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複数の特化した知能領域の発達

 地球に根差した生き物たちは「可動性と、正確な視覚と、動的な環境世界のなかで生存に関連する作業をやってのける能力*01の獲得を通して、真の知能を発展させるための不可欠な基盤をつくりあげてきました。このベーシックな基盤をなす知能を、認知考古学を提唱したスティーヴン・ミズンさんは「一般知能(汎用知能)」*02と呼んでいます。現実環境に住み込む生き物たちの行動は、外部環境との相互作用の中で“意味ある振る舞い”を生み出します。この意味ある振る舞いを記憶し、再認識し、また次なる行動を“連想”することによって、彼らは次の段階に進むことになるのですが、ミズンさんは人類の先祖たちがたどったその段階を次の三つに分けています。
 
最初期はベーシックな一般知能(汎用知能)が主に支配していた段階で、第二期はその一般知能を補足するかたちで、特定の行動領域専用の特化した複数の知能領域が生まれた段階です。そして第三期はこの複数の特化した知能が一体となって動いているように見える段階です。ミズンさんは、このうち第二期に生まれた複数の特化した知能を次の三つの領域の知能として分類しています。道具の製作に向けられた技術的知能、集団の維持に向けられた社会的知能、そして食糧獲得に向けられた博物的知能です。
 
チンパンジーの段階ではまだ「一般知能」が中心でした。これらは、食物収集のための決断とか、道具使用についての学習とか、記号の意味の理解を身に着けるとかの、幅広い範囲の課題のために用いられて*02いました。チンパンジーではこうした「一般知能」のほかに、社会的知能という特化した領域が生まれていました。これによりチンパンジーの社会的な世界とのやりとりがより複雑さを増すことになったのです。そして次に、資源の分布についての心の中の大きなデータベースを構築することに関する、博物的知能の萌芽となるような小さな心のモジュール群が生まれた*02のです。
 
しかしながらこれらの特化した知能領域相互の関係は不十分なものでした。道具使用と食物収集の間の界面(インターフェイス)は非常になめらかでしたが、社会的行動と道具作りの界面はまったく逆であり、そこには「厚い壁」*02があったのです。


チンパンジーの心的状況は、「一般知能」が中心で、互いに隔絶した「社会的知能」と「博物的知能」のモジュール群から形成されています。
チンパンジーの心/「心の先史時代 スティーヴン・ミズン」*02より

*01:表象なしの知能/ロッドニイ・A・ブルックス/柴田正良訳 現代思想 1990.03 青土社
*02:心の先史時代/スティーヴン・ミズン/松浦俊輔+牧野美佐緒 青土社 1998.08.24

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