心にうつりゆくよしなしごと / 小嶋基弘建築アトリエ

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木組みによる隅木(隅木の金輪継ぎも)

2012年06月07日 | うんちく・小ネタ

久しぶりに木組みについて。
隅木2007/03/04以来の、隅木・パート2。いきなり上級者向け応用編になってしまいますが。

 

 

 

 

  


寄棟屋根の隅木(棒隅)関係を全て木組みで行った例。現場対応一切無しの、
”オールプレカット”です、これ。仮組みもなし。現場の大工さんは組み立てるだけでOK。


部材寸法は、隅木:幅18cm×成21cm×7m途中で金輪継ぎ、大垂木:12cm×12cm、
柱:15cm×15cm芯寄せあり、方杖:10.5cm×10.5cm、母屋に栗の自然木丸太、その上に乗る束:10.5cm×10.5cm、通し大黒柱:27cm×27cm×7.3m。


隅木の頂部側、大黒柱の柱頭にはマジンガーZの頭部みたいな形状の凸凹の木組みで、特大のほぞ組み。この頂部、大黒柱との取り合いには、隅木1・大垂木2・桁2の合計5材の接合が一か所に集中しています。


釘は一切使っていません(効かないので意味がない)。


隠し金物&ボルトを大黒柱のこの加工形状の木口から仕込んであり、
木組み+金物補強とで、これ以上ない構造接合安全性を達成してあります。
つまり、構造材表わしによる意匠性と耐震性・耐久性とが最高性能で融合しているのです。


母屋と隅木は【渡りあご】で組んでいます。
更に芯寄せのある150角柱の上ほぞは2段の重ほぞにしてあり、母屋を貫通して隅木にまで入っているので、申し分なし。社寺建築でしか採用しない木組みといえます。


下手側の桁との取り合いは軒の出ゼロの意匠だったので、木組みだけという訳にはいかず、隠し金物で接合。コーチボルトではありませんよ。


この家、雑誌にも載ったみたいですね。『大黒柱頂部の5つの部材が大黒柱とどう接合されているのか?』と、質問があったような記憶があります。その回答の画像になります。


前回記事での【8年間のべ320棟】のうちの1棟で、大工として私が担当した構造です。


『……設計士と大工棟梁がほぼ完全分離してしまった現代の都市部では……』と前回記事で書きましたが、かつての棟梁と呼ばれた方にとっては当たり前の様に出来た事ですね。
少し前の建築大工1級技能士の実技試験では、確かこの様な棒隅(45度の隅木のこと。45度以外は振れ隅という)が課題だったはず。


でも、現在主流の”構造材プレカット”のニュアンスからすると、こういう仕事を”プレカット”と呼んではいけないと思うのだけれど、何しろ私が担当したのは構造材の墨付け&刻みだけの仕事だったので、やはりこれも”構造材プレカット”。


こういう仕事、今や伝統技能を持った大工しか出来ない時代になってしまいました。


なので、分譲住宅をやっている大工と、木組みが出来て伝統型木造をやっている大工とでは、同じ大工の呼称ではあるものの、もはや違う職能ですね。私はエアツールの熟練度という点では、古い大工の部類です。へたくそです。


分譲住宅大工は鑿と鉋を使いませんし、規矩術も必要ありません。刃物を研いで使いこなす為の厳しい修行も必要ありませんし、最初は全くチンプンカンプンのさしがね使い・規矩術を夜に勉強して、木組み模型を作って、実戦に備える訓練も必要ありません。


ちなみに、現在主流の構造材全自動プレカット加工による隅木が下の4枚の画像。
分譲住宅のみならず、ハウスメーカーの注文住宅もこれと同じです。

 

 


こんな大きな隅木でも、オス木とメス木とをしっかり組んでいなくて、乗っているだけです、この接合部。そして、金物の指定をしない場合、全自動プレカット構造材を組み立てる大工は3寸釘(9センチ)だけ施工して終了。


長さを継ぐ場合には殺ぎ継(そぎつぎ)といって、斜めにカットはするもののやはり乗っているだけで、金物の指定をしないと、3寸釘だけ。帯金物で補強しているだけまだ良心的な施工なのですよ、これらの画像の施工。構造が見えない”大壁構造”なので、この画像の様に金物でガチガチに接合すれば済む訳です。


いわゆる”ぶっつける”仕事です。


比べてみると、構造が見える”真壁構造”は、いかに手間がかかっているかが何となくでしょうけれど、理解されるのではないでしょうか? ですが、手間をかけるだけあって、木組み+隠し金物による2重の安全性の配慮、耐久性、デザイン性と、どれをとっても最上級です。それが出来るのは、伝統大工だけ。機械での全自動プレカット加工では出来ません。


【200年住宅】を本気で制度化して作る気があるならば、
”ぶっつけ仕事”ではない、真の伝統大工の手仕事が必要です。


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木組みによる隅木の仕事をしている時に、私に3年程付いて修行していた若い子がいました。


彼は私も感心する程熱心で勉強家で、徹夜してでも出来ない事を乗り越えようとする気概があり、この後、努力が結実してこういう仕事が出来る様になって、一級建築大工技能士と同等のスキルを身につけました。何処へ行っても通用する真の大工技能をマスターしたんですね。


でも、今は大工そのものを辞めてしまいました。


技術や技能はあっても鑿や鉋を使う彫塑的な仕事が無い、少ないパイの奪い合い、労働環境が劣悪、将来の人生設計が出来ない等々の理由だったのでしょうか。
私もその気持ち、痛い程自分の事の様に理解出来るだけに、残念でなりません。


”何処へ行っても”と書きましたが、分譲住宅会社へ行ってもそれはそれで通用しないのです。
おかしな事だと思うのですが、大量生産型住宅の”消費地”である都市部ではそれが現実。


技術・技能があるにもかかわらずに自己実現が出来ない。
あったとしても家庭が持てないような生活しか出来ない位の待遇しかない。それでもやりたいのであれば、家庭や子供をあきらめざるを得ない人生の選択に直面してしまう。


無垢の木にこだわり、木組みにこだわり、鑿や鉋を使って家を建てるには、自分で工務店を始めるしかない時代の現実。親の代から家が工務店ならまだしも、資本ゼロから全てを立ち上げる事って、ほとんどの人にとって無理でしょう。


また、自分で工務店を開業出来る経営能力のある大工であればもはや社長業になってしまうので、よほど信念の人でなければ、やはり食べていく為には儲からない(大量生産による薄利多売経営が出来ない)伝統木造から遠ざかってしまう。

『鑿や鉋を使った木組みなどの彫塑的な仕事がしたいのですが、使って貰えないでしょうか?』


釘を使わない大工さんの木組み展・伊豆高原】【釘を使わない大工さんの木組み展・東京】を開催した後、何人かの若者からありがたい話を貰いました。女子もいました。


でも、『……、ごめんなぁ……』と、私の現実をありていにお話しして、理解して貰いました。


宮大工や数寄屋大工と同じ道を辿る事になってしまうのですね。
技術や技能がある方が、却って食えない大工になってしまう現実がある以上、
”伝統大工は絶滅種だと実感”する訳です。


国も、内需拡大、雇用創出、若者やベテランのやる気を引き出す仕事の創出の為にも、伝統型木造住宅で食べていけて、人さま並みの生活が出来る環境の整備をしていただけたら、やる気に満ちて能力のある若者が辞めていくもったいない事態を回避出来るのに、残念です。


さて画像ですが、設計者は私ではありませんので、完成した画像がありません。
私が伝統型木造建築の理解を世間に対して普及啓蒙出来る事は、力不足で、ここまでです。


住まい手の方々にこうした木の表わしの構造美・高性能をご理解いただける様に努めて、
『我が家もああいう木の表わしの家がいいなぁ』と言って貰え、注文していただけたらなぁと思う次第です。

 

 

 

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【追記 2024年3月17日】

比較の為、建売住宅の隅木を掲載しておきます。一目瞭然。

 

日本で一番施工棟数が多いといわれるパワービルダーの施工現場。

部位は隅木と棟木の接合箇所。プレカット加工。

それにしても見事なまでの建売的施工

かすがい金物が施工されているだけマシですが。

 

但しかすがいの使い方が適切ではありません。

材の上端に打っているのが、アウト。

 

下の画像が、国が指導するこの様な部位での適切な使い方。

《写真でみる接合金物の使い方》(材)日本住宅・木材技術センター刊より。

材の上端の表現は何処にもありません。

 

かすがいは『材が割れないよう』との文言が最も重要です。

材の割裂破壊=脆性破壊=強度が一瞬でゼロになる破壊だから。

 

それに、かすがいは強度最低金物なんですよね。

 

短期許容耐力はべいまつ類で1.27kN、べいつが類で1.18kN、すぎ類で1.08kN。

《平成12年建設省告示第1460号に対応した木造住宅接合金物の使い方》

(財)日本住宅・木材技術センター刊による。

 

N値計算では、N=0以下の部位にしか使えない最低耐力金物。

金物補強といっても、最低の補強にしかならない訳です。

 

これが現在のプレカット加工とぶっつけ大工による、

建売住宅・分譲住宅・一般住宅の現実なのです。



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