水本爽涼 歳時記

日本の四季を織り交ぜて描くエッセイ、詩、作詞、創作台本、シナリオ、小説などの小部屋です。

SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -96-

2015年10月31日 00時00分00秒 | #小説

「ふ~ん…そういや、少し変わった石ね」
 里子はそれ以上、追求せず、テーブルの上へ置いて去った。城水は慌(あわ)てて地球外物質を手にすると、少し不注意だったな…と反省しながら書斎へ急いだ。
 それから三年の月日が瞬(またた)く間に過ぎ去ったが、これといった変わったことも起こらず、城水家には平穏な生活が続いていた。一人息子の雄静(ゆうせい)も晴れて4年生となり、大人ぶったことを言うようになっていた。平穏な生活は続いていたが、城水自身は日々、気が気ではなかった。すでに、UFO群の最終判断が迫っていたからだった。城水は、ひた隠していたコトの事実を里子と雄静に話そうと、最近になり気持が変化していた。
 連休が迫り、五月晴れの春めいた日曜の朝、城水は庭の縁側に腰を下ろし、空をポカ~ンと眺(なが)めていた。
「どこかへ行く?」 
[ああ…連休だな]
 城水の胸中は、それどころではない緊迫感に覆(おおわ)れていた。
「混むしね…」
 里子は余り乗り気ではないどうでもいいような声で言った。城水は今だ! と思った。
[実は、お前達に言っておくことがある…]
 城水は意識的に高めていたテンションを下げ、クローン化した機械的な声で二人に言った。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -95-

2015年10月30日 00時00分00秒 | #小説

[それは、なぜだ?]
━ お前が我々と同じ異星人だからだ ━
 理解した城水は軽く頷(うなず)いた。城水の脳内数値も正解の青文字で示した。地球外物質は、お馬鹿な城水とこれ以上話すのが嫌になったのか、緑光を消し、沈黙した。
 UFO騒ぎからひと月が経ち、何事もなかったかのように城水家の日常生活が続いていた。よく考えれば、騒ぎとはいえ、城水以外に騒ぎと感じた者は、ほとんどなく、唯一、息子の雄静(ゆうせい)と受け持ち生徒の到真(とうま)がUFOを見た程度なのである。それも、らしきモノを見た・・というのが本人達の弁で、半分方は自分自身でも信じていないのだから、城水としてはひと安心だった。地球外物質も、あれ以降、鳴りを潜(ひそ)めて光らなくなっていた。ただ、城水が着る背広の外ポケットには相変わらず入っていた。そして、城水は? といえば、クローン状態で放置されたままUFOと別れ、テレパシーが使えるのは、地球外物質だけという状態だった。
「あなた…これ何?」
 ある日曜の朝、里子が背広をクリーニングに出すというので、なにげなくクローゼットに吊(つ)られた背広を取り出して言った。城水はその声に促(うなが)され、里子を見た。里子の手には、地球外物質が握られていた。城水は一瞬、ギクリ! とした。
[いや、なに…その、なんだ。この前、拾ったただの石さ。ちょっと変わってたから、持って帰ったんだ]
 平静を装い、城水はゆったりと里子に言った。真逆に、城水の脳内数値は、里子の言葉にWARNINGの赤点滅をし始めた。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -94-

2015年10月29日 00時00分00秒 | #小説

━ 簡単な話だ。3年後、地球が動・植物園化されたときの運搬、移動に使われるのだ。いわば、お前達が使っているインターネットのようなものといっていい ━
[それは、最終決定がされたときの話だろうが。もし、人間の価値が見直され、計画が白紙に戻されたときはどうするのだ?]
━ ははは…そのような人間志向の心配は無用だ。何もなかったことに復帰するだけだ ━
[言うことが理解できない]
━ 理解できないのは当然だろう。お前の脳内数値が詳しい解答を導くだろう。結論だけ言えば、何も起こっていなかった時空に戻(もど)るということだ ━
[私と家族はどうなる?]
━ 世話のかかるやつだ。何も起こらなかった過去へ戻ると言っただろうが… ━
 呆(あき)れたように地球外物質は突然、緑色の光を消し、城水へのテレパシーを停止した。脳内で響くテレパシーが消えた瞬間、城水は良出を抱え、考え込んだ。何も起こらなかった過去に戻るとは? と、城水が考え始めたとき、脳内数値が動き始めた。その動きは、いつもの動きではなく、映像入りでスローだった。それは恰(あたか)も、城水に解き教えるかのようだった。
[過去に戻るのか?]
━ ああ、今までの我々に関係した出来事は、すべて消え去るのだ ━
[私はどうなる?]
━ まったく、出来が悪い奴だ。過去に戻る以上、お前はクローン化していなかった以前に戻ることになる。ただ、お前だけは今までの記憶が消去されない ━
 地球外物質は機械的な声のテレパシーで城水を窘(たしな)めた。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -93-

2015年10月28日 00時00分00秒 | #小説

━ 坂のマンホールの下に我々が利用する地下駅が出来ていたのをお前は知っていたか ━
 地球外物質は城水へテレパシーを送り始めた。城水が異星人によって作られた地下駅など知る由(よし)もなかった。もちろん、指令に伝えられたことは知っていたのだが…。
[指令が伝えていない以上、私が知る訳がないだろうが]
 城水は即座に否定した。
[それは、そうなる。では、詳細を語ろう]
 城水としては別に語って欲しくなかったが、語るというのだから語られるしかない・・と脳内数値は従順or恭順した場合の数値を示した。反発して無視した場合のデメリットの数値と比較して、である。城水は、語られようじゃないか! と気分的には反発しながら従った。
━ 我々は、着陸した山麓とマンホールを中継する通路を作った ━
[ああ…]
 城水も、そのことは知っていた。ただ、瞬時に空間移動できるのに、なぜそんな通路が必要なのか? という疑問はあったのだ。今、地下駅のことをテレパシーで語られ、城水は、ようやくそのモヤモヤとした疑問が解けたような気がした。
[なるほど、そういうことだったのか…]
━ ああ、まあそういうことだ ━
 地球外物質には城水の思考が手に取るように分かっていた。
[そんな駅を作って、いったいどうするつもりだ?]
 城水に新たな疑問が浮かんだ。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -92-

2015年10月27日 00時00分00秒 | #小説

[あとは、お前に渡した物質の指示に従え]
 城水が駐車場へ歩き始めたとき、闇の中に指令のテレパシーだけが城水の脳裡に小さく届いて消えた。
 翌日の夜、UFO群は指令が城水に伝えたとおり、まったく痕跡を残すことなく消え去っていた。城水には、お見事と言うほかなかった。それは、城水の近郊の山々に降り立った一群に限らず、世界各地でも同じだった。
 飛び立つことなく地球に残った城水としては三年の間、異星人の最終決断を待つしかないのだが、このことは里子や雄静(ゆうせい)には細部の事情を伏せねばならなかった。地球は異星人達の執行猶予下に存在していた。だが、その事実を地球の誰もが知らないまま、時は進んでいった。城水には知らされていない異星人達の秘密が、もう一つあった。実は、城水家の坂の下にあるマンホールの中は異次元の地下駅になっていたのである。僅(わず)かな間に文明の利器を駆使して異星人達が作り上げた異星の駅は、その後城水家が、ここで待ち続けることになるのだ。現時点では家族はおろか、城水自身も知らない事実だった。その事実は地球外物質のテレパシー報告によって、不意に城水へ伝えられた。
 クローン化したとはいえ、城水もある意味で半分は人間であったから、UFO群が消え去ってひと月も経つと、次第に思考の変化で異星人感覚が薄れてきていた。
 そんなある日のことである。城水の緩(ゆる)んだ意識を覚ますかのように地球外物質が何の前兆もなく光り始めた。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -91-

2015年10月26日 00時00分00秒 | #小説

 ふと、足元に目を向けた城水は、UFO指令がマジックのように消えて以降、一歩も動いていないことに気づいた。そのときだった。急に上空から眩(まばゆ)い光がマンホールの蓋を目指して差し込み、蓋はふたたびスゥ~っと音もなく上昇し、浮かび上がったのである。そして、ふたたび指令がマンホールの下から宙に浮かび出た。
[フフフ…不測の事態は、どんなときでも起こり得るな。我々はまた、人間の予期せぬ一面を見たぞ。これは±(プラスマイナス)のどちらへも評価できる新発見である]
[そうなんです、人間には予期せぬ能力があります。それは無限の可能性でもあります]
[うむ、どうもそりようだな。だが、それは地球を破滅させる可能性でもあるのだ]
[はあ、それはまあ、そうですが…]
 気分はまだ、人間を弁護したかったが、指令に本筋を言われ、城水は引いた。
[与えた3年の猶予は、そうした人間観察期間でもある。我々は地球物質のみに拘(こだわ)り過ぎていたのだ。見落とした人間の本質は3年の猶予期間で分析され、解き明かされるはずだ]
[その結果によって…]
[お前が考えている通りだ。人間はほんの一部を除き消滅するか、あるいは今のまま生き続けるか、が定まる。では、さらばだ…]
[あっ! 指令!]
 城水がテレパシーを返したとき、すでに指令の姿は跡片もなく消え失せ、暗闇だけが城水の周りにはあった。もちろん、マンホールの蓋も元の状態で閉ざされていた。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -90-

2015年10月25日 00時00分00秒 | #小説

[私には理解できません]
[理解できなくていい。追々(おいおい)、お前の脳内数値がその原理をお前に教えるだろう]
 そこまでテレパシーを伝えたとき、指令の姿は忽然と城水の前から消えた。
「やあ、城水さんじゃありませんか。夜分、こんなところで、どうかされました?」
 城水がハッ! と振り向くと、そこには交番日直の若芽(わかめ)巡査が懐中電灯を片手に立っていた。マンホールの蓋(ふた)は、まるでマジックを見るかのように瞬時に閉じ、いつもと何の変化もなかった。
[い、いや…。大事にしていた万年筆を落としまして…]
「はあはあ、なるほど。探しておられたんですね?」
[ええ、まあ…そのような]
「そうでしたか。なんでしたら、ご一緒に」
[いや、いやいやいや、そのようなお気遣(きづか)いは…]
「ですか? じゃあ!」
 若芽巡査は敬礼すると、交番へUターンした。予想外のハプニングに城水は一瞬、焦(あせ)ったが、咄嗟(とっさ)に出た方便で事なきを得た。クローン化によって半異星人となる前の自分なら、恐らく上手(うま)く言葉が出ず、若芽巡査の職務質問を躱(かわ)せなかっただろう…と、城水はホッとひと息つきながら思った。すべては城水の脳内数値による瞬間計算とデータ判断のお蔭(かげ)だった。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -89-

2015年10月24日 00時00分00秒 | #小説

[いつ地球を離陸されるんですか?]
[明日の夜だ。むろん、その様子は地球人には見聞き出来ないがな。さて…お前は、どうする? 我々とともに行くか、それともこのまま地球に残るか?]
[はい…。今の心境はこのまま残りたいと思います。家族を連れていくことは、無理なんでしょうね?]
[無理ではないが、お前と同様の措置をせねばならんぞ]
[と、いいますと?]
[今のお前のように我々の星に適応する措置だ]
[どうなるんです?]
[ははは…どうもならさ。地球での記憶が消去されるだけだ]
[それじゃ、私達は家族ではなくなります]
[安心せよ。その記憶は存在する]
 城水は指令の言葉が理解できなかった。宇宙科学には地球科で到底、解決できない未知の分野が存在するように思えた。脳内数値は、その通りだ・・と城水独自の考えを肯定し、yes,文字を青く点滅させた。
[なるほど、私達は家族のまま、移住することになるんですね]
[そういうことだ。ただ、お前が今言った移住という感覚は我々が住む星の時空感覚とは違う。お前はすでにクローン化しているからすぐ馴染むだろうが、家族の者達が環境に順応するまで、しばらくかかるだろう…]
[空気とかは地球環境と同じなんですか?]
[その発想は地球科学の発想だな。我々の星は自由に環境を変化できるのだ]
 指令は、さも当然のようにテレパシーで話した。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -88-

2015年10月23日 00時00分00秒 | #小説

 不明な星雲からやって来たUFO群は、地球文明では考えられない高度な文明を築いていたのである。
 異星人間の会話は、すべてがテレパシー である。地球上の生物のような音による意思の確認や伝達という低レベルな情報交換はしないのだ。当然、指令と城水の場合もそうで、辺りに音等は一切しなかった。しかも、指令の姿や眩(まばゆ)く輝く光は城水には見えたが人間の目には見えないのだ。だから、若芽(わかめ)巡査の目には、見えたとしてもただ閉ざされたマンホールの蓋が見えるだけだった。城水の前に浮かびながら漂っているマンホールの蓋は、指令とともに異次元空間にあった。しかし、若芽巡査の目にはクローン化したとはいえ異星人でない城水の姿は見えるから、城水は心せねばならなかった。
[それで、お呼びになった理由は?]
[最終分析の結果が出た。あとは私の決断のみとなった]
[残念だが、どうも地球人達には反省の色が見えない。たださの反面、我々の発想にはない素晴らしい一面も持ち合わせていることが分かった。その点を考慮に入れれば、地球の動・植物園化は憚(はばか)られる]
[はあ、それで…]
[私は地球人達に三年の猶予を与えることにした。すべてはそのとき決するということだ]
[で、私はどうしろと?]
[我々は一端、地球を離れる。以前言ったように、残るか否(いな)かはお前次第だ。むろん、接近中の者達もUターンして星団へ帰還する]
 三年の猶予という指令のテレパシーに、城水は一応、ホッとした。城水はまるで自分が被告席に立たされた犯罪者で、裁判官から執行猶予の付いた判決を言い渡された気分がした。


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SFコメディー連載小説 いつも坂の下で待ち続ける城水家の諸事情 -87-

2015年10月22日 00時00分00秒 | #小説

 城水は、ゆっくりと歩き始めた。妙なもので、クローン化して以降の城水の足は、音をたてず歩くことが出来るようになっていた。しかも、懐中電灯がなくても暗闇を昼間と同じように観ることが出来るセンサー透視機能も備わっていた。その理由は城水自身にも分からなかったが、思考方法が脳内数値により正確に判断できるようになったことを考え合わせれば得心がいった。指定された待ち合わせのマンホールが次第に近づいてきた。交番の若芽(わかめ)巡査への注意を喚起するWARNIG赤色灯は、相変わらず城水の脳内で点灯したままだった。
 外気温、湿度、湧雲率、生体移動感知率・・などの数値が、城水の脳内で変わらず駆け巡り、あらゆる不測の事態に備えていた。城水は交番内を透視した。若芽巡査は、帳簿に目を通しながら、ウトウト・・と首を縦に振っている。この国は平和だな…と、城水は脳内数値とは別の感情で一瞬、思った。
 マンホールのすぐ横へ城水が立ったときである。マンホールの蓋(ふた)が音もなく開き、眩(まばゆ)い光が真下から上を目ざして輝いた。そして、中からはUFO指令がエレベータを昇るようにフワァ~っと空中に浮かび上がった。指令は、ちょうど城水と同じ高さで停止した。
[待たせたようだな…]
[いえ、それほどは…]
[フフフ…、嘘を言っちゃいかん。9:00過ぎに家を出たろうが]
 城水は、すべての行動は察知されているのか…と、改めてUFO群の高度な文明に驚かされた。


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