波乱の海をぶじ目的地へ

現世は激しく変動しています。何があるか判りませんが、どうあろうと、そんな日々を貧しい言葉でなりと綴っていけたらと思います

アヒルと羊

2012-03-27 20:38:14 | 童話




 [アヒルと羊]


 野道を羊とアヒルが出かけていく。
「私たち、似た性質ねえ」
 アヒルが話掛けても、羊は知らん顔して、道端の草を食む。知らん顔でも、いつもアヒルを目の片隅に入れていて、間が離れると、さっと追いかける。追かけながら、口をもぐもぐやっている。
「私たち似た性質ねえ」
 アヒルがいくら言っても、羊は口をもぐもぐやっているから話せない。
 アヒルはいささかおかんむり。池が見えたので、そちらへ走って行く。
 羊は草をこいで追いかける。
 アヒルは池にどぼん。
 羊は慌てて水際まで行ったけれど、ふかふかの毛の服では泳げそうもないから、
「メヘー、メヘー」
 と二鳴きして、忘れたように水をのむ。それから池を回ってアヒルを追いかける。
 アヒルは向う岸について、翼をぶるるん、尾羽をゆさゆさとやって水を切ると、また道に戻る。
 羊は息を切らせて池を巡り終え、アヒルに追いついた。
 そうやって二匹はまた道を歩き出す。
 薄雲に入っていたお日さまが、顔を出してぱっと照りつける。周りの世界がいっぺんに輝く。
 おや? その光り輝く前の道を、こちらへやって来るのは飼主なのだ。出先から帰って来たところらしい。
「あれ、おまえたち、どこへ行くつもりだね。似た性質のものが、こんな遠くまで来ると、帰れなくなるぞ」
 アヒルはたまげたふうに首を伸ばして、きょときょとする。
 アヒルは飼主を一ぺんに見直してしまった。何故といって、自分の思っているのと同じことを言ったのだから――。
 二匹はくるりと向きを変えて、飼主の前を走りながら、アヒルはまた言う。
「私たち、やっぱり似た性質ねえ」
 羊は知らぬ顔で、道端の草をすくい取っては、駆けて行く。                          
                            おわり





               

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