僕の細道

<<「薬」として野菜を考えてみよう>>

<<「薬」として野菜を考えてみよう>>
名城大学薬学部・丹羽正武 教授
(2002年3月30日付 毎日新聞に掲載)


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* 私たちはなぜ毎日野菜を食べるのか *
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 日頃、私たちは食べ物に強い関心を持って生きています。例えば、空腹を満たしたい時、また、ビタミン、タンパク質などの栄養を摂取する時などです。しかし、食べ物の役割はそれだけなのでしょうか。中国では、古くから「食べ物は食べ物であると同時に薬である」という考え方があります。食べ物、とりわけ野菜における薬としての役割を科学的に検証し、野菜がいかに私達の健康の増進、維持に役立つかを名城大学薬学部・丹羽正武教授に伺いました。


<元気に長生きするために>

◎食べ物で健康に
 テレビや雑誌などでは、連日ガンや老化防止、糖尿病、腎臓病などに打ち克つための食事療法が取り上げられています。食べ物は薬だと考えているわけです。私たちにとって、健康が普通の状態だと考えると、食べ物は健康な状態に非常に密接に関わっているものととらえることができます。
 健康と相対する位置に病気がありますが、健康と病気の間に「未病(みびょう)」という状態を挟んでみます。これは、「健康ではないけれど、病気でもない」「まだ病気ではない状態」のことを指しています。健康診断などで「血糖値が高い」とか「血圧が高い」と診断されることがよくありますが、それはまだ病気ではない、この「未病」の状態です。そういうときに、食べ物によって健康へ戻しましょうということを指し示しているのです。

◎サルの食事療法
 私たちの祖先はサルだと言われていますが、野生のチンパンジーやゴリラに教えられることの一つに、食事療法があります。彼らは草食動物ですから、日頃は植物を食べています。ところが、時々普段食べない物を食べるそうです。そして、それを一週間くらい食べ続けると、また元の植物を食べる。なぜそうするかというと、寄生虫が増えて体調が悪くなった時にそれを食べるというのです。その食べ物を調べると、確かに寄生虫を駆除する成分が入っているということです。このことから、サルは「食」と「薬」というものをきちんと区別し、認識しているということが分かります。我々がサルから人類と呼ばれるようになってから10万年、20万年間もずっと、食と薬を区別して生きてきたのではないかと思われます。

◎レモンは薬である
 食べ物と薬の関係では、イギリスのジェームズ・リンドという海軍医のエピソードがあります。1747年当時、長期航海で壊血病にかかった船乗りに、レモンを食べさると回復するということを、リンドは発見したのです。これはビタミンCが見つかった1927年よりずっと以前のことで、レモンは食べ物ではなく治療薬であるといった見方をしていたわけです。

◎「医食同源」と「薬食同源」
 「食」と「薬」というのはどういう関係にあるかというと、時には「食」であり、時には「薬」であるといえますが、これは「医食同源」という言葉で知られています。同じような意味で「薬食同源」という言葉がありますが、これは「食」と「薬」とは非常に密接な関係があることを示しています。
 中国での「薬食同源」の考えを記した書物は古くは周の時代からありましたが、日本では江戸時代の頃に出始め、明治になり「日本薬局方」という薬に関する規定を載せた本が出版されました。この本は薬のバイブルのようになり、昨年も改定されましたが、その中にはいろいろな食べ物が薬として記載されています。たとえば、ショウキョウ、サンヤク(山芋)、カッコン、クズ、ハッカ、サンショウ、ウイキョウ、サフランなど、普段私たちが食品としてよく使用しているもののほか、ダイズ油、ゴマ油も薬として認められています。

◎「食」と「薬」の区別
 そもそも薬の定義とはどういうものなのでしょうか。薬事法第2条では、医薬品は「日本薬局方」に収められているもののことを言います。一方、食品衛生法の第2条では、すべての飲食物、つまり口から入るものはすべて食品であると定義しています。ただし、医薬品と医薬部外品は除くということです。このように、非常に密接な関係にある「食」と「薬」を、野菜を例に検証してみましょう。

◎野菜とは何か
 私たちは日頃、特に意識することなくいろいろな形で野菜を食べています。みそ汁にしたり、漬物にしたり、煮付けにしたり、サラダにしたりと様々ですが、日本人は一日平均140~160グラムくらいの野菜しか食べていません。しかし、厚生労働省によると、人間は毎日300グラム以上の野菜を食べる事を推奨しています。確かに、現代人は野菜不足といわれますが、なぜ野菜が必要なのかという疑問が生まれます。いったい野菜とは何なのか。人間はサルからヒトへと進化し、そして今日までの長い時間をかけて、いわば人体実験を繰り返し、「この野菜はまずい」だとか「この野菜は栄養がない」といった試行錯誤の結果、現在の野菜が残ったのです。

◎フリーラジカルの影響
 フリーラジカルがどのように私たちの体の中で影響を及ぼすかというと、高血圧、動脈硬化、肥満、ガン、白内障などの老化に関係してきます。そういったフリーラジカルを野菜の中の抗酸化作用が解消してくれると考えると、野菜の重要性が分かってきます。バランスよく、いろいろな種類の化合物のある野菜を食べれば、いろいろな種類の抗酸化物質が体に入ります。それぞれの成分が役目を果たし、フリーラジカルをなくすのです。

◎抗酸化活性のヒミツ
 私が小さい頃、祖母に「野菜を食べると血がきれいになるから、たくさん野菜を食べなさい」とよく言われました。そこにヒントがあり、血がきれいになるというのは活性酸素が影響しているのではないかと考えたのです。
 カイワレダイコン、シュンギク、アスパラガス、ホウレンソウの抗酸化活性について調べてみますと、同じように抗酸化活性か強いと言われているカイワレダイコンとシュンギクでも、分析してみるとその成分の違いがある事が明らかです。カイワレダイコンはなぜ活性が強いかというと、そこそこの強さの活性殿者が非常に多量に入っており、シュンギクは活性度がビタミンCの約10倍くらいの非常に強い活性度のものが入っている。つまり、活性度の強さだけではなく、量も関係してくるわけです。ホウレンソウはビタミンCの5倍くらいのものが入っています。一方、アスパラガスは活性度も弱く、含有量も少ない、つまり全体としても抗酸化活性が弱いということです。(だからといって、アスパラガスが悪いというのではなく、アスパラガスにはほかの効能、役割もあるということをここでつけ加えておきます。)野菜の抗酸化活性分は4つに分けられ、その比率と量が違うために差が出てきます。いろいろな野菜を食べると、それぞれのものがバランスよく体の中に取り込まれるというわけです。
 例えば、電車が走っているときのレールはピカピカに光っていますが、しばらく走っていないとレールはさびてきます。鉄が酸素と反応して酸化鉄になるのです。私たちの体もこれと同じで、酸素を必要として生きていますが、余分な酸素と反応し、さびていくというわけです。抗酸化物質は、そういった余分な酸素との反応(フリーラジカル)をなくす役目があるのです。

◎祖先に敬意を
 サルが食と薬の区別を認識してから1500万年。そして人間になってから約10万年から20万年もの長きにわたって、私たちの祖先はいろいろな実験を繰り返し試し、その地域に適した食文化を形成してきました。そこには、空腹を満たすだけではなく、滋養強壮、明日への活力、健康を維持するために考えられた食生活が根付いています。そして、そういうものを体系づけしてきたのが東洋医学、あるいは漢方医学ではないでしょうか。
 私たちの祖先、昔の人たちは本当に偉かったと敬意を払って、そして尊び、今まで生き抜いてきた自分に自信と誇りを持って、これからも元気に生き抜いていくべきだと思います。



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* 始めよう! バランスのとれた食生活 *
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 日本の食生活はとても豊か。ありとあらゆる食材が手に入り、世界中の料理を賞味することができます。しかしその一方で、朝食抜きやお菓子が食事になるなど、不規則で栄養が偏った食生活をしている人も多いようです。健康的な食生活のために、すぐに実行できることから始めてみませんか。


◎健康への関心と実践にギャップ
 健康に関心はあるが自信が持てない・・・。アサヒビールお客様生活文化研究所が、首都圏の男女1000名を対象にインターネットで行った「第1回食と健康のセンサス」意識調査で、こんな結果が出ました。
 89%の人が「健康に関心はある」と回答しているのに対して「健康に自信がある」と答えた人は半分以下の41%。健康な生活のためには「野菜をたくさん食べる」「3度の食事を規則正しく」「栄養が偏らないように気を付けて食べる」など、基本的な食生活が重要である事は認識されているようですが、それを実践できていると答えた人は少なく、知識としてわかっていても行動が伴っていない様子が見受けられます。

◎日常的にレモンを採ろう
 働き盛りの30代から40代になると、生活習慣病が気になります。原因として、動物性脂肪の採りすぎや運動不足などが考えられています。また最近の研究では、活性酸素が血管系疾患やがんなどの生活習慣病を引き起こす原因の一つであるとわかってきました。この活性酸素の発生・活動を抑える働きをするのがポリフェノール。赤ワインやココアなどのほか、レモンにも含まれていると言われ、日常的に摂取することが生活習慣病の予防につながるという説も。地中海沿岸の国々では、オリーブオイル、適量のワイン、レモンの抗酸化力が注目され、「地中海式ダイエット」といった言葉があるほどです。
 肉類や揚げ物が大好物なら、レモン汁を使った魚の南蛮漬けや、肉と野菜のレモンドレッシングサラダなど、レモンをたっぷりと使ったメニューを工夫してみてはいかがですか。

◎人にも環境にもやさしいお米
 日本人の食事といえばやはり白いご飯。お米をとぐことは食事作りの基本中の基本です。しかし時間のない主婦にとっては少々面倒な仕事です。また環境問題に関心のある人は、とぎ汁をだすことが気になるかもしれません。
 そこで、最近話題になっているのが無洗米という便利なお米です。工場でヌカを取り除いているので、とがずに水に浸して炊くだけ。とぎ汁を出さないので、川を汚しませんし、水の節約にもなるとか。野外での飯ごう炊さんにも良いかもしれません。
 この春には、JAあいち経済連から農薬や化学肥料の使用を減らしたコシヒカリやあきたこまち、さらにビタミン、ミネラルが豊富な5分つき精米、食物繊維が豊富な胚芽精米なども発売されます。美味しくて、しかも環境に優しいのなら試してみる価値はありそうです。

◎昔の食生活を見直そう
 病気や老化が気になる中高年以上の世代では、食と健康に関心を持っているひとが多いようです。今後高齢化が進むにつれ、単に長生きするだけでなく、健康に過ごしたいと考える人はさらに増えることでしょう。では、健康で長生きするためには、どのような食生活が良いのでしょうか。
 長寿者の多い地域の食生活を調べてみると、いくつかの傾向があるようです。例えば、野菜やイモ類、乳製品、豆類、魚類などをたくさん食べる、海草も適度に食べるなど。栄養素でみると、たんぱく質や食物繊維、ビタミン、ミネラルが多く、塩分や脂肪分の摂取は少ないようです。カロリーを採りすぎになりがちな現代の食生活を反省し、昔の食生活を見直してみたほうがよいのかもしれません。
 食事だけでなく、ウォーキングなどで毎日適度に体を動かすこと、くよくよせずおおらかに生きることも心掛けたいものですね。

◎自炊に野菜を取り入れるコツ
 春、就職や進学でひとり暮らしを始める人も多いことでしょう。若い世代の食事は外食や、中食と呼ばれるできあいの食事が多く、自炊の場合でも野菜不足になりがち。その理由として、外食に野菜を使ったメニューが少ない、野菜をまるごと1個買っても食べきれない、洗ったり切ったりの下ごしらえが面倒なことなどが考えられます。でも環境が変わり、体調を崩しやすいときだからこそ、バランスの良い食事を採りたいものです。
 少しずつでも、野菜を食べるための工夫をしてみましょう。食事の彩りの美しさは、栄養バランスのバロメーター。もし赤が無ければプチトマトを足す、緑が無ければおひたしを加えるなどしてバランスをとります。下ごしらえが面倒なら、旬の野菜を使いやすい大きさにカットしてある冷凍野菜を。一食分だけさっとゆでたり、レンジ加工するだけで手間いらず。缶詰やレトルト食品と併用すれば、シチューやグラタンもあっという間ですし、サトイモやレンコンなどが入った和食素材なら煮物も簡単です。食生活は日々の積み重ね。毎日できることから少しずつやってみては。

◎「親子で料理」は一石三鳥?
 親にとって子供の好き嫌いは、大きな悩みの種です。最近の研究によると、甘味、塩味、うま味は本能的においしいと感じられる味で、酸味、苦味などは経験によっておいしいと感じられるようになるものとか。苦いものをあまり食べたことのない子供が、ピーマンなど苦味のある食べ物が苦手なのは、当たり前なのかもしれません。でも、いろいろな味を経験することで、だんだんおいしいと思えるようになるそうです。
 また、おいしさは本来の味だけでなく、色や見栄え、食事をするときの雰囲気などにも影響されるものです。小食な子供でも、のりやふりかけで好きなキャラクターを描いたお弁当なら全部食べられるのは、その一例でしょう。
 子供の好き嫌いをなくす方法の一つとして、親子で食事づくりをしてみるのも。サラダのような簡単なメニューでも、野菜を洗ったり、切ったりすると、子供は自分で調理をしたという達成感を感じ、食べてみようという気になります。
 料理は親子のコミュニケーションをはかる絶好の機会です。日常のお手伝いはもちろん、休日のアウトドアでのバーベキューなどもチャンス。そのような経験が、子供が食についての興味を持ち、何でもおいしく食べられるようになるための下地になるのではないでしょうか。
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