睦月、如月、そして今季節のこよみは弥生下旬。花見月ですね。春分の日も過ぎ、ソメイヨシノも各地で開花して、東京でも来週末ぐらいが桜の満開でしょうか。陽光降り注ぐ春うららかな中、息子はJR特急スーパービュー踊り子号に乗車出来て、ご満悦(o^_^o) パパは掃除に洗濯、布団干です。 p(^-^)q
さて、少々専門性が高かったかなぁ~(?_?)の、Let's enjoy 構造計算シリーズは⑤の今回でひとまずピリオド。画素数を落として画像を掲載しているので、理解出来ないのではなくて、ただ単に見えないだけかな…
3.5.接合部の設計ですね。3.5.1.で浮き上がりの検討を行います。「3.各部の設計」の項「3.1.軸力の算出」から導きますが、Vt(vertical tension)=VL(耐力壁間の押えに有効な長期軸力の合計)-Vs(耐力壁の回転によりおきる軸力の合計)×β(浮き上がりに対して建物全体が押さえ込む効果を考慮した係数)で計算します。
耐力壁には壁倍率といって、水平力に対しての変形しにくさが数値化されていて、たしか法改正前で長さ1m当たり200kgの力に耐える壁が倍率1で、その時の正長方形から平行四辺形への変形の度合いが1/120ラジアン(角度の単位)が定義だったと記憶しています。(改正後は200kgが196KNへと単位も変わって、”キロニュートン”なんてのより、ボクシングの”パァウンド”やゴルフの”ヤード”やらを国際単位に変更してもらった方が私としては生活が楽しくなるんですけど… ちなみにトリノ五輪ではスノボのハーフパイプ見てたら、公式TVでちゃんとメートル表示されてました♪)
ところでこの壁倍率という奴はやっかいな代物で、倍率を上げる(但し法令による仕様規定では5倍が上限)に連れて、接合部の接合強度を比例してアップしないことには耐力壁としての効果が発揮されない特性があるんですね。このことが大変理解しにくいようで、壁倍率さえ上げれば地震に強くなると単純に思い込んでいる設計者や施工者が多いのです。
2000年の法改正では、構造計算によらずに仕様規定で設計施工するのであれば、徹底的に構造の金物補強(…というか、”木造金物接合構法”という形に現実はなりました)が義務付けられました。このことの理屈を知りたい方は、『E-ディフェンス』 を見て、学習することをお勧めします。というか、プロとしてこの業界でメシを食っている人間は、”知る”こと位は必須ですよね~。
ということで、どの柱がどれ位の浮き上がりが生じているかを表で示し、略平面図で更に解り易く図示します。そして対策として、伝統構法的アプローチではなく、現在主流の仕様規定在来構法的金物補強策(実際には補強ではなくて、金物が主扱いなんですけど…)を示す訳です。2000年法改正で一躍脚光を浴びた『ホールダウン金物』ですね。
ただ、今回、構造計算により算出したデータなのでこれだけの量で済んでいるのですが、構造計算によらない事が圧倒的大多数の2階建て迄の構造なのであれば、仕様規定にも『N値計算』という簡易計算法が用意されているので、お勧めです。それすらもやらない・やろうとしない・やろうとしても出来ない設計士によるのであれば、純仕様規定の、ガチガチに金物漬けにするしか今は家は建ちません。結果、構造躯体にボルトの穴をあけまくって、結露による構造躯体の腐食や、熱伝導による温熱環境の悪化は避けられないことになります。
参考までに、限界耐力法構造計算 >許容応力度法構造計算 > N値計算(H12国土交通省告示第1460号第2号ただし書き) > 仕様規定(H12国土交通省告示第1460号)の順に金物の量は減らすことが出来るンですよ~♪
と、続いて、3.6.基礎の設計ですね。何事も基礎が大切。一般の方は土台のことを基礎と思い込まれているようですが、基礎は純粋に地面と接しているコンクリートや石等をいいます。この設計、正しく行えば地中梁が必要になるケース、鉄筋がワンサイズ大きくなったり、大きくならないまでも増加したりするケース等、上部の間取りによってかなり”ごつい”ものになることがあります。しかし発注者からすると!と?のようで、『そんな設計になるんだったら、よそに設計させるからもういい!』と罵声を浴びせられた一級建築士を私は知っています。
その発注者の名前は明かせませんが、耐震強度偽装を賑わしている○○元建築士や○○社長やらがやっていたことは、何処にでもとは言いたくはありませんが、対岸の火事ではないことだけは間違いないと思います。本来木造で建ててはいけないような建物を、”コストダウン”の為に木造で建てる行為を平気で行う意匠設計士と建築主がいることが問題なのです。どうして、そこまでして受注したいのでしょうか。お客様にはおそらく何でも『出来ます』なのでしょうね。ただ、これも煎じ詰めればお客様の”自己責任”にもなってしまうことなので、安請け合いするような業者には要注意だと思うのですが…。
続いて、3.7その他 です。3.7.1で転倒の検討、3.7.2で層間変形角の検討、3.8で二次設計ですね。転倒とは文字通り、のっぽ状になりがちな3階建てなので当然の事として、層間変形角とは倒壊までは至らないまでも、地震や台風時にどれ位家が傾くかということを計算するもので、品確法では、仕上げ材の損傷の程度を示すものとして表現を変えて規定されているものです。
二次設計とは、最低限人命の安全を確保する為の設計のことで、大地震時(震度6~7)に建物が倒壊しないかどうかをチェックすることをいいます。ちなみに一次設計とは中地震(震度4~5程度)を想定していて、使用上支障をきたさないようにする設計のこと。
層間変形角は、防火の観点からも特に厳しく性能が求められています。木造では、準防火地域の3階建てでは、1/150ラジアンと、それ以外の地域の1/120ラジアンよりも高い耐変形性能が要求されています。変形によって生じる、隙間から一定時間、火が進入したり噴出したりしないようにすることを要求されているからです。ということは、耐力壁量が準防火地域では多く設計することが大切なんですね。
『カーテンウォール』という言葉をご存知ですか?高層ビルの外壁の施工方法のことですが、外装材を躯体(構造の骨組み)とはワンクッション置いて施工されていることをいいます。”ゆーらゆーら”揺れる建物に外装材をきっちり留め付けて施工してしまうと、揺れを吸収出来なくて、ヒビや亀裂ひいては脱落してしまう危険性があるんですね。ですから或る程度の”遊び”が必要な訳でして、まるでカーテンのように、力をふわぁ~っと伝えないことからネーミングされたのだと思うのですが、これも、層間変形角を計算している訳です。
で、ラスト3.8.3で再度偏心率の計算が出てきていますが、この計算書を作成した頃は、法改正に伴って許容応力度法による計算方法も改正される移行期でした。偏心率計算がそれまでの計算法には義務付けなく、あくまで自主計算にて安全性を少しでも高める為に行っていたものです。ここでの数値が0.15になっているのは、建築基準法施行令第82条の3の2項によるもので、木造を除く建築物に適応されているかなり厳しい数値です。
偏心率とは各階の間取りの重心と耐力壁の剛心を求めて縦軸と横軸でそれぞれの距離(偏心距離)を平面全体のねじれに対する抵抗の度合いを表す”弾力半径”で割った数値のことで、剛心まわりのねじれの起こり易さを示したもののこと。地震力は建物の重心に作用すると考えられていて、水平力が作用した時、建物は剛心を中心に回転する訳で、この距離が遠いとねじれ変形が大、と考えているのですよね。
この偏心率、木造で0.15が見送られ、0.3に落ち着いたのは、地方の住宅の間取りに配慮した為なのだろうと思います。南側に大開口を設ける伝統的日本家屋では、限界耐力計算によるか、さもなくば設計上のあるテクニックを用いなければ、0.15では実質建築不可となってしまうのではないでしょうか。多くの点で都市部の住宅に焦点を合わせた法改正だったように私は思っているのですが、結果、地方の住宅に同じ法令を適用するのには少し無理があるような気が私にはしますけど。ただ、2000年の法改正の焦点を逆から見れば、それだけ都市部の住宅が無秩序だということでしょ?
間取りの現実、それは確かに地方の間取りにも多く見受けられてもいますが、やはり都市部のそれは更にひどい、が私の正直な所見です。また、十人十色のデザインは別にして、地方には設計施工を本当に良く知っている腕の良い大工がまだまだ棟梁として全体を統括しているのに比べ、都市部では分業化の短所が建物の質の低下を加速させているように思えてなりません。釘打ち機でなければ釘を打てない大工、鉋掛けも出来ない大工に、本当に良い建物が出来るとは思えないのです。
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ふ~。構造計算って、こうして見てみると大変ですね。私の舌足らずはもちろんを承知の上で、ただ、接合部の計算は、浮き上がりだけでしたでしょう。つまりね、改正前では、柱や梁の断面算定や耐力壁関連の計算はあるものの、梁については、その端部がどう他材に関連していて、荷重がどれくらいの応力の伝達が出来るのかとか、木組みによる違いとかは全くノーチェックだった訳です。例えば蟻仕口一つでも『蟻掛け』・『大入れ蟻掛け』・『腰掛蟻』・『茶臼蟻』とでは接合強度も荷重の応力伝達性能も異なるのに、それらについては、触れられていない。
また、耐力壁の配置についても、基準法としては、ほぼ正四角形でほぼ総2階的な間取り・構造でしか対応していないという現実があり、改正後の1/4バランス計算や偏心率計算についても、基準法的には凸凹やセットバック・オーバーハングのある間取りについては対応出来ないということで、コスト優先の弊害とまでは言い切れない面がありますけど、大人の木造建築について、限界耐力計算法の一日でも早い整備と運用、そして活用を私としては期待したいところです。
でもね、本当に大切なのは、構造計画なんですよね。伝統構法はその事からしっかり配慮しなければ、施工出来ない構法です。伝統構法が理解出来るのであれば、自然と構造計画も理に適ったものになっていくし、おかしな材料を使うことなく、耐力壁を併用することで、保有水平耐力は木造では最大になります。なにしろ、筋違い・構造用面材を使うこと無く、骨組みだけで自立する構法なのですから。
終り。