NHKテレビテキスト 100分で名著 太宰治の24ページからの転載です。
戦争が終わった昭和20年。没落貴族となったうえ、当主であった父を失った
かず子とその母は、生活が苦しくなったため、東京の家を売って伊豆の小さな山荘
で暮らすことになる。その一方、南方の戦地から行方不明だった弟の直治が戻ってくる。
直治は重いアヘン中毒になっていた。直治は、家の金を持ち出し、そのまま東京に住む、
既婚者で無頼派の作家・上原のもとへ行き、彼を師と崇めながら荒廃した生活をおくるのである。
やがて、母は結核にたおれる。ひとりになったかず子は、ある決心をする。
なにもかも一からやり直すのだ。思えば、貴族の末裔だったかず子は、なにも
できない女だった。周囲に勧められるままに結婚し、死産し、家に戻された。
そして、気がつけば三十を前にして、いままで働いたことさえないのである。
財産もない。生きてゆく能力すらない。そのとき、かず子の脳裏に
、
一度しか会ったことのない上原の姿が思い浮かんだんだ。
まるで、それが義務であるかのように、世間の常識とは反対の行動をとりつづける上原に、かず子は
心惹かれていた。そして、かず子は、「あなたの子供を産みたい」という手紙を送るのである。
けれど、返事は来なかった。そして、ついに、母が亡くなる日がやって来る。
かず子は決心する。行こう、あの人のもとへ。
かず子は東京の上原のもとに向かう。運命のように結ばれたふたりだったが、
その翌朝、直治は自殺していたのである。
かず子と上原は共に暮らすことにはならなかった。上原は去り、新しい生命を宿したまま
、
かず子はほんとうにひとりになる。けれども、かず子には希望があった。
シングルマザーとして生きてゆくこと。ひとりで、子どもを産み、
育ててゆくこと。そのことの中に、未来がある、とかず子は信じた。
そして、決別の手紙を上原に書くのである。
戦争が終わった昭和20年。没落貴族となったうえ、当主であった父を失った
かず子とその母は、生活が苦しくなったため、東京の家を売って伊豆の小さな山荘
で暮らすことになる。その一方、南方の戦地から行方不明だった弟の直治が戻ってくる。
直治は重いアヘン中毒になっていた。直治は、家の金を持ち出し、そのまま東京に住む、
既婚者で無頼派の作家・上原のもとへ行き、彼を師と崇めながら荒廃した生活をおくるのである。
やがて、母は結核にたおれる。ひとりになったかず子は、ある決心をする。
なにもかも一からやり直すのだ。思えば、貴族の末裔だったかず子は、なにも
できない女だった。周囲に勧められるままに結婚し、死産し、家に戻された。
そして、気がつけば三十を前にして、いままで働いたことさえないのである。
財産もない。生きてゆく能力すらない。そのとき、かず子の脳裏に
、
一度しか会ったことのない上原の姿が思い浮かんだんだ。
まるで、それが義務であるかのように、世間の常識とは反対の行動をとりつづける上原に、かず子は
心惹かれていた。そして、かず子は、「あなたの子供を産みたい」という手紙を送るのである。
けれど、返事は来なかった。そして、ついに、母が亡くなる日がやって来る。
かず子は決心する。行こう、あの人のもとへ。
かず子は東京の上原のもとに向かう。運命のように結ばれたふたりだったが、
その翌朝、直治は自殺していたのである。
かず子と上原は共に暮らすことにはならなかった。上原は去り、新しい生命を宿したまま
、
かず子はほんとうにひとりになる。けれども、かず子には希望があった。
シングルマザーとして生きてゆくこと。ひとりで、子どもを産み、
育ててゆくこと。そのことの中に、未来がある、とかず子は信じた。
そして、決別の手紙を上原に書くのである。