水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

甘辛(あまから)ユーモア短編集 (40)理由

2021年06月30日 00時00分00秒 | #小説

 失敗したとき、どうのこうの[どうたらこうたら]と理由をつけて言い訳をすることがお有りだろう。この理由を、深刻に辛(から)く捉(とら)えて、さも深刻に言い訳するか、あるいは甘(あま)く捉えて、軽く言い訳するか・・によって、その後の怒られ方に差が出てくるのである。学生諸君は、このことに特に耳を欹(そばだ)てて聞いて欲しいものだ。^^
 とある普通家庭である。朝から中学生になった長男が母親に怒られている。
「えっ!? そんな訳、ないでしょっ! 旅行に行ったせいで成績が下がる訳がないじゃないっ!! お兄ちゃんは、現に成績が上がってるでしょっ! つまらない理由、つけてんじゃないわよっ!!」
「そんなこと言ったって、下がったものは仕方ないっしょ!」
「… そりゃ、下がったものは仕方ないわよっ! テストの答案、返してもらってから上がる訳、ないんだからっ!」
「だからさっ! 僕はどうしたらいいのっ!?」
「どうしたらいいの!? って、頑張りゃいいのって話よっ! 現に、お兄ちゃんは頑張って、成績上がったんだから…」
「兄ちゃんは兄ちゃん! 僕は僕っ!!」
「そんなとこで開き直ってどうすんのよっ!!」
「別に開き直ってる訳じゃないよっ!」
「なにが、『別に開き直ってる訳じゃないよっ!』よっ! 我儘(わがまま)な子ねぇ~!! 今度、下がったら、お父さんに怒ってもらいますからねっ!!」
「はい、はいっ!」
「返事は一回っ! ったくっ!!」
 二人の会話はこうして無事、終結した。
 理由は甘辛に関係なく、納得させるものでなければならない。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (39)ボケナス

2021年06月29日 00時00分00秒 | #小説

 辛口(からくち)な言葉の一つにボケナスというのがある。「この、ボケナスがっ!!」などと言われ、激しく叱責(しっせき)されるときに使われる言葉だ。このボケナスという言葉を、冷静に甘(あま)く考えてみたいと思う。^^
 日曜の朝、漆戸(うるしど〉は早く目覚めた。癖(くせ)とは恐ろしいものである。漆戸は今日が日曜だということを、ついうっかり忘れていた。気づかず、いつものように洗面台で歯を磨き、口を漱(すす)いで顔をを洗った。そして、これもいつものように朝食をトーストと目玉焼きで済ませ、背広に着替えると慌(あわ)ただしく家を飛び出した。通勤する駅は近くで、徒歩で五分あるかないかの距離にあり、慌ただしく家を飛び出すには飛び出すだけの訳があった。いつも乗る列車は8:40発で、8:30過ぎに家を出れば、かろうじて間に合う…と、身体に記憶されていたのである。スリリングなこの繰り返しが、ある種、漆戸の生きている証(しるし)として体調の刺激になっていた。
「ハンカチっ!」
「もった、もったっ!」
 漆戸は、妻が出がけに言う言葉が、今朝はなかったことに列車に飛び乗ってから気づいた。そういえば、今朝は見なかったな…と、妻の姿を見なかったことも不思議に思えた。まっ、いいかっ! と、これもいつものように列車の座席に座って目を閉じ、眠ろうとしたとき、ハッ! と今日が日曜であることに漆戸は気づいた。が、時すでに遅し・・である。列車はいつも降りる駅のホームへ静かに停車をしようとしていた。
「牛毛(うしげ)ぇ~、牛毛です。降り口は右側です…」
 駅員の流暢(りゅうちょう)な車内アナウンスが流れ、列車はホームに停車した。漆戸はドアが開く直前、「このボケナスがぁ~~!」と辛口で叫んでいた。車内の乗客の視線が一斉(いっせい)に漆戸へと注がれた。漆戸は、俺は本当にボケナスだな…と甘く、切なく思った。そういや妻はスヤスヤ・・と眠っていたことを思い出したのである。
 皆さんも辛口でボケナスと言ったり言われることのないよう、注意深く一日を過ごしましょう。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (38)待ち時間

2021年06月28日 00時00分00秒 | #小説

 感覚的に辛(から)い人は待ち時間が長いとイラつく傾向がある。一方、その逆で、甘(あま)い人は特にコレ! という感覚の変化は見せない。生まれ持っての性向なのだから、こればっかりは神さま、仏さまでも変えられないだろう。まあ、もう一度、生まれ変われば変わる可能性は、なくもないが…。^^
 とある地方の警察署である。運転免許の更新が受付窓口で行われている。
 早朝、家の用事があったために出遅れた奥手(おくて)は、汗ばんだ額(ひたい)をハンカチで拭(ふ)きながら、とある警察署へと駆け込んだ。自動ドアが開いた瞬間、目の前に現れたのは受付へ並ぶ長蛇の人の列だった。割り込む訳にはいかんなあ…と、奥手は仕方なく長蛇の列の後方に並ぶことになった。そして、二十分ばかりが流れた。
「奥手さぁ~~んっ!」
 運転免許係の女性係員が快活な声で奥手を呼んだ。
「はぁ~~いっ!」
 奥手は思わず小学生が先生に呼ばれたような声を出して長椅子から立ち上がり、受付へ急いだ。手続きの説明と書類の記入を経て、ようやく、これで…と思ったが、その気分は甘かった。まだ、視力検査が残っていたのである。
「お呼びしますので、お待ち下さぁ~~いっ!」
 ふたたび、女性係員が甘い声で言った。『そうそう! 視力検査だわな…』と、奥手はうっかり忘れていた手続きを思い出した。今までの待ち時間を計算すれば、かれこれ一時間以上は経過していた。
 それからまた、十数分が流れ、奥手は女性係員に呼ばれた。
「お待たせ致しました…」
 受付の前へ立った奥手は、イラつかない性分に生まれてよかった! と神仏に感謝し、思わず両の掌(てのひら)を合わせていた。女性係員が瞬間、訝(いぶか)しげに奥手を見た。
 待ち時間を感覚で捉えれば、イラつく辛過ぎも感謝する甘過ぎも、社会生活には馴染(なじ)まないことが分かる。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (37)処し方

2021年06月27日 00時00分00秒 | #小説

 物事に対する処し方は甘(あま)さを捨て、ともかく辛(から)く考えておいた方がいい。それが何故(なぜ)か? は、私が歩んできた経験上から明確に言えるのである。^^ そういえば随分と処し方が悪く、失敗してきたな…と情けなくて回顧(かいこ)している現在だ。^^
「あのう…詰めてもらえませんかねぇ~~」
 一人の老婆が席を譲ろうとしない座席客に業(ごう)を煮やせて、これ見よがしに言い放った。座席は詰めれば、もう一人がかろうじて座れる程度のややこしい状態である。だが、声高(こわだか)に言われれば仕方がない。一人が詰め、その横の客がまた少し詰め・・と続いて、ようやく老婆一人が座れる席が確保された。
「やれば出来るじゃないのっ!」
 思わず発した老婆のひと言がいけなかった。座席の客達はムッ! とした顔で元の位置へ戻った。するとたちまち、老婆の座れるスぺース は消え去った。老婆はスぺースが開いた次の処し方を誤ったのである。老婆の処し方としては、「すみませんねぇ~!」が正解だったのである。辛口で言ったものだから御破算になってしまった訳だ。
 処し方は、辛いより甘い方がいい・・というお話である。━ 柔よく剛を制す ━ とも言いますしねっ!^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (36)トンボ

2021年06月26日 00時00分00秒 | #小説

 皆さんも、よくご存じかと思うが、トンボの種類に塩辛(しおから)トンボというのがいる。だが、どういう訳か蜜甘(みつあま)トンボというのはいない。^^ トンボがなぜ塩辛いのだけが有名なのか? という所以(ゆえん)は別として、人にも塩辛い人と蜜甘な人はいるようだ。^^
 とある地方の秋の夕暮れである。釣瓶(つるべ)落としの夕陽が西山の一角に姿を消し、辺りは暮れ泥(なず)もうとしている。そんな農道を二人の農夫が話をしながら歩いている。
「おっ! 赤トンボだっ!」
「んっ!? ああ、アキアカネだな…」
「詳しいなっ!」
「ははは…トンボに限らず、蝶や虫には、チョイと五月蠅(うるさ)いんだぜ、俺はっ!」
「ほう、そうか…」
「なにせ、小、中学校では昆虫博士の異名を取っていたからなっ!」
「偉かったんだな、お前。ははは…」
「ははは…当時はなっ!」
「否定せんなぁ、ははは…」
「昆虫には辛かったが、成績は甘かった…」
「出来の悪いガキかっ!?」
「ああ。昆虫博士と出来の悪いガキじゃ、豪(えら)い違いよっ!」
「いやいや、それでも大したもんだ。俺なんか全(すべ)てが甘くも辛くもなかったからなぁ~」
「それって、どんな味だっ?」
「味がなかったってことよっ!」
「ははは…味は塩辛くっても甘くっても、ないとなっ!」
 二人の話をひっそりと聞いていた脇役の塩辛トンボは、やってられねぇ~やっ!…とばかりに、赤トンボを無視して夕闇
へ飛び去った。

                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (35)硬(かた)い

2021年06月25日 00時00分00秒 | #小説

 硬(かた)い・・にもいろいろあり、パスタの茹(ゆ)で具合の硬さから、あの人は硬いねぇ~~! と言われるような硬さまで、様々(さまざま)ある。甘くも辛くもない自己評価をすれば、私は甘くも辛くもない生き方をしていると思う。要は、鴨長明さんのような方丈的、兼好法師の徒然(つれづれ)な生活を送っている訳である。^^
 とある町で選挙が行われている。とある選挙事務所の若い私設秘書二人の会話である。
「アソコの票は硬いよっ!」
「いやぁ~そうかなっ? その見方は甘(あま)いんじゃないのっ! 僕は柔らかいと見てる…」
「柔らかい? 浮動票ってこと?」
「そう、それっ! 辛(から)く見ないと、田楽狭間(でんがくはざま)!」
「田楽狭間?」
「ああ、桶狭間」
「桶狭間はよく知ってるっ! 今川義元さんがチィ~~ン! のヤツだろ?」
「そう、それっ! 硬い票読みに越したことはないさ」
「なるほど…」
「先生も首を取られるのは嫌(いや)だろうからねぇ~」
「ははは…僕だって失業は嫌さっ!」
 世の中は甘くなく、辛く硬いに越したことはない・・というお話である。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (34)どぉ~しようもない

2021年06月24日 00時00分00秒 | #小説

 上手(うま)く諸事が進行していた矢先に突然、どぉ~しようもないことになってしまったことが皆さんにはないだろうか?^^ 私は、甘(あま)過ぎたそういう過去があるから、こうして書いている訳である。^^ さて、そうなれば、そのあとを如何(いか)に辛(から)く終息するか? にコトはかかってくる。上手く終息できなければ、コトは潰(つい)える。恋慕(れんぼ)する異性に失恋した場合とかはこの限りでなく、どぉ~しようもない。^^
 とある絵画教室である。室内には数人の生徒がいて、皿の上に置かれた同じ果物をそれぞれ描いている。指導する女性の塾教師が、時折り、生徒達の絵を覗(のぞ)き見て、アドバイスを与えている。
「穴耳(あなみみ)さん、このミカン、少し大きくないですかっ?」
 女性の塾教師は辛く指摘した。
「… ああ、このミカンですか。私、ミカンが好きですからなぁ~、ははは…」
「好き嫌いは絵に関係ないと思いますよっ!」
「すみません…」
「ほほほ…謝(あやま)るほどのことじゃありませんよ…」
 そう言いながら塾教師が別の生徒の方へ遠ざかると、穴耳は指摘されたキャンパス上のミカンを塗り潰(つぶ)した。いや、穴耳は塗り潰したつもりだった。ところがである。穴耳が塗り潰したのはミカンの隣りに描かれたバナナだった。
「ああ~~~っ!!」
 穴耳の声が教室内に大きく谺(こだま)した。
「どうしましたっ!」
 女性の塾教師が慌てて近づいた。
「先生、これ…」
 穴耳はキャンバス上の塗り潰したバナナを指さした。
「ワッ!! やってしまわれましたねっ! これはどぉ~しようもないです。もう一度、デッサンから始めて下さい」
「はい…」
 穴耳はショボく返した。
 このように、甘い状態を辛く処理しようとして、どぉ~しようもないことになる場合もあるから、皆さん、注意しましょう。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (33)良薬(りょうやく)

2021年06月23日 00時00分00秒 | #小説

 良薬(りょうやく)は口に苦(にが)し・・と、よく言われる。しかし、甘(あま)い良薬、辛(から)い良薬があってもいいのではないか…というどぉ~~でもいいような話である。^^
 とある薬局である。一人の客が店に入ってきた。
「あの…」
「はい、なんでしょう?」
「お薬は、みんな苦いんですかっ?」
「はあっ!? …ええ、まあ。一般的にはそう言われてますが、今はカプセルとか錠剤の時代ですから…」
 薬剤師は訥々(とつとつ)と客に説明した。
「よかった! ということは、甘いのとか辛いのとかも、あるんですよねっ?」
「うちは、お菓子屋じゃないんで…」
「なんだ、ないのか…」
「いえ、ないという訳ではないんですが…。レモン味、オレンジ味のトローチとか喉飴(のどあめ)もありますんで…」
「あるんですかっ! よかった!! 良薬ですよね、それって」
「良薬かどうかは分かりませんが、あることはあります…」
 薬剤師は、変な客だな…とは思ったが、そうとも言えず、笑って暈(ぼか)した。
 苦くない甘い、辛い良薬も、あることはあるようだ。^^


                   完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (32)苦(にが)い

2021年06月22日 00時00分00秒 | #小説

 甘(あま)い辛(から)いを通り越せば、苦(にが)いとなる。^^ どういうことか? といえば、まあ、そういうことだ。^^ この書き用では分からないから、もう少し詳しく説明すると、忘れようとしても忘れられない記憶・・それが苦いということになる。自然災害、肉親の不幸etc. 例を挙げれば枚挙に暇(いとま)がないが、時が経過しても忘れられないのは、流石(さすが)にぅぅぅ…と泣けるほど辛(つら)い。
 一人の老人がとある所で、バッタリと初恋の老女に出会った。むろん、逢う約束をして・・などというものではなく、飽くまでもバッタリと偶然、出会ったのである。
「やあ! お虎(とら)ちゃん、久しぶりだねぇ~~!!」
「… …竜(たっ)ちゃん!!?  誰かと思ったわっ!」
「ははは…僕も随分、変わっちまったから、気づかなかったろっ?」
「ほほほ…ええ、まあ。私だって、すっかりお婆さんになってしまったわ」
「まあ、それはお互いさまだよ。君に振られた苦い記憶は今も、まだ憶えてるからねっ」
「振った憶えはないんだけど、あなたの方から遠ざかったわっ!」 
「お猿(えん)ちゃんが、ダメだったと言ったからね。君の顔を見るのが辛くなってさっ!」
「お猿ちゃんがっ!? そんなこと聞いてないけど…」
「ええ~~~っ!!」
 このときから、老人の苦い記憶は甘く変化するようになった。二人は今も、茶飲み友達を続けているという。
 苦い記憶も甘く辛い記憶へ変わる場合もある訳だ。^^

 
                  完


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甘辛(あまから)ユーモア短編集 (31)対比

2021年06月21日 00時00分00秒 | #小説

 二つの物を対比したとき、見落として甘(あま)いと言われ、誰も気づかないところまで見つけて辛(から)いと言われるか、フツゥ~~に対比した方がいいのか? という話になる。私には分からない。^^
 とある鑑定大会でとある品が鑑定されている。二人の目利きが鑑定に鎬(しのぎ)を削っている。
「いやいや! それは、ないっ!」
「いやいやいや、これこそ猿翁寒山の一幅に間違いありませんっ!」
「そうですかぁ~? 本物、偽物の対比には自信があるんですけどねぇ~」
 二人の鑑定士は暫(しば)し、鎬を削った。が、しかしである。後日、その物は偽物でも本物でもない紛(まが)い物と発覚したのである。
 対比するのはいいが、対比する以前に甘辛は関係なく、よ~~~く調べる必要がありそうだ。^^

 
                  完


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