本があるような。生活

読んだ本の感想です、ジャンルは主に小説

シュール

2006-03-12 00:17:14 | おすすめの本。
『最後の物たちの国で』  ポール・オースター

絶望的な小説だった。
暗く、陰鬱で、全編を通して灰色のじっとりした空気におおわれてるいるみたい。

主人公の語り口形式で語られる内容は手紙で、それがこの本です。
その国がどこなのかも分からないし、
主人公が元いた安全で安楽な国がどこにあったのか、
またこれらがどこの世界に属していた国なのかもわからない。
(未来なのか、それとも私たちの今いる此処に似た「どこでもない、どこか」なのか…おそらく後者)

ある国で行方不明になったジャーナリストの兄を追って、
その国へ一人で探しに行くのが、主人公の女の子。

『戦場のピアニスト』を観た事があるのだけれど
その中にでてくるゲットーと、第二次世界大戦下の世界を
足して二で割ったような国みたいだと思った
(あまり想像して良い事ではないけれど…)

物資は困窮して、世相は荒み、明るいものや温かいものが出て来ない。
気が滅入るような商売が横行し(自殺請負人、安楽死クリニック…)
まともな社会は無いに等しい。
人はやせこけて、力なくばたばたと死んでいく世界。

もちろん主人公はもといた世界(国)にもどることができない
(まともな輸送手段は機能していない、糞尿から動力を得ているような国だ)
生き延びて、それだけでギリギリな生活を送っている、
その中で兄を探すこと、兄の消息を知っている人を探すこと、を支えに生き残っていく

この本が紹介されていたところである人が
「これはファンタジーではない、いつかくる未来だ」
みたな事を言っていたのだけれど、
あまりに怖いし、リアリスティックだ。
新聞紙のくだりなんてとくにリアルで、なんだかイヤになる。

主人公は本の中でしきりに、
この手紙が届くかどうかなんて分からないと言っている。
(実際読んでる限り届くとは思えない…どうやって届けたんだろう?)
だけど、文の途中でふっと『彼女はそう続けている』というくだりが入ったりする、
読んでる途中は分からなかったけれど、これは彼女の望むところへこの手紙が届いたという「印」なのだろう。
(それが何を意味するのか分からないけど)



「すばらしい」の意味がわからなくなりそうだけど
この本はすばらしい小説なんだろう、
でも今しばらくはもう一度読みたいとは思わない
…というか読みたくない、と思った。