虚構の世界~昭和42年生まれの男の思い~

昭和42年生まれの男から見た人生の様々な交差点を綴っていきます

負の連鎖~したたかな準備~

2017-07-07 14:55:37 | 小説


 1995年2月、高橋 昭は、副塾長として腕をふるっていた。塾長は4月に他地区から転勤することになっていたため、実質現場での責任者は高橋がとっていた。

 3月末の開講スタッフの人選も大詰めを迎えていた。

「核になる人物がほしい・・・」高橋は切実にそう思っていた。確かに前に勤めていた塾からの引き抜きで、ある程度のコマと戦力は確保できていたが、もう一枚、エースと呼べる存在がほしかった。


 新聞広告やハローワークに求人の募集は出していたが、飛び込みで来る人材は、どれも危険人物の要素を含んでいた。

 他塾で問題を起こした人、教員として不祥事を起こし懲戒免職となったもの・・・・・。学歴は優秀だが人間としての常識に欠けるもの・・・。


 しかしもその中で高橋は、ある人物と出会う。宇野という男だった。


 面接の第一印象から、洗練された雰囲気を出した宇野は、超難関の有名高校、国立大学卒業という当時の人材としてはかなりイレギュラーなタイプだった。

 「なぜ、うちの塾を志望したのか?、あなたの学歴とその雰囲気なら、塾業界でなくてもたくさんの採用先があるでしょう」と高橋は言った。

 宇野は静かに答えた。「私は学生時代から非常勤講師してこの業界で働いてきました。大学卒業後、違った業界に就職しましたが満足できませんでした。やはり、自分らは「教える」という仕事が天職だと思うのです」

 その言葉には静かで不思議な力がこもっていた。

 

 高橋と宇野はこの後、二人三脚でこの塾を飛躍的に発展させる・・・。しかし、二人の行く末は、天国と地獄に分かれている由をこの時は誰も知らなかった。

 1995年3月、高橋の片腕として、宇野は華々しく塾業界に舞い戻ってきた。


負の連鎖~助走期間~

2017-07-07 07:17:05 | 小説
 高橋 昭が勤めている学習塾は、現在、右肩上がりに業績を伸ばしている。塾生もどんどん増え、
会社も急成長している。各地域に進出し、そこでも巧みな戦略で着実に根付いている。

 彼はある地方都市に転勤を命じられた。そこでの開校準備とその後の副塾長を任せられていた。実質No2の
ポジジョンになる。高橋 昭は、他塾からこの塾にヘッドハンティングされた。前の塾でもNo2のポジションだったが個人経営の塾だったため、自分の力を発揮するためには限界があると感じていた。加えて塾長のワンマンさが気に入らなかった。

 高橋 昭もまたかなりの野心家である。アメリカの大学を卒業したというプライドもあるが、当時はまだ塾業界と言えば、教員採用試験に不合格になったものの就職先、あるいは学歴は高いが社会に迎合できないもの・・・。
こういった人たちの集まるところだった。

 「俺はお前らとは違う」

 彼はそんな野心を抱き、この会社に来た。

 彼の赴任先の地方都市は、人口40万人ほどの都市。大手学習塾と個人の学習塾がしのぎを削っている状態だった。

 「この程度の経営戦略でやってきたのなら、根こそぎで一気にのしあがれるチャンスはある」

 彼は他塾の講師、宣伝力等を詳細に分析し、緻密な経営戦略を立てた。

 「テレビを使った派手な宣伝力と優秀なスタッフ」、彼はまずこの二つを実行に移した。以前の勤務先から
講師をスカウトした。給料、待遇面の優遇はもちろん、何よりも「やりがい」を伝えた。そのあやしい魅力に
惹かれ、優秀なスタッフも集まってきた。加えて、彼の気心のしれたスタッフでもある。みんな高橋 昭のことを尊敬して集まってきた人間・・・。

 これは新しく開講するこの塾でも大きな土台となる。一気に自分がこの地で主導権をとれるのである。

 1994年のことだった。

 彼は会社が用意してくれた高級マンションで暮らしながら、確実に助走期間として力を蓄えいていた。

 高橋 昭の眼には、この40万人の地方都市が、何だか輝いて見えていた。