「ばか! いいかげんにしてよ!」
あゆは武道で鍛えた腹式呼吸を活かした大声で一喝する。
教室に居合わせた全員がびっくりして息を飲む。
ややあって固まっていた嵩は捨て台詞ひとつ無く黙って教室の外に出る。
はぁーっと息を吐くクラスメイト一同の中であゆだけは警戒を緩めない。
「ごめんね、あゆ」
「恵子は謝ることない」早口で開けっぱなしの教室の引き戸を睨むあゆ。
「何?」
洸も釣られて引き戸を注視した時、不意に廊下で非常ベルが鳴る。
「くそっ!」という声とバンッ! と何か鉄板を蹴飛ばすような音が聞こえる。
「来る!」
あゆは注意喚起のつもりで叫んだが女子を中心にパニック状態になる。
恵子や洸はあゆを信じ比較的冷静だが近くの席の女子数名があゆにすがり付く。
「何とかしてよ!」「ちょっ、離して」
頭ひとつ低いあゆは途端に身動きが取れなくなる。
不意にあゆ達が注視していた教壇寄りの引き戸ではなく後ろの引き戸が荒々しく開き消火器を持った崇が乱入して来る。
非常ベルはずっと鳴り続け初音ミク的な合成音声が警告音声を全館放送する。
「消火器が取り外されました、―――」場所はあゆ達の居る教室前である事を告げる。
都立秋葉原高等学校は近代的な高層ビルの中にあるので消火器ひとつとってみてもホルダーから外されると同時に先ずそのフロアの非常ベルが鳴り一定時間が過ぎても消火器が戻されないと全館放送が自動的に流れる。
この段階ではまだ火事とは放送させず消火器が取り外された事だけが伝えられる。
消火器がホルダーから取り外されると同時に防災センターの警報が鳴り、そこに詰めている警備員は監視カメラや各種センサーで真報(本当の火事)かどうか確かめつつ少なくとも1名は現場に赴く。
「こちらは防災センターです、ただいまの非常ベルは、あー……火事ではないようですがー?」
モニター越しでは状況がよく解らないのか警備員による間の抜けた全館放送が流れる。
崇は何か叫びながらあゆを中心とした女子数人に迫り消火器を噴射する。教室全体に女子の絶叫が響く。
周りの女子に力一杯しがみつかれ耳元で絶叫されあゆは身動きが出来なくなったが取り合えず何とかしゃがみこんだ。しかし目が開けられない、息も苦しい。咳き込んでしまう。
「なにやっとんじゃ? コラ!」
先ず先程の年配同級生が駆けつける。次いで近くの教室の先生や生徒が戸口まで入ってくる。後から後から何だ何だと詰め掛ける野次馬生徒と教室から出ようとする生徒で収集が付かなくなる。
駆けつけた警備員も人だかりに阻まれ教室内の状況が把握できない旨を防災センターに伝える。
その防災センターもマッチの火ひとつでも見逃さない熱源センサーが反応していないのに消火器が噴射されている状況が理解できず的確な指示が送れないでいる。
たまたま防災センターに詰めていた警備員の資質が低く消火器噴射=火災の図式から離れられないでいる。
「離せおっさん!」
「お前こそやめろ! コラ!」
ふたりが掴み合いになる。消火器は噴射が終わり床に転がっている。
「あーやめなさい、ふたりとも」
最初に近くの教室からから駆け付けた年配の教師が独り言のように諌めるが役に立たない。
女子生徒はともかく男子生徒も遠巻きに見ているだけである。なぜならある危惧があったからである。
「何やっている?」「離れなさい!」
他の教師と警備員が生徒を掻き分け入ってくる。
「てめーらじゃまんすんなああ! このくそアマぶっ殺してやる!」
男子生徒の危惧が現実となり崇がついにナイフを振り回す。以前のペン型ナイフのような小さなものではなく鞘付きの果物ナイフで恐らくは家庭科室から持ち出した物だと思われた。今は男子でも必修で家庭科がある。
「一線を越えたわね!」
あゆが咳き込みながらも立ちはだかる。全身消火剤で真っ白である。
「おまえのせいでもうメチャクチャだよ!」
「ばか! 自業自得でしょ」
年配同級生があゆと怒鳴り合って気が逸れている崇を殴る、果物ナイフが転がりあゆがすかさず蹴飛ばして教室の隅に送る。警備員が飛びかかり身柄を確保しようとしてまた掴み合いになる。
警備員は学校側からの要請により警棒は持たされていなくまた荒っぽい事もしないよう言われていてどうしても手際が悪くなる。
バチッバチッという音が響き警備員が弾かれたように倒れる。
「スタンガン?」
あゆが叫ぶ。教室の生徒教師が怖じ気づいて包囲網が緩む。
あゆは胸に挿してある丈夫なボールペン、タクティカルペンを右手に握り覚悟を決めて向かい合う。左手には例のフットスプレー。
(もうツボ押しじゃダメだ、目潰しのつもりで、でも私に出来る?)
バチッバチッと放電させながら迫る崇の目はもう正気じゃない。
不意に崇が姿勢を崩す。スプレーを噴射しつつ首筋にペンを突き立てようと肉薄すると崇の影にからサヨリが現れる。
サヨリは崇の後ろから無造作に近寄り膝の裏を蹴飛ばして姿勢を崩したところだった。サヨリはそのまま崇の髪の毛を掴み後ろに仰向けに引き倒すと鳩尾の上を踵で力一杯踏みつけ胸骨を纏めて4対8本折った。
胸骨は救急救命の世界では意識不明かどうかの確認でペンなどでゴリゴリ擦って確かめたりに利用されるくらい痛みを感じやすいポイントでそこを一気に折られるのは激痛である。
声も出ないくらい痛がりのたうつ崇の喉を踏みつけながらサヨリはあゆと目を合わせる。
「おまたせ」
あゆは武道で鍛えた腹式呼吸を活かした大声で一喝する。
教室に居合わせた全員がびっくりして息を飲む。
ややあって固まっていた嵩は捨て台詞ひとつ無く黙って教室の外に出る。
はぁーっと息を吐くクラスメイト一同の中であゆだけは警戒を緩めない。
「ごめんね、あゆ」
「恵子は謝ることない」早口で開けっぱなしの教室の引き戸を睨むあゆ。
「何?」
洸も釣られて引き戸を注視した時、不意に廊下で非常ベルが鳴る。
「くそっ!」という声とバンッ! と何か鉄板を蹴飛ばすような音が聞こえる。
「来る!」
あゆは注意喚起のつもりで叫んだが女子を中心にパニック状態になる。
恵子や洸はあゆを信じ比較的冷静だが近くの席の女子数名があゆにすがり付く。
「何とかしてよ!」「ちょっ、離して」
頭ひとつ低いあゆは途端に身動きが取れなくなる。
不意にあゆ達が注視していた教壇寄りの引き戸ではなく後ろの引き戸が荒々しく開き消火器を持った崇が乱入して来る。
非常ベルはずっと鳴り続け初音ミク的な合成音声が警告音声を全館放送する。
「消火器が取り外されました、―――」場所はあゆ達の居る教室前である事を告げる。
都立秋葉原高等学校は近代的な高層ビルの中にあるので消火器ひとつとってみてもホルダーから外されると同時に先ずそのフロアの非常ベルが鳴り一定時間が過ぎても消火器が戻されないと全館放送が自動的に流れる。
この段階ではまだ火事とは放送させず消火器が取り外された事だけが伝えられる。
消火器がホルダーから取り外されると同時に防災センターの警報が鳴り、そこに詰めている警備員は監視カメラや各種センサーで真報(本当の火事)かどうか確かめつつ少なくとも1名は現場に赴く。
「こちらは防災センターです、ただいまの非常ベルは、あー……火事ではないようですがー?」
モニター越しでは状況がよく解らないのか警備員による間の抜けた全館放送が流れる。
崇は何か叫びながらあゆを中心とした女子数人に迫り消火器を噴射する。教室全体に女子の絶叫が響く。
周りの女子に力一杯しがみつかれ耳元で絶叫されあゆは身動きが出来なくなったが取り合えず何とかしゃがみこんだ。しかし目が開けられない、息も苦しい。咳き込んでしまう。
「なにやっとんじゃ? コラ!」
先ず先程の年配同級生が駆けつける。次いで近くの教室の先生や生徒が戸口まで入ってくる。後から後から何だ何だと詰め掛ける野次馬生徒と教室から出ようとする生徒で収集が付かなくなる。
駆けつけた警備員も人だかりに阻まれ教室内の状況が把握できない旨を防災センターに伝える。
その防災センターもマッチの火ひとつでも見逃さない熱源センサーが反応していないのに消火器が噴射されている状況が理解できず的確な指示が送れないでいる。
たまたま防災センターに詰めていた警備員の資質が低く消火器噴射=火災の図式から離れられないでいる。
「離せおっさん!」
「お前こそやめろ! コラ!」
ふたりが掴み合いになる。消火器は噴射が終わり床に転がっている。
「あーやめなさい、ふたりとも」
最初に近くの教室からから駆け付けた年配の教師が独り言のように諌めるが役に立たない。
女子生徒はともかく男子生徒も遠巻きに見ているだけである。なぜならある危惧があったからである。
「何やっている?」「離れなさい!」
他の教師と警備員が生徒を掻き分け入ってくる。
「てめーらじゃまんすんなああ! このくそアマぶっ殺してやる!」
男子生徒の危惧が現実となり崇がついにナイフを振り回す。以前のペン型ナイフのような小さなものではなく鞘付きの果物ナイフで恐らくは家庭科室から持ち出した物だと思われた。今は男子でも必修で家庭科がある。
「一線を越えたわね!」
あゆが咳き込みながらも立ちはだかる。全身消火剤で真っ白である。
「おまえのせいでもうメチャクチャだよ!」
「ばか! 自業自得でしょ」
年配同級生があゆと怒鳴り合って気が逸れている崇を殴る、果物ナイフが転がりあゆがすかさず蹴飛ばして教室の隅に送る。警備員が飛びかかり身柄を確保しようとしてまた掴み合いになる。
警備員は学校側からの要請により警棒は持たされていなくまた荒っぽい事もしないよう言われていてどうしても手際が悪くなる。
バチッバチッという音が響き警備員が弾かれたように倒れる。
「スタンガン?」
あゆが叫ぶ。教室の生徒教師が怖じ気づいて包囲網が緩む。
あゆは胸に挿してある丈夫なボールペン、タクティカルペンを右手に握り覚悟を決めて向かい合う。左手には例のフットスプレー。
(もうツボ押しじゃダメだ、目潰しのつもりで、でも私に出来る?)
バチッバチッと放電させながら迫る崇の目はもう正気じゃない。
不意に崇が姿勢を崩す。スプレーを噴射しつつ首筋にペンを突き立てようと肉薄すると崇の影にからサヨリが現れる。
サヨリは崇の後ろから無造作に近寄り膝の裏を蹴飛ばして姿勢を崩したところだった。サヨリはそのまま崇の髪の毛を掴み後ろに仰向けに引き倒すと鳩尾の上を踵で力一杯踏みつけ胸骨を纏めて4対8本折った。
胸骨は救急救命の世界では意識不明かどうかの確認でペンなどでゴリゴリ擦って確かめたりに利用されるくらい痛みを感じやすいポイントでそこを一気に折られるのは激痛である。
声も出ないくらい痛がりのたうつ崇の喉を踏みつけながらサヨリはあゆと目を合わせる。
「おまたせ」