心にうつりゆくよしなしごと / 小嶋基弘建築アトリエ

山あれば山を観る 雨の日は雨を聴く 春夏秋冬 あしたもよろし ゆうべもよろし

木組みによる隅木②捻組と渡腮

2012年06月25日 | 日記・エッセイ・コラム

設計仕事の次は大工仕事。
木組みによる隅木(隅木の金輪継ぎも)2012.06.07の続編。


私に付いて3年程修行していた20代前半の若者による墨付け&刻みの紹介。
画像左上の右側がその彼。ガッツがあり、勉強熱心で、素直で、たいへんな努力家でした。


彼は建築未経験から3年未満で建築大工1級技能士同等のスキルを身に付けました。
ノーミスでしたヨ。素晴らしい

 

 

 

 

小屋梁の接合は全自動プレカットだとL字型。ここでは全て木組みだけで構造強度を出す為、+字型に。その部位に隅木と柱を加えた4部材を【捻組渡腮+”重ほぞ” : しかも隅木まで差さるダボ方式】としてあります。これ以上申し分無しの200年住宅の為の木組み。

 

ちなみに、木組み(捻組と渡腮)によらない場合と比べてみたのが下の画像。

 全自動プレカット工場仕様

 

 

伝統大工仕様

 

 

宮大工仕様


正確には上段が全自動プレカット工場の生産ラインとそこに常駐する大工によるハイブリッド手加工仕様(生産ラインだけではそもそも加工不可)、中段が伝統大工仕様、下段が法隆寺五重塔三重部分の宮大工仕様(超お宝画像)。


    
伝統大工仕様と法隆寺五重塔宮大工仕様は”重ほぞ”が無いだけで、あとは同じ渡腮なのが分かりますか?捻組は組んでしまうと分からなくなってしまうのが残念。注目は受ける側の木の欠損量の違い。上段の画像、全自動プレカット工場仕様の材は欠損量が大き過ぎて、危険なのですよ。アウトですね

 

中段と下段の画像は、金物に頼らない木組みの構造耐久性能が200年を遥かに凌ぐ事の証明。


ここで注意しなければならないのは、捻組と渡腮を回避してしまうと木の性質上、先端部が欠損してしまう事。つまりネ、一瞬で強度ゼロになる脆性破壊が発生してしまうのだ。

破壊が起こった画像が下。




受ける側の水平材の先端部分が欠損して無くなっています。専門用語で言う”剪断(せんだん)破壊”を起こしたのです。それは一瞬にして木組みによる強度がゼロになってしまった事を意味します。


この剪断破壊を発生させない為には、木組み部の凸凹の欠損量を調整して、一見無駄とも思える木組み部から先の”伸びしろ”部分を多く残す以外に方法無し。


隅木の捻組と渡腮は、この欠損量を調整して、剪断破壊するのを防ぐ為の木組みです。
ぶっつけ仕事をしない、本物の伝統大工にしか出来ない木組みなのです。


”なんちゃって木組み” や ”なんちゃって伝統大工” って、結構あるのですよ~
しかしながら、刻みはともかく、墨付け出来る伝統大工が実は絶滅寸前。


なぜなら、大量生産型住宅では最初から木組みを放棄して、下の画像の様に金物に頼って、ぶっつければ済むから。構造が見えないって、そういう事。お客さんは床の傷には神経質なのだけれど、生命にかかわる構造の事はわからないからネ。

 

 

素人の方やプランナーは理解出来ないのだけれど、伝統大工による木組み式と、全自動プレカット式とでは、強度性能・耐久性能共に木組み式が圧勝です。

 

ちなみに、全自動プレカット式の ”金物補強” は、某ハウスメーカーの物件で監理として建て方に立ち会っていた私の現場指示で施工して貰って、監理写真として記録したもの。私がその某ハウスメーカーにお世話になる迄、その会社では施工マニュアルにも記載が無かった程度のレベル。残念ながら、それが木造住宅の現実です。

 

 

 さて、下の画像で、全自動プレカット式では母屋が既に剪断破壊しているのがわかりますか?

母屋と隅木との金物補強も無し。それに比べ、伝統大工式では”伸びしろ”を15cm以上確保した上で、補強の為、確実に羽子板ボルトでも引いています。見る角度が異なるから、分かりにくいかな?


全自動プレカット工場式

 

 

伝統大工式

 

 

200年住宅を本気で制度化して作ろうと思うなら、設計士も大工も勉強しなければダメだよネ 


住宅販売会社はカタログや営業トークで美辞麗句を並べたらダメですよ。
(それでも、お客さんは構造の事を理解出来ないから、騙されてしまうのでしょうけどネ)


木組みによる隅木の渡腮や捻組の墨付けと刻みが出来る大工は、本物の伝統大工。
仕事に嘘は無く正直なので、家を建てる依頼をすべき人間です。


これからEURO2012 準々決勝イングランドVSイタリアをTV観戦です。

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

【追記 2024年3月17日】

比較の為、建売住宅の隅木を掲載しておきます。一目瞭然。

 

日本で一番施工棟数が多いといわれるパワービルダーの施工現場。

部位は隅木と棟木の接合箇所。プレカット加工。

それにしても見事なまでの建売的施工

かすがい金物が施工されているだけマシですが。

 

但しかすがいの使い方が適切ではありません。

材の上端に打っているのが×。アウト。

 

下の画像が、国が指導するこの様な部位での適切な使い方。

《写真でみる接合金物の使い方》(材)日本住宅・木材技術センター刊より。

材の上端の表現は何処にもありません。

 

かすがいは『材が割れないよう』との文言が最も重要です。

材の割裂破壊=脆性破壊=強度が一瞬でゼロになる破壊だから。

 

それに、かすがいは強度最低金物なんですよね。

 

短期許容耐力はべいまつ類で1.27kN、べいつが類で1.18kN、すぎ類で1.08kN。

《平成12年建設省告示第1460号に対応した木造住宅接合金物の使い方》

(財)日本住宅・木材技術センター刊による。

 

N値計算では、N=0以下の部位にしか使えない最低耐力金物です。

金物補強といっても、最低の補強にしかならない訳です。

 

この様な屋根に条例で『太陽光発電パネルを載せろ!』

というのは、ちょっとマズイでしょ?

 

という訳で、再度。

『200年住宅を本気で制度化して作ろうと思うなら、設計士も大工も勉強しなければダメだよネ  』

『住宅販売会社はカタログや営業トークで美辞麗句を並べたらダメですよ。 』


ブログランキング・にほんブログ村へにほんブログ村

 


最新の画像もっと見る

コメントを投稿