古文書を読んで感じたこと

遠い時代の肉声

三五の佳興

2012-09-28 23:49:06 | 講座(古文書)
旧暦8月15日は今年の場合9月30日です
台風18号が本土を縦断するとの予報が出ています
東海地方は明日明後日とも月を見ることは出来ないかも知れません
もう今晩は遅いですが、中秋の名月を少し早めに見て下さい

「庭訓往来」にこんなのがありました

三五は十五夜のことです

手帖(しゅじょう=手紙)をもって申し上げ候
こよい三五の佳興(さんごのかきょう)にそうらえば
一献あいかたむけ
夜とともに月下(げっか)のご詠吟をもうけたまわり
あい楽しみもうしたく
見苦しくそうらえども
手前別荘においてあいくわだて申すべく候あいだ
たそがれよりご来訪くだされそうらはば
かたじけなく存ずべく候  不備

読み下し文だとこうなるが
原文(勿論返り点やふりがながある)を翻刻すると以下のようになる

以手帖申上候
今宵三五の佳興ニ候得は
一献相傾
夜倶ニ月下の御詠吟をも承
相楽申度
見苦鋪候得共
於手前別荘相企可申候間
黄昏より御来訪被下は
可忝存候 不備

比較してみると
上欄はかな主体で一見読みやすそうだが
そうとばかりは言えない
下欄は漢字ばかりが目立って
取り組みにくそうな感じだが
上欄を読んだ後なら下欄の方が
意味も良く分るし
第一重みが違う
上欄はいかにも軽いと思いませんか


漢文ではないが漢文交りの和文
和漢混交文です
古文書をやっている人は
読めない字がある、訳がわからないからと云って
あきらめないでほしいと思う
話はそれますが 聞いて!聞いて!


小生の友達(と云っても小学校の同級生で逢うことはほとんどない)が
詩吟をやっている人がいます
師匠とまではいかなくても人に教えているらしい
羨ましくなって教えてくれと頼みましたら
早速テープに五六曲入れて送ってくれました

皆さんよくご存じの
「不識庵機山を撃つの図に題す」とか
「九月十日」とかの中に
島崎藤村の「小諸なる古城のほとり」が入っていました

人にいえないほど恥ずかしい話ですが
小生文学にも(歴史にもですが)全く疎い人間です

で、藤村の小諸なるも題ぐらいは聞いて知っていました
知っているのはそのあたりまでなんで
あとのところは聞いたこともない状態でした

小諸なる古城のほとり
雲白く遊子悲しむ
緑なす繁萋は萌えず
若草も籍くによしなし
しろがねの衾の岡邊
日に溶けて淡雪流る

もちろん詩吟ですから音符というか
例の棒やら点やらくにゃくにゃとした符合やらを付けるため
漢字にはふりがなが付けてありますから
読むことはできました
ただ意味が全く分りません
テープの声に合わせて吟ずれども
なかなかうまく覚えられません
で、先生であるその友達に聞いたんです
覚えるには意味がわかっていたほうが
上達が早いような気がするので
情景と云うか意味と云うか、
そんなことを教えてくれと頼みました
彼が云うに
馬鹿なことを聞く奴が世の中にはあるもんだ
意味も何も分らずに、ただただ歌え
詩吟は名文ばかりを呻っているんだ
訳がわからんのなんのと云わず
まず空暗記をせよ
百回読んでもわからなかったらニ百回読め
二百回読んでも分らなければもっと読め
名文はなあ 読めば読むほど味が出てくるもんだ
意味を教えてくれなんぞと云う奴の気が知れん

云われてみて分りました
古文書もそうだったんです
読めない、分らないでは何時まで経っても分りません
読めない字も繰り返し繰り返し眺めていると
ある日突然読めることがあります
その時の嬉しさは例えようがありません

このブログ 「三五の佳興」を書きたかったのに
ゴタゴタと御託を並べてしまいました
今夜はとりあえずここまで

このブログを開いた人はチョットだけ調べてみてほしい

三五夜仲 新月色    さんごやちゅう しんげつのいろ
二千里外 故人心    にせんりがい  こじんのこころ と読むんだそうです
      白居易(白氏文集・七律の中)


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