ウィトルウィウスは、建築は「強・用・美」の理を持たねばならない*01と述べています。
「強」とはもちろん建物の強さ、堅牢さ、安全性のことで、本来建築は、人間を雨風から防ぐためのシェルターであり、中にあるものを守るために作られた防護物であると考えるならば-実際ウィトルウィウスも建築の起源をそのようなものと述べています-これはまさに第一に求められるものでもあります。その「強」の“理”とは、いまでいう構造学や材料学に該当するといってもいいでしょう。
「用」とは建築の場が機能的に、また環境的に整備・配置されることで、その“理”とはプランニング(計画)学や環境学などに相当するでしょう。また人体比例を範としたことから現代の人間工学的な、あるいは環境心理学的な要素を含んでいるといってもいいかもしれません。
「美」とは建築の外観に優雅さや用途にふさわしい形態を定めるもので、「美」の“理”とはまさに造形理論ということができるでしょう。
「強」と「用」の理は、どちらかというと実際のものづくりの経験や知識から導かれるもので、 “理”によって説かれるにふさわしいものともいえます。ウィトルウィウスの注目すべきところは、これら「強」と「用」と並べて「美」の理を求めていることです。すなわち、人々の感性の領域とも思われる「美」をも、理性によって解き明かそうとしたのです。彼は数的な原理のシュムメトリアとその調和のとれた配置の原理であるエウリュトミアを始めとする六つの原理*02によって「美」の理を説明しようとしました。
ローマ/パンテオン 118~128AD
ウィトルウィウスの建築論をまさに体現した空間といえるでしょう。
*01:ウィトルーウィウス建築書/ウィトルーウィウス/森田慶一訳 東海大学出版会 1979.09.28
*02:オールディナーティオー(Grk.タクシス)、ディスポシティオー(Grk.ディアテシス)、エウリュトミア、シュムメトリア、デコル、ディストリブーティオー(Grk.オイコノミア)の六つの原理。