真に撮って原文を紹介するのが一番いい
くどいようだが、その能力は小生にないので翻刻文で我慢してほしい

さきに解釈文を記す 後の翻刻文と読みくらべて貰いたい


史料1
口上書
善五郎が私方(六之丞宅)へ盗みに参りましたので
追いかけて行って、よきつなで叩き殺しました
前にも三度ほど盗みに参りましたが
その時はまだ誰とは分かりませんでした
今度ははっきり善五郎だと分かりましたので
追いかけて行って殺しました
右の通りに間違いありません
  四月十六日   六之丞
   村役人中様

史料2
善五郎の件につき、六之丞を
私ども三人にお預けなされ
たしかにお預り(留置)しました
  四月十六日
          安右衛門
          善兵衛
          源四郎
   お役人衆


7通を日付順にした 以上2通は4月16日付である


史料1(翻刻文)
    口上覚                          
一善五郎、私方ぇ盗賊ニ参り候ニ付
 をつかけ、よきつなニてたゝき
 ころし申候。前も三度迄
 参り候得共見届不申、此度ハ
 見届申候ニ付、直ニをつかけ殺シ
 申候。以上
右の通相違無御座候。
            六之丞印
   午四月十六日
      村役人中

史料2(翻刻文)
一札覚                          
一此度善五郎一義ニ付、六之丞儀、私共三人
 の者共へ御預ケ被成候処、慥ニ御預り申候処実正也。
 為其如此御座候。以上
   午四月十六日
               安右衛門印
               善兵衛印
               源四郎印
    御役人衆


善五郎が私方へ盗賊に来たという書き出しになっている
前3度の盗賊(見届けたわけではないが)も善五郎と推定していて
今回(4度目)も予想通り盗賊は善五郎だった
何回も盗賊にあって、それも全部が善五郎の仕業だとすれば
確かに腹に据えかねる気持ちも判らんでもない
しかし仕打ちは酷かった
よきつな(斧だよ!)でタタキ殺したという
盗られたものなんか何もなかったのではないか
殺し方は怨念、執念をすら感じる



次の史料は先に翻刻文で記す


史料3(翻刻文)
    六之丞吟味口上覚                     
一善五郎殺候儀、如何様の儀ニて殺候哉
  此もの義、私方ぇ四度迄盗賊ニ参候。前三度ハ善五郎とハ
  乍存、与得(篤と)見届不申候。昨十六日朝盗出候故、付入ニてよき
  つなニて打殺申候。
 前三度も善五郎と存付上候、村役人ぇ届可申候処、無其儀
 殺候義、兼て心掛候哉、又ハ一家共村人の内相談ニても示合置
 候哉、有躰ニ可申候
  前参候節、御届申上候ハ、善五郎意趣ニて私を如何様可仕哉
  冬春二夜迄盗ニ参、私追伏申候。此節迚も聲立申候ニ付、
  隣衆戸明候音ニて逃申候。ヶ様の位故氣遣ニ存御届不申候。
  一家共村人の内壱人ぇも相談不仕、前方より心掛候ニも無御座
  又参盗レ候ニ付、付入ニて殺、直ニ二品取返シ申候。四月十一日昼品ニ
  被取申候ニ付、出し呉候様段々頼申候得共、出不申迚出しくれ
  不申候
 右殺候節、村人其場ぇ行候哉、見届候ものニても有之候哉
  殺候節ハ壱人も参不申候。近所ニても見請不申候。善五郎私
  隣ニて御座候故、御役ニ出候ニも、挊出候節も、隣頼置
  候て出候位難義仕候
  右の通少も偽の義不申上候。以上
   午四月十七日         六之丞 印
     御代官所様
         本紙大垣ぇ遣ス

盗まれたものはよほど大切なものだったにちがいない
私に対して意趣遺恨があって、何をしでかすか分からない
とも供述している こちらの方が本心かもしれない
この吟味は村役人が行ったと思われるが
六之丞の署名捺印を取って御代官所へ提出した

提出先の御代官所は岡田藩の代官所であろう
事件現場は六之丞宅であり、それは沓井村(ほかの史料でわかる)地内にある
沓井村は大垣藩領の時代もあり
何時頃からかははっきりしないが(未調査)
明治の廃藩置県当時まで岡田藩領だった
御代官所というからには、岡田藩領と思われる
大垣へ遣すとあるので、大垣藩の御役所へも提出した



訳文は必要ないかもしれまないが念のためそれも書き添える


六之丞への質問と彼の答え

(質問)善五郎を殺した理由は何だ

(答え)善五郎は私宅へ四度も盗みに参りました
前の三度は善五郎だと知ってはいましたが
はっきり見届け出来ませんでした
昨日は朝のことでしたので彼だと分かり
斧で叩き殺しました

(質問)前三回も善五郎のしわざと思ったのだな
村役人へ届けるべきだった(のにそれもしないで)
わけもなく殺してしまったのは、前々からその計画があったのではないか
また、家族や村人の内誰かにはその計画を話していたのではないか
包み隠さず話しなさい

(答え)前盗みに入られた時(一回目)にお届けしたのは
善五郎が意趣で私に何を仕出かすかわからないと思ったからです
去年の冬と今年の春の二度(二回目三回目)盗みに来ましたので
私としても用心をするより他はありません
この節(三回目)も、コソッときたわけではなく
声を上げながら入って来ました
隣の衆が戸を開ける音に驚いて逃げて行きましたので
善五郎をおもんばかってお届はしませんでした
家内へも、村人へもこの事を相談しませんでした
前々から殺そうなどと思っていたわけではありませんが
また盗みに来ました(四回目)ので、今度は殺して
盗まれた二品を取り返しました
殺す前に4月11日に盗られたものについて
返せと云いましたが返してくれませんでした

(質問)村人の誰かがその場へ来たか 見た人はあったか

(答え)殺しの現場へ来た人は一人もありません
近所の人も見た人はいないと思います

善五郎は私宅の隣ですが(原文は「善五郎私隣ニて御座候故」
となっているが、どうしても話が食い付かない)
お役に出る時も、かせぎに出る時も
隣に留守番を頼んで出ておるような状態で難儀をしております
以上、うそ偽りはありません





史料4(翻刻文)
    村中口上の覚                    
一善五郎、近年わろわざ致候儀被成御尋候。何も
 わろわざものと及承申候。仍て判形仕候。以上
                惣村中
                  連判
   右の通相違無御座候。以上
    午四月十七日
        村役人衆

史料4 読み下し(本文のみ)
善五郎、近年「わろわざ」いたし候儀お尋ねなされ候
いずれもわろわざもの(悪業者)と承りおよび候
よって判形つかまつり候。以上
右の通り相違ござなく候。以上


史料5(翻刻文)
    村方他所口書の写                     
    口上の覚
一善五郎被殺候ニ付、聲ニても立候哉御尋被成候
 私共義、被殺候儀少も存不申候。遅ク候て六之丞ニ
 被殺候儀承申候
  右の通相違無御座候。以上
   午四月十七日      太右衛門 印
               とま   同
               久次   同
               太助   同
        村役人衆

史料5 読み下し(本文のみ)
善五郎殺され候につき声にても立て候や、お尋ねなされ候
私ども義、殺され候儀、少しも存じ申さず候
おそく(なり)候て、六之丞に殺され候儀承り申し候
右の通り相違ござなく候。以上


史料4は「惣村中」から
史料5は「他所村方」の、太右衛門、とま、久次、太助から
それぞれ村役人へ宛てた口上書
それによると、善五郎は村人からは悪業者の扱いを受けていた
(他所村方)は殺されたことを後になって知ったという
史料5で「他所村方口書の写」とわざわざ書き入れているところから見ると
この4人は沓井村の村人ではないと思われる
しかも4人連名である
勝手な推量だが善五郎の近所隣りの衆ではないか
従って善五郎も「他所者(沓井村外)」と思われる
一つ気がかりなことがある 史料4の「惣村中」である


史料6、史料7については次回