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秋風

アキバ系評論・創作

補足

2012-08-14 16:11:26 | Weblog
>「今日のエレベーターは絶好調ですから頑張って下さい、先生!」
ああそうか、blog判月下の舞姫vol.8で
>二人揃って同じポーズでメタボのお腹を揺らし息が上がっている。
とありますが今回のコミケに出した本では
エレベーター整備中だから10階まで自分の足で歩いて登ってきたから息をきらしている
と加筆したのでした。
だから今回あゆは昨日と違ってエレベーターは使えますよという意味で絶好調と言ったのです。
アップしなおそうか検討します。

それはそうとしてコミケ後、秋葉原の同人誌ショップとか行きましたか?
人が多くて大変でしたよ。それも普段いらしてない方がお盆休みやコミケのついでで来たので
勝手がわからず右往左往してしまって混雑に拍車を掛けています。
月下の舞姫/ZEROに書いた夏コミの頃エレベーターにトイレの芳香剤は今年はというか近年は見ていないような気がしますがどこかでやっているのでしょうか?
90年代後半、まだ同人ショップが珍しかった頃は確かにあったんですがやはり苦情が有ったのでしょうかね?

月下の舞姫vol.12

2012-08-14 15:59:01 | Weblog
「ネットは広大だが世間は狭いですな」
 思わずあゆの父が呻く。
 高校の職員室隣の会議室には教職員にあゆとあゆの父、男子生徒とその母親、そして何とした事か先日あゆ達の店舗権住居の入っているビルの前で騒いでいた初老の男が居た。男子生徒の母方の祖父だという。
 会議室の机の配置はカタカナのロの字型で窓際に男子生徒側、廊下側に秋月父娘、それ以外に教職員がふたりずつ計4人。教頭、正副担任と事務方らしき人。

(やはり弁護士さん連れてくれば良かったか?)
 幸先の悪い再会が先触れだったかのように合同三者面談は荒れる。
 先ず男子生徒の母は息子の振り回したペン型ナイフはペーパーナイフであり凶器ではないと主張する。
「この子は不器用なんですよ、なのに学校は乱丁落丁の教材ばかり寄越して」
 男子生徒の祖父は退職金でメード喫茶を起業をしいずれ孫を店長に云々。
「この親子に私の老後の人生設計が狂わされ今また孫が前科者にされようとしている」
 肝心の男子生徒本人、たかちゃんと家族に呼ばれている崇谷崇(タカタニ タカシ)は終始うつむいたままブツブツと何か言っているがよく聞き取れないのであゆの父は無視というか気にしないことにした。
「まず教材の乱丁落丁ですが私も娘からも聞きましたが入学式の後に渡された一部の問題集がそうだったようですね。でも1種類だけでは?」
「ひとつ発見したら30は! というじゃないですか!」
 崇の母が声をあげる。ゴキブリかよと呆れながらあゆの父はシステム手帳からプラ製の栞を抜き出してヒラヒラさせながら答える。
「羹に懲りて膾を吹くことはないですよ、定規で十分」
「わしらの頃は皆、小刀で鉛筆を削り、」
 崇の祖父がいきり立つ。
「時代が違いますし、そもそも女の子に手を上げた事が」
「そもそもあんたが悪徳不動産業者じゃないか!」
「先日のそれはこの件とは関係ないですよ。因みにうちは貸主で、ああ、あの不動産屋は私の父の登山友達だけあって山師っぽいところがありましてねぇ」
 教職員は特に教頭はただ黙って事の成り行きを見守っている。
(笑えよ、ここは笑いどころだぞ)
どっしりとした態度か漫然とした態度かの判断は分かれるところだ。
「崇谷君、私が授業中思わず大声出してしまったのが気に障ったのならその場ではっきり言えばいい。後からわざとぶつかってくるなんて卑怯よ、おまけにくだらないこの茶番は、」
 それまで俯いていた崇谷崇があゆの突然の発言も途中で激昂して立ち上がり教頭の後ろを通って秋月父娘に迫る。教頭はポカンとしている。
(これくらいでフリーズかよ、Windows Meの方がマシだぞ)
 最初からさして教職員を当てにしていなかった秋月父娘はさして驚かない。いわゆる想定の範囲内というやつだ。
「たかちゃんダメよ!」
 流石に母親は素早く反応するが声だけであたかも躾の悪い犬と飼い主のようである。
 あゆの父はこの会議室に着席してから盾になる自分のアタッシュケースをさり気なく机の上に置き不測の事態に備えていた。またシステム手帳を取り出した時に何かの役に立つかもと色々中身を出して置いておいた。
 その中には左上をA4、5枚をホッチキス留めしてある書類があったのでまたプリントアウトすればいいと思い、突進して来る崇の足元に放ってやる。不発に備えアタッシュケースのキャリングハンドルも掴む。 
 崇はモロに書類を踏みズルリと滑って転んだ。書類の束を踏むと紙同士は滑る反面、床と接した面と靴で踏まれた面はそれ程滑らないという差異の為に思いの外ツルリと派手に転んでしまう。ホッチキス留めした書類の束ではそれが最大限発揮される。
 すなわちコミケ会場のコピー誌は凶器である。
 崇が転びつつも勢のよく慣性の法則に従いこちらの方に突っ込んでくるのでアタッシュケースで最終ブロックする。母親の悲鳴が会議室に響く。
「いい声だ、オペラ歌手になれるぜ」
 振り向けば隣の椅子には娘のあゆが座っている筈だが居ない。鞄もない。
 あゆは何かあったら振り向かず素早く逃げろと言ってあった父の指示を守り、崇が教頭の薄くなった後頭部の頭髪をカンニングよろしく見たであろう頃には席を立ち、アタッシュケースにタッチダウン後初めて呻いた頃には階段をダッシュで下っていた。
「こら、廊下いや階段を走るな!」
「すみません、父が大変なんです」
 嘘ではない。事情を知らない先生の叱責を尻目にあゆは高校の入っているビルの外に出て念の為周辺を警戒しながら昨日の弁護士の先生に電話する。仕事中らしかったがこちらに来てくれるというのであゆは一安心する。

「午後の授業どうしよう?」
 やれやれとばかりにあゆはコーヒーの自販機に歩み寄ると先客が居た。自分と同じ背丈、黒髪長髪。自分の後姿を見ているようでギョッとする。ただ服装は自分は着ないようなツナギ服のようだ。よもや暴走族でもあるまいがあゆはそっと近寄った。
 その自販機は最近流行の前面がほとんど全て一枚の大型タッチパネル付きディスプレイで商品見本さえモニタに映し出された画像である。しかもそれは秋葉原らしく完全キャッシュレスタイプでsuicaのような電子マネーカードやおサイフケータイでなければ水ひとつ買えない。
 その先客は使い方が解らないのかリアル小銭入れを握り締めてコイン投入口を丹念に探しているようだった。何やら呟いているが日本語でも英語でもない。しかどこかで聞いたような気がする言語だった。
 先客に声を掛けようとしたその時、救急車のサイレンが聞こえて来た。
「崇谷君? 大事に?」
「(弁護士の)先生! 今何処ですか?」
 あゆはPHSをリダイヤルして大声を上げてしまった。
「「今着きました」」
 声がダブる。振り向くと携帯電話を握り締めた弁護士がやっぱりメタボのお腹を揺らしながら息を切らせていた。
「毎日運動して死ぬほど健康になりそうですよハァハァ」
 あゆは弁護士の手を掴んで高校に向けて走り出す。重い。
 ふとさっきの自販機を見ると自分と似た先客はもう居なかった。あゆは死期が近い人物がドッペルゲンガーを見るという事を思い出したが顔は見ていないからセーフと思うことにして再び弁護士を掴んだ手に力を入れた。重い。
「今日のエレベーターは絶好調ですから頑張って下さい、先生!」

月下の舞姫/ZEROとは?

2012-08-13 22:53:38 | Weblog
月下の舞姫本編の少し前の話です。
初出は去年の冬コミに発行した本です。
今回の新刊の巻末にも併録しました。

本編が4月上旬、新学期が始まって直ぐで桜も満開は過ぎて散り始めたけれど
まだ残っている時期です。
対してZEROはその前の月の下旬で10日くらい前ですね。
今回の冬コミではblog連載の加筆修正版でZERO版でニアミスした二人がようやく正式に出会うところまで書きました。
本編の方もまた明日から進めたいと思います。

月下の舞姫/ZERO

2012-08-13 00:42:08 | Weblog
in秋葉原

三月下旬は東京秋葉原電気街にとって書入れ時である。
 進学就職の節目で家電、パソコン、携帯電話がよく売れる。
 新たに上京した学生や社会人が地方には無いヲタク系アキバ系の商品を持ちきれない程買い込み難儀している姿も珍しくない。

「これからはクラウドだよな」
「なに? お父さん」
 
もともと秋葉原はこの不況下でも比較的活気のある街である。
 その主力商品は家電、パソコン、ヲタク向けコンテンツと移ろいはあり、また現状には色々賛否はある。
 しかしながらシャッターを下ろした商店ばかりが目立ち人が入っているのはコンビニか地元商店街の仇の大規模スーパーくらいのいわゆるシャッター商店街から見れば雲の上の存在である。

「知らんのか? クラウドとは……」
「そうじゃなくって! うちで扱っている商品とは関係ないって事よ」

 身長142cmのスリム体型、黒髪長髪の少女あゆは来月から地元の高校に進学が決まっているが未だに小学生とよく間違われる。概ね小学4年生女児の平均体格と同じなのだから無理はない。
 あゆと両親の住まいは秋葉原にある持ちビルのワンフロアで直下の別フロアは父が店主のパソコンパーツショップである。

 ちなみにクラウドとは端的に言ってデータを手元のパソコンや携帯電話に置かずネットワーク上のサーバなどに上げて置き利便性を図るシステムである。

「今度クラウド関係の訪問家庭教師をするんだよ、それ系の苦手な経営者相手に。あゆも来なさい」
「えええ、またマウスのダブルクリックから教えるの?」
「そういやな顔をするな経営者に対する営業の一環だよ」
「うん」
「『心を開かなければパソコンは動かないわ』くらい言ったらいい」
「暴走しそうね」

「それはそうとこの9.5㎜厚薄型ブルーレイディスクドライブの書き込み速度まだ解らないの?」
『スペック不明、デバイスドライバ無(win標準で×)、質問不可』と書かれた普通のショップではありえない、秋葉原でもジャンクショップ以外では珍しいコメント付きの値札を左手でピラピラさせ右手で極細サインペンをくるくる回しながら店内で店長の父親に迫る。
「俺のパソコンでも認識しないからな」
「壊れてんじゃないの?」
「いや工場のパソコンでは動いていたからな。まぁ誰かお客さんが解析してくれるよ」
 あゆの家のパーツショップはちょっと特殊で普通のパーツも勿論有るがES品(エンジニアサンプリング)を積極的に取り扱っている。文字通り一般的な量産品を作る前の一種の試作品なので親切な説明書は無く不具合があっても不思議ではない。

 Windows XP以降は標準ドライバでどんなものでも概ね認識して使えないことはないが一般のパーツショップは説明が大変だしクレームを恐れ置きたがらない。
 主なお客さんはどこかのメーカーのエンジニアやハイアマチュアが多く、新商品をいち早く研究する為に高額で不安定なモノを嬉々として買っていく。

 数日後「やったよ! 解析完了!」とか言いながら来店し自作のドライバや説明書、裏技集をドヤ顔で置いていく。itの権化とも言えるような種類の人種でありながらメールで済ませる人は居ない。
 精根尽き果てたのか、どうかするとその場でばったり倒れ救急車を呼んだことも一度や二度ではない。

 そんな彼らに店長は労いの言葉こそ贈れ全く無報酬である。精々あゆがウォーターサーバーから水を汲んで出すくらいである。
 誰が何を解析したかが壁やショップHPに張り出されているがペンネームというか解析ネームなので社会的にも評価を受けるわけではない全くの自己満足である。

「うちの解析マニアのお客さん達って飲まず食わず眠らずの漫画家みたいだよね」
「ありがたいことだよ」
「たまに臭い人が居るよ……」
「超高性能空気清浄機のES品探すよ同人ショップでも売れそうだな」
「夏になると電気街雑居ビルのエレベーターにトイレの芳香剤が置かれるよね、あれ失礼だよ! せめて目立たないようにレースで包むとかさ」
「昔は夏コミ帰りの特にキツい客に消臭スプレー直噴サービスとかしてたショップもあったよwin95の頃かな?」
「さー……びす?」
「片手に消臭スプレー、片手に冷却スプレーの有無を言わさぬ店頭W噴射! あの頃に比べると無茶苦茶な店は減ったよ接客態度が向上したというか」
 店の奥であゆの母親の爆笑する声が響く。主に家事や通販中心であまり店には出ない。小柄だがあゆ程ではない。

「私の生まれる前の秋葉原ってまるで戦場?」
 母親が淹れてくれた紅茶とお茶菓子のマドレーヌで誰も居ない店内で休憩しながらあゆは両親に尋ねる。
「ここ秋葉原は太平洋戦争復員兵が露天でラジヲを売っていた頃からずっと戦場だ。いや戦争は終わっていない、今でもだ」
 つけっぱなしのTVからどこかの紛争地帯の映像が流れる。
 何か叫びながら担架を搬送する衛生兵達、最後尾で背後を振り返りながら乱射する少年兵の画像に母親が顔を顰める。
「この映像はヤラセだな、撃ったら目立つよ黙って運べってんだ」
 父親がフォローを入れる。

「解釈にもよるけど現代の紛争の多くはその源泉を第二次世界大戦に見出すことが出来る。」
「うん、社会で先生も言っていたかな?」
「僕が子供の頃、あゆのお祖父さんがラジオ会館内でパーツショップをやっていてよく手伝いに行ったが別のショップで大量に買い込むロシア人のおじさんと知り合いになった」
「お父さんが子供の頃って米ソの冷戦期でしょ? それってスパイ?」
「正当な買い付けだよ、お祖父さん達は日ソ不可侵条約破棄を見た世代だから売らなかったりしたけどねそのロシア人のおじさんは自国の為にと真摯に頑張っていたよ、露助とか誹謗中傷されてもね」
 そのひたむきさに大人のかっこよさを見出しちょっと憧れていたであろう少年の日の父親にあゆは思いを馳せる。

「今、熱心なのは台湾やタイの人かな?」
 あゆはお店の常連さんを思い浮かべながらマドレーヌを紅茶に浸して食べる。何か昔のアニメのヒロインがやっていたのを父が気に入り娘に勧めたとかお客さんから聞いたが美味しいので別に気にしない。飼い猫の名がレインなのと関係有るとか。
「インドも頑張るな。カースト制の作られた時代に無かったit系は制度のしがらみの外なんで人気があるそうだ」

 秋葉原のトンデモ店員の話がいつの間にか現実の話になったがこの家庭ではよくある事である。ちょっとヲタク趣味があるが話題が豊富で娘の話でも耳を傾けてくれる父親をあゆは慕いよく店を手伝っている。

 あゆが来月から進学する都立秋葉原高等学校は秋葉原駅の近くにある単位制三部制の高校である。
 午前午後夜間の何れかのコースを取りバイキング料理のように好きな授業(必修授業もある)を一日4時限授業を受ければ最短4年で卒業できる。3年で卒業したかったら別の時間帯のコースの授業を追加で受ければいい。

 あゆは昼間部を取った。午前中は家の家事や開店前の用意をして昼から高校に行き夕方からまた家業を手伝うつもりである。その後の進路はまだ考えていない15歳である。

 オタク会館状態を経て今は建て替え中のラジオ会館で商売をしていたあゆの祖父はその進路に正直いい顔をしていない。
「娘を勤労学生にしなければならない程商売が上手くいかないのか?」
 今はパーツショップを息子に託し、引退後は念願だった晴耕雨読をする祖父母にこっち(鎌倉)に来いと言われたが都会育ちでなんだかんだと言っても父に感化されヲタク趣味のあゆにとっては秋葉原は離れ難く
休みの日に訪ねるに留めておいている。

 ヲタク趣味といってもあゆの場合は漫画や小説を読むくらいだったが中学生になってからは父親に連れて行ってもらったゲームセンターのフライトシミュレーションゲームが気に入り今では一端のエースパイロットである。

「ゲーセン、リニューアルしたそうだしちょっと飛んでくる」
「遅くならないでよ」
 母親が母親らしい事を言う。
「僕は常連の解析マニアにメールを出すか、このままじゃやっぱり困る」
 不思議な店よねと思いながらあゆは自宅兼職場のビルを出る。
 そのビルの一階は貸し店舗なのだがこの数ヶ月埋まらない。何か入っても長続きがしない。なにしろ秋葉原電気街としては辺鄙な場所にある。
 
 秋葉原電気街に秋葉原という地名は無い。
 JR秋葉原駅から銀座線末広町駅までのいわゆる秋葉原電気街と呼ばれるところは住所的には東京都千代田区外神田の一角である。
 
 秋葉原という地名は電気街の外れにある東京都台東区にある一角でほとんど商店はなくましてやアキバ系ショップは無い。

 あゆ達が住むビルのある場所はまさにその秋葉原である。
 
そんな場所であゆの父親が商売をやっていけるのは独自ルートで仕入れているES品とネットを通じた全世界展開、そしてパソコン家庭教師派遣業のおかげである。
 あゆの祖父が現役だった昔はこのビルは住居兼倉庫として使われ大型白物家電店の事務所としても貸していた。

 あゆはこのちょっと寂れてでもちょっと歩くと賑やかなここが大好きである。


 騒々しいJR線高架を潜り抜け中央通りに出てJR秋葉原駅方面に向かい歩くと外国の軍人の集団が買い物をしていた。海軍の艦艇が東京湾に入るとよく見受けられる光景だ。

 家電量販店が誰彼かまわず呼び込みをしている。最近は数ヶ国語に対応できるようだ。
 あの軍服は何処の国だろうかと思いながらあゆは駅の近くの大型ゲームセンターに入る。

 あゆがやるフライトシミュレーションは『月下の咆哮』という三軸回転するカプセル型の操縦席の中に入り操縦するリアルなタイプである。
 宙返りをすれば本当にカプセルが360度回転しカプセル内のモニタの情景もそれに追従する。

 人が中に入りグルグル回る大型筐体という事もあり常時ゲームセンターのスタッフが付いていなければならないので一回500円と高額なプレイ代金は安くなる事はない。家業の手伝いとはいえちゃんと労賃を貰っいるあゆだからこそ通えるとも言える。

 4点支持ベルトでガッチリ身体を固定しなければ起動もしない。
 個人の設定などが入った専用USBメモリを刺しコインを入れると画面上にあゆの乗機のスウェーデン製サーブJAS-39グリペンNGが現れる。
 ゲーム内のあゆのコールサインは「サラマンダー」で機体にも火喰蜥蜴が描かれている。

「ん、17時かソロ狩モードでいいや」
 中学生以下はゲームセンターでは18時になると追い出されてしまう。
 来月から高校生とはいえ今はまだ中学生のあゆには時間が無い。
 月下の咆哮には色々なゲームモードがあるがネットワーク上の空戦域で誰かと一騎討ちするのを通称ソロ狩と言う。誰もログインしていなければ自動的に対コンピュータ戦になる。

「これで5機目、ありがたみの無いエースね……」
 大型筐体という事もあり地方ではあまり月下の咆哮は置かれていないのでおそらくは上京組みの初陣であろうとあゆは推測する。
 次々にログインした敵機がうろうろしてはあゆに撃墜される。どうも同一人物が何度もコンテニューしているのかムキになってあゆと再戦するがまったく歯が立たない。
 逆上してリアルファイトに持ち込まれたら困るので同一人物を7回撃墜したところであゆはログオフして慎重にカプセルから出る。
 ネットワーク上の戦いなので必ずしも同じゲームセンター内に相手が居るとは限らないがここは秋葉原なので一番遭遇率が高い。
 ストリートファイターⅡの時代からゲーセンリアルファイト事件があったとあゆは父親から伝え聞く。
「おまえにコンテニューだ!」と叫ぶのかと想像し思わずニヤける。
「ん、余裕がある、大丈夫」

 あゆがカプセルから出るとふたつとなりのカプセルのハッチがのっそりと開く。
 フロワ内のモニタで観戦していた先ほどすれ違った軍人と同じ制服の一団がカプセルに殺到してプレイヤーを口々に責める。観戦武官が多いのとプレイヤーが小柄なのか何なのか相手の姿が全く見えない。

 英語でも勿論、日本語でもないので、あゆには内容は解らないがこれはかなりマジで熱くなっていると理解できた。

 相手のプレイヤーはもしかしてパイロットだったのだろうか?
 リアル系フライトシミュレーションとは言えやっぱりゲームなのでゲームシステムに慣れていなければ本職の戦闘機パイロットといえども勝てない。
 ましてや現代は機関砲で撃ち合う接近戦の訓練はあまりやらない。
 現代においてはゲームのようなドックファイトはニアミスの一種で事故のようなものだという認識が軍にはある。

 軍人の誰かが目ざとくあゆを指差し何か叫ぶ。「さらまんだ」と聞き取れなくも無い。
 マズイ! あゆは冷や汗を流す。カプセルにプレイヤーのコールサインが表示されるわけではない。モニタ上に対戦相手のコールサインが表示されるくらいだ。
 折りしも他のプレイヤーが居ないので彼らは確信を持ったようでネットワークがどうのと言っても通じないと思われた。
 あゆは生まれた時から身体が小さいので心配した父親は祖父の反対を押し切って護身術の道場に通わせていた。これまでも役に立った局面はあるがせいぜいクラスの乱暴者相手なのでこれまでとはまったく状況が違う。

 月下の咆哮は必ずゲーセンスタッフが居るはずなのにこんな時に限って居ない! あゆはポケットの中の防犯ブザーに手を掛ける。
 「とにかく人を呼ぶ! 火事だと叫ぶほうが人は来るかな?」
 自分に方針を言い聞かせていると不意にフロアの照明が非常灯以外落ちて暗くなる。
 印象を良くする為に普段は眩しいくらい明るいので暗闇に目が慣れないうちは動けない。

 軍人の一団はパニックを起こしている。本当に軍人か? コスプレじゃないのか? と思いながらあゆは勝手知ったるホームグラウンドの地の利を活かし脱出する。

 フロアから出て階段を下っていると背後から外国語の女の子の声があゆの耳に届く
「あの場に女の子は居なかったような気がするけど?」
 言葉は通じないがパニックを起こしているというよりはそれを諌めている感じに聞こえたのであゆは振り向かなかった。

 いつも月下の咆哮の傍に眠たそうに居るスタッフとすれ違う。あゆを見てニヤッと嗤う。
「電源を落としてくれたの?」とは聞かずとにかく脱出した。
「ああもう暫く来れないや、あの軍人達いつまで日本にいるのだろう?」

 三月下旬の東京秋葉原はまだ寒い。

コミケお疲れ様でした

2012-08-12 23:38:56 | Weblog
無料配布とはいえ文字ばかりの本が全て配布できました。
見本誌や身内配りを除いてもけっこうな数です。
お手に取って頂いてありがとうございました。

ではまた続きをブログで書かさせていただきます。

本日の新刊

2012-08-12 07:40:43 | Weblog
月下の舞姫blog判の加筆修正版です。
ようやく他人の空似? なダブルヒロインのあゆとサヨリが出会いました。
そういえばフルネーム出していませんでしたね。

秋月あゆ(アキズキ アユ)とSayori Akizuki(サヨリ アキズキ)です。
ふたりは同い年ですがあゆは秋葉原に住み地元の高校に通う高校一年生で
サヨリは東南アジアにある(架空)島嶼首相国連邦共和国の軍艦に乗り込んでいる艦載機のパイロットです。
乗り込んでいるフリゲート(実態はコルベットサイズ)が東京港に寄航中電装品にが壊れてしまい修理部品調達の為パーツショップでもあるあゆの家に行き偶然ふたりは会います。
格好良く言うと邂逅ですね。

まだまだSFしていませんが気長にお付き合い下さい。
ミスや間違いは後で修正するとして更新もこまめにやって行きたいです。

コミックマーケット82参加

2012-08-09 15:34:30 | Weblog
三日目 西館 ひー12b 秋風

放置が長引いて申し訳ありません。
鋭意製作中です。

とりあえずご一報まで。

今後の予定

2012-01-19 00:42:11 | Weblog
イベント参加確定は2/5(日)のコミティア99です。
さっき4/30のcomic1☆6に申し込んだところです。
後は夏コミですか。

肝心の出し物ですがあゆがメインの月下の舞姫秋葉原編と
さよりがメインのマラッカ編(仮題)ですね。
架空兵器などは図解したいのですが難しいです。
Googleスケッチアップという3DソフトやコミPO!
という漫画製作ソフトを使いこなせるといいのですが。

とにかく今年はいろいろやってみます。ではまた。

心機一転

2012-01-18 13:50:26 | Weblog
松が取れて成人式まで終わりましたが新年開けましておめでとうございます。
今年は良い年でありますように。

昨年大晦日のコミックマーケット81三日目には
多くの方にサークルに来て頂きましてありがとうございました。
blogは停滞しておりますが順次進めて参ります。

ではまた今夜に。

コミックマーケット80

2011-08-14 07:26:31 | Weblog
Y06a 秋風です。
新刊は設定資料集です。

長く放っておいて申し訳ないです。
パソコンも新調したのでがんばります。