たぬきの美術研究室

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ムーラン・ルージュに入るラ・グーリュ(ロートレック) 6.1更新

2011-06-01 | 美術(西洋)

今日の一枚は、19世紀末のフランスを生きた貴族出身の画家、アンリ・ド・トゥール・ロートレックが1891年に描いた

「ムーラン・ルージュに入るラ・グーリュ」です。

両腕を引かれている女性は、世紀末のフランスで一斉を風靡したキャバレー「ムーラン・ルージュ」のトップダンサー、ラ・グーリュです。

「ムーラン・ルージュ」は現在もフランスのモンマルトルに存在するキャバレーで、

今回の作者はキャバレーに訪れる客やダンサー達を描き続け、お店の宣伝用ポスターで

画家としての脚光を浴びた人物でした。

 

しかし、この女性の顔・・・なんか、悪意があるように思えませんか?(笑)

普通、肖像画や自画像って、本人より美形に描かれることが多いものですが

ロートレックは決して女性を美しく描くことは無かったそうです。

キャバレーやナイトクラブで客を待つ、いわゆる娼婦の姿を描いた作品もありますが

皆体つきや顔はお世辞でも「美人」といえるような感じではありません。

なぜ、そんな描き方をしたのでしょうか。

 

ロートレックは裕福な家庭に生まれ、たいそう恵まれていましたが、

当時富裕層に多かった「近親婚」により、病気がちでひどく虚弱な体だったそうです。

そして、2度の事故で足の成長が止まってしまうという悲劇があり、身長は153cmほどしかなかったとか。

見世物小屋で見かける「小人症」の人にわずか及ばない、”一般人”とみなされるにはギリギリの体型だったそうです。

そのせいか、普通の生活を送る人にはあまり目をむけなくなりました。

代わりに、アンダーグラウンドで暮らすキャバレーのダンサーや、娼婦に対して強い関心を持つようになり、ムーラン・ルージュや娼家に通い続けるようになりました。

そして、生来好きだった絵で暮らしていくことを決めたロートレックは

通いつめたキャバレーで人物画を描くにあたり、醜い部分を包み隠さず表現してゆくスタイルを貫いたそうです。

ロートレックと親交の深い人々を描いていたのですから、そこに悪意は決してなかったと思います。

 

でも、そのような描き方ですから、キャバレーの女優さんやダンサーには

肖像画を描いても否定されたり、受け取ってもらえなかったことも多かったそうですが

ロートレックの描く人物像は、皆相応に活き活きとした生命力が感じ取れると思うのです。

有名絵画の美女のなかには「ほんとにこんな人間いるのだろうか?」と思いたくなる絵がありますが

ロートレックの描く人々は、「時代を生きてる」というリアルな姿が浮かんで見えるんですよねー。

味わいのある顔つきがロートレック絵画の魅力なんですね。

 

 

<たぬき>


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2 コメント

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Unknown (おでん)
2011-06-01 23:24:08
ちょうどPCの前にロートレックのカレンダーがあった(笑)

「時代を生きてる」っていうのはなんか納得。
絵の人物がその姿や雰囲気、背中で語っているように感じるよ~!

私は「騎手」が好きだな。
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お返事 (たぬき)
2011-06-03 23:10:08
おでんさん>

カレンダーいいなぁ~

「騎手」拝見しました!
製作は1899年。ムーラン・ルージュが開店となった年に描いたようです。
静止画(当たり前か)だけど疾走感があっていいね

ロートレックは、キャバレーで人物画を描くようになるまでは
もっぱら動物、特に馬を書くのが大好きだったとか。
人間は美しく描かないけど、馬はとても美しく描いたという話もあるくらい(笑)
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