◇幻想詩人YO=YO◇    □Visionary Poet Yo=Yo□

【死刑囚】エリク君が覚醒するような詩・死刑への依存と甘え なお著作権は放棄しておりません、無断転載はお断りいたします

 ◇ 鋏の家 ◇

2014-06-27 09:52:01 | 小説
京子は子供の頃から、鋏が大好きだった。

鋏で紙を切ったり、リボンを切ったり、2人姉妹の妹の京子は一人で遊ぶ事が多かった。

姉の慶子はダウン症児だったからだ。

お年玉を貰うと、ドイツ製の大きな鋏を買って、両親を驚愕させた。

今年20歳、短大を卒業して初めてのお給料で買ったものも鋏だ。

100円ショップの鋏を366個大人買いした。

アルバイトの店員も鋏をまとめて購入する京子に、ドン引きだった。

もちろん、1つの店では品数がなくて、京子は名古屋中の百円のお店に

行って、そろえた時には、幸福感で一杯だった。

一日一丁の鋏を使い続けても、一年は真新しい鋏が使える。

京子は、鋏でシャッキン、シャッキンと空を切って、

その音色を存分に楽しんだ。

新しい鋏は、その音色がくすんでいない。

透き通った透明な音色がした。

慶子の髪の毛を、母親が鋏で切っていた。

母親がシャッキン、シャッキンと音をさせて試し切りをしていたのが

京子の子供の頃の一番初めの記憶だった。

慶子の髪型はいつもおかっぱだった。

毎日朝9時に母親が慶子の前髪を切りそろえるのが日課だった。

 ◇ 光の旅 ◇

2014-06-26 13:31:49 | 
光が宇宙の端まで届いて
宇宙の端で投影された像が歪み
また同じ場所に戻ってくるまでの時間を旅していた
戻ってきた時には、光は歪んだ場所に歪んだ二人の虚像を結んだ
時間が未来から過去に逆に流れてゆく
死から生に逆に流れてゆく
そんな空間では
光は君の泪の表層を流れてゆく景色の中で、移り変わってゆく
窮屈を感じているのだろう
もう戻らない時間を惜しむように

 ◇ 絶望 その28 《完》◇

2014-06-26 12:24:26 | 小説
「じゃあ、その手に持っている傘は何ですか?」と僕は強い口調で言った。

すると、長谷部は「生前お母さんに傘を貸していたので、返してもらいに来ました。」

「でも、黙って持っていく事はないでしょう。」

「さあ、そんなつもりはなかったです。」と長谷部はとぼけた。

成城の警察署に電話してみたが、時はオウム事件が起きていた頃で、警察も忙しいようで、

まったくとりあってくれなかった。

事件性がないと言われてしまった。

子供たちは、好き勝手に家の中の人形や置物などを持っていった。

そんな事件があって、僕は体育の単位を落としてしまい、留年した。

5回欠席すると単位が貰えず、僕はすでにその時4回欠席している事を忘れていた。

三村さんには、それから外出する時は、玄関だけでなく家中の雨戸を戸締りして

合鍵はポストに入れずに、防犯を徹底するように言い聞かせた。

三村さんはその後しばらくして、肺の病気で家のお手伝いに来てくれない日が続いた。

そうこうしているうちに、父がまた精神病を再発して、夜中に暴れるようになった。

大学の夜間は通常5年で卒業だが、留年したため僕は卒業まで6年かかって、そのまま就職浪人になった。

人生がばかばかしくなり、就職浪人をしながら、海外へ放浪に出て行った。



僕が海外に出たのは、そんな理由からだ。

それから、高橋和高は自殺した。静岡の高校を出て、海上自衛隊にいたが、

除隊して祖師ヶ谷大蔵に住んでいた。事件は関係ないと思う。誰のせいでもない。

しかし、精神科医の母が患者の長谷部に一本の傘を借りなかったら、中央も高橋和高も

自殺しなかったかもしれない。そして「瑛太」の義眼がガラス瓶の中にあるのを見て思う。

なぜ私は「瑛太」を殺したのだろう。2つの義眼はガラス瓶の中で、精液に浸って妖しく光っていた。

                    《完》

 ◇ 絶望 その27◇

2014-06-26 11:42:38 | 小説
父はおそらくパチンコに行っていて、家におらず、三村さんもたぶん夕飯の為の食材を買いに

スーパーに出かけている所だった。

玄関の鍵は施錠してあったが、こいつらはリビングの窓から上がりこんでいた。

庭に目をやると、僕が丹精込めて育てている花壇の花が、子供たちによって無惨な姿に変わっていた。

ペチュニアもベゴニアも踏み潰されていた。

引率している、他の大人も子供が遊びまわっているのを、注意もしないで笑ってみている。

子供たちは、多動性障害の子供たちのようだ。

生前母がこういう連中と親交があったのは知っていた。

長谷部と名乗る男が言った組織の名称は、カタカナ名でよく聞き取れなかったが、

最後に「なんとかオラクル」と言っていたのが聞こえた。

オラクル=神託と昔覚えた英語の単語が頭に浮かんできた。

こいつらは、宗教系の団体だと理解した。

そうしているうちに、近所に住んでいる高橋和高という幼馴染が、家に遊びに来て、

玄関先で子供たちから財布を奪われて、泣きべそをかいていた。

高橋和高というのは、僕の子分みたいな存在で、学校ではいじめられっ子だったが、

いつも僕が助けてやっていた。

僕はお下げ髪の女の子の腕を掴んで、財布を取り返した。

そして、腕を掴んだまま長谷部と言う男に「どういう事ですか。犯罪ですよ。」と言ってみたが、

長谷部は、「未成年のすることは犯罪ではありません。警察を呼んでも同じ事を言われる

だけですよ」と、銀縁のめがねの奥で細い目が笑っていた。


 ◇ 絶望 その26◇

2014-06-26 09:41:12 | 小説
第七章


母が死んで、父とお手伝いさんと僕とで、東京の成城5丁目に家を遺産で建てて住んでいた事がある。

僕はその頃、都立大学の夜間部に通う大学生だった。

単位は、あと体育と卒業論文と、一般教養が数単位残るだけで、まじめに夜の授業に出ていた。

その頃は、父も比較的安定していて、お手伝いさんの三村さんが家の中の事をよくしてくれていた。

そんなある日、突然家の中に数人の子供と、数人の大人が勝手に上がりこんできて、

家の中の物を勝手に持ち出してしまう事件が起きた。

僕は昼間は基本、自室で寝ていて、午後3時ぐらいに目が覚めて、大学の体育の授業に行かなくちゃと準備していた時だった。

リビングが騒がしいので、2階の自室から一階のリビングに降りてみると、若い薄緑色の半袖のシャツを着た、男性が傘たてから、傘を一本抜いて立ち去ろうとしいるのを目撃した。

すると、まだ幼稚園から小学生1年ぐらいの数人の子供たちが、小銭を入れている

キッチンの横にあった瓶から小銭を手に持って出て行く所だった。

僕は「あなたたちは誰ですか・」と尋ねた。

すると、「怪しいものでは、ありません。レジャーサークルの者です。」と男は言った。

男はめがねを掛けていて、ボランティアをしている人にありがちな、社会生活で培われる

厳しさのない、つかみ所のない表情をして、「リージョイス・レプチャー・オラクル代表の長谷部と申します。」と

自己紹介した。死んだ母とも知り合いで、近所の公園に遊びに来た帰りだと説明した。

僕は、家中をはしゃぎまわる子供を捕まえて、その手から、小銭を取り返すと、長谷部と言う男に「今から警察を呼びますから。」と

言った。