
「違う! そうじゃない!」
昼下がりの高校の教室であゆの絶叫が響きわたる。
合気道や弓道で鍛えたので小学校4年生並の体躯とは思えない程の大声が出る。
「すみません、えと、あの、どこが?」 つДT)
あゆ達の副担任でこの四月から高校教諭になったばかりの若い女の先生が黒板ならぬホワイトボード前でおろおろしている。
「失礼しました私語です、廊下に立っています」
「いいいいです、気を付けて下さいね、では気を取り直して続きを……あきゃきゃきゃペンが!」
真っ直ぐに先生の目を見た後、深々と頭を下げるあゆに先生はかえって恐縮してしまいホワイトボード用ペンを取り落としてしまいわたわたしてしまっている。
大きな声だったのであゆが今居る教室と左右合わせて3教室が爆笑する。
今は教育を受ける権利がどうので滅多な事では退室にならないし廊下で立たせるのは体罰なのでそれもない。
あゆはそれを見越したのではなく武道家の端くれとして普通の態度だったがこれをよく思わない人も当然居て厳しい視線を背中に感じていた。
休み時間になりあゆの隣の女生徒が話しかける。
「もう、あゆったらあんな大声出してびっくりししたわよ」
「あなたが足臭いの? なんて言うから!」
「だってだって、あたた」
生真面目そうな男子がじゃれあうようなふたりにわざとぶつかる。あゆは直前で避けられたが相方が肘を打ってしまった。神経に障ったようで衝撃の割りに痛がる。
「じゃまだよ」
その男子生徒はあゆを睨む。
「ぶつかってそれはないでしょう?」
「いいよ、あゆ」
「よくない! 謝りなさいよ」
「授業妨害だよ」
「話が噛み合っていない、私に文句があるなら私に直接言えばいい」
「言っているだろう」
「最初から私に言いなさいよ、彼女にわざとぶつかるなんて」
「そうよそうよ」
それまで黙って見ていたクラスの女子が同調し始める。
「あいつさー、さっきの先生の事好きなんだぜw」
「だまれ!」
男子生徒は机の上にあったあゆのカンペンケースを掴み投げつけようとしたがとっさにあゆが彼の腕を取り掴み合いになる。こうなると小さな体躯でもあゆの土俵であっけなく腕を捻られ制圧される……と思いきやその男子はもう片方の手でカッターを取り出した。
あゆはとっさに手を離しスカートのポケットから足用のデオドラントスプレーを取り出し男子生徒の顔面に噴射して目潰しとした。
「こらっ! 何をやっている?」
正担任のベテラン男性教諭が飛び込んできた。